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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-6-2.天正寺に対して【陣野卓磨】

「な、なぁ、よかったのか?」


「何がだ?」


 ツカツカと先を進む影姫に声をかける。

 今俺が頭に浮かべているのは桐生の事ではない。それは恐らく影姫も分かっているだろう。

 桐生との話を終え、隣のクラスの前を通り過ぎる時、天正寺の姿が見えたのだ。その時、天正寺は何か言いたげにこちらに視線を向けていた。


「天正寺だよ、なんか言いたそうだったけど……」


「どうせ私と桐生との立ち話がチラッと耳に入って同じ考えでも持ったんだろう。足手まといはいらないとさっきも言っただろ」


「話くらいは聞いてやってもよかったんじゃないか?」


「卓磨、私はあの女が嫌いだ。それにアイツは前に受けた傷も治りきっていないだろう。だがしかしだ、出来れば口も聞きたくないが、連れて行けば肉壁くらいにはできるだろうし、その上で別に死んでくれてもいい。それでもいいのか?」


「いや、流石にそれは良くはないけど、なんかさ……なんつーか、可哀想っていうか……伊刈の件以降あいついつも一人だしさ……」


「あの時の態度を見てあの女に気でも行ったのか? そう言うのを気の迷いと言うんだ。それに、それだけの事をしでかしたんだ、あの女は。その上でよくのうのうと学校に登校できるものだ。神経を疑うな」


「いや、気が行ったとかそう言うんじゃなくて……ほら、なんつーかよ、あいつの家、親が政治家じゃん? 学校不登校になると色々と厳しいんじゃないの。家ってやっぱ安心できる場所でありたいと思うし、家に居辛くなったらソレこそ、なんだ、アレじゃん」


 俺のその言葉を聞いて、少し前を歩いていた影姫が足を止めこちらに顔を向ける。その顔は俺に対して明らかに呆れたと言う顔だった。


「あのな卓磨。不要な優しさや憐れみをもって接していると、後で余計な感情を抱かれて面倒臭くなるだけだぞ。声をかけられたのなら話は変わるが、声もかけずにおどおどしてるような奴にこちらから声をかける必要も付き合う必要もない」


「それはまぁ、そうかも知れんけど」


「声をかけようとして結局声をかけてこなかったんだ。どうせ目玉狩りの時の事を思い出して命が惜しくなったんだろう。何も出来ずに無様に死ぬ様子を見せられるなら、あのまま大人しくしてくれていた方がいい」


「でもなぁ、反省はしてるみたいだし。話くらいは……」


「反省で人が生き返るのか? 反省で人々に深く刻まれた恐怖の記憶を消し去る事ができるのか? アイツのしでかした事が原因で大勢の人が亡くなり恐怖した事には変わりが無いだろう。伊刈早苗の虐めに関わっていた奴等は自業自得だが、食事処の事件では関係の無い人間が大勢殺されたんだ。反省しただけで罪が全て償われるのだとしたら、世の中には何の苦労も無いし、犯罪だらけだ。死には死を以って償うべきだ」


「いや、それはさすがに。生きて償う選択肢くらいあるだろ」


「なんだ、今のこの国は殺人に対する死刑も無いのか? 私の元いた国では私利私欲による同種族の殺人は問答無用で死刑だったぞ。庶民階級だけの話だったがな……。何にせよ呆れるな。罪に対する罰が温過ぎる」


「いや、一応あるけど、その辺の論争はキリが無いし荒れるから……」


 俺が言葉に詰まると影姫の目つきがきつくなる。


「卓磨、食事処の件の時は私も燕と一緒に現場にいたんだ。燕も外からだが、人が殺されているところを見てしまっている。その場ではその場しのぎの言葉ではぐらかしてごまかしたが、いろんな媒体で散々報道されていたから燕もあの事件の事は恐らく知っているだろう。間接的にも恐怖と言う感情は広まっていくんだ……」


「それは……わかってるけど」


「ならもう何も言うな。死にたい奴以外は放っておけ」


 影姫はそう言うと、機嫌を損ねたのかプイッと顔を逸らし足を速めて先に歩いていってしまった。

 影姫が先に行ってしまった事によりサラッと流れてはしまったが、今確かに「私の元いた国では」と言っていた。また何か思い出したんだろうか。それとも、ただ今まで口にしなかっただけか……。

 しかし、怒っているであろう影姫の背を見ると、俺には聞く事が出来なかった。


 渡り廊下を渡り、部室棟の一番奥にあるオカ研の部室前に到着する。

 ここに来るといつも思い出す。あの時は強がってはいたが、本当に怖かったし死ぬかと思った。壊されたのは隔離された異次元だった為に破壊された痕跡は一切残っていないが、俺の記憶には深々と刻み込まれている。

 刻み込まれたと言えば俺の腕もだ。まだ少し痛む時がある。最初の傷よりも、後でえぐられた部分が酷かった為、治りが遅い。


 部室の前には先に歩いていった影姫が俺の事を待っていた。影姫はまだ部活に入部したばかりで鍵を持っていないからだ。

 早く開けろと言わんばかりの視線を受けつつ、鍵穴に鍵を差し込む。まわすとガチャリと音を立てて鍵が開いた。


 ガッ!


 ドアを勢いよく開けようとしたが開かなかった。

 影姫が馬鹿を見るような目でこちらを見ている。

 何かものすごく悔しい思いで頭がいっぱいになった。


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