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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-5-1.金田は見たらしい【陣野卓磨】

「ちょっおぉぉっとぉ! 聞いたぁ!?」


 また隣の席から兵藤達の騒がしい声がする。

 またか、またなのか。頬杖をついたまま、相手に気がつかれない様に視線だけを横に向ける。

 そこに見えたのは兵藤叶ひょうどうかなえ七瀬菜々奈(ななせななな)の五月蝿いコンビが霙月みつきに絡んでいる状況だった。

 目玉狩りの時にも見た光景だ。また絡まれると面倒臭いので今度は気をつけよう。


「え? な、何かな……?」


 答える霙月も突然の大声に、肩をビクッと震わせて驚きを隠せない様子だ。


 今は休み時間。通常の休み時間で十分程度なので教室にいる生徒も多い。そんな中で恥ずかしげも無くよくこんな大声を出せるものだ。


「でた、出たのよ! 都市伝説でも噂名高き赤いチャンチャンコが! クゥ~」


 兵藤が両手で拳を作り、気張るような姿勢で力んでいる。七瀬もそんな兵藤を見て、横でうんうんと頷いている。

 またしょうもない話を……どっから持って来るんだこいつらは。またあれだろうか。七瀬刑事か。


「あ、赤いチャンチャンコ?」


 霙月はその辺の話はあまり詳しくないようで、頭にハテナを浮かべている。赤いチャンチャンコは少し古い話でもあるので、都市伝説に興味がなければ知らない人も多いだろう。

 だが、俺はその手の話はそこそこ知っている。オカ研で得たという知識ではないが、インターネットのまとめ動画などでたまに目にするからだ。


 しかしどれも所詮、幻想・妄想・作り話だ。

 と言いたい気持ちもあるのだが、先日の件もある。

 それが出たと言う話が、一から十まで全て信じられないと言うわけでもない。しかし、前の様にこちらに話を振られても面倒臭いので視線を少し逸らして素知らぬ顔をする。


 それにしても赤いチャンチャンコとか古臭いネタだな……。


「そう! C組の金田かねたさんが見たんですって!」


 C組の金田蘭子かねたらんこと言えばオカ研の部員だ。

 目玉狩りの件があってからは、そっち方面の知識ももうちょっと頭に入れておくかと思い、最近は部活に少し顔を出しているのだが、前は部活にほとんど顔を出していなかったのもあり、あまり口を聞いた事も無いので金田がどういう奴なのかはまだ詳しくは知らない。

 ただ、新入部員で後輩の長原に聞いたところ、金の話ばかりするがめつい奴らしい。一言で表すならば〝守銭奴〟との事だった。

 まだ短い付き合いの後輩にそこまで言われるくらいなのだからよっぽどなのだろう。

 

「それと、私もお父さんが電話しているのを盗……いや、電話しているのが聞きたくも無いのに壁を突き抜けて聞こえてきたんだけど、ほら、この間さ、霙月みっちょの家の近くにある呪いの家の前でさ、通り魔の殺人事件あったじゃん? アベックが殺された奴」


 また盗み聞きをしたのか……。

 しかしアベックとはまた古い言い回しだな。コイツはいつの時代を生きているんだ。

 ともあれ、七瀬刑事も盗み聞きされているのに気付かないもんなのだろうか。刑事の勘ってのは存在しないのか。


 呪いの家か……。俺の家もその家の近所で、その家に関しては聞いた事がある。なんでも、住むと不幸になるらしい。今まで幾つもの家族がそこに住み、何らかのトラブルを抱えて出て行ったなんて噂はちらほらと聞いた事がある。

 何処で聞いたと言うとこれまたオカ研だ。去年数回強制的に部活に連れて行かれた時に前の部長や紅谷が話しているのを聞いた記憶がある。


「なんでも、その被害者の姿、それがまさにそれなのよ! あれ! マジでこれなの!」


 身振り手振りでバタバタとジェスチャーしている姿が視界に僅かに入ってくる。手のひらを横にし首元でシューッと引くような動作をしているようだが、アレやソレやコレでは分からない。


「首を斬られたの……?」


 霙月の仕方なさそうな返事がボソッと聞こえてきた。

 小声になるのも分かる。よくもまぁこんな話を声高らかに出来たものだと俺でも思う。


「そう! 切られた首から流れ出た血が、まさにソレ! 大量に血が吹き出ているはずなのに、服に染み付いた血痕は不思議な事にその部分にしか……ちょっとアンタ!!」


 と、霙月以外の誰かに話題が振られた様だった。誰が犠牲になったのかと、バレない様にチラッと視線を兵藤の方に向けると、その刺された指先にいた人物は俺であった。

 兵藤が俺を指差し、急に話が振られているのだ。おかしい、俺は一切関わりたくないのでコイツラに横で聞いているのを気付かれまいと細心の注意を払っていたはずなのに。なぜ気付かれた。


「え?」


「陣野アンタまた盗み聞きしてたでしょ!」


「え、え? してねぇし……盗み聞きとか人聞き悪いな。俺は自分の席に座ってボーっと黒板を眺めてただけだろ」


「いいや、してたねっ! かーっ! 盗み聞きなんて趣味悪いわね! しかもソレを認めようとしないなんて男としての器が小さい!」


 いや、それは横にいる七瀬に言ってやれよ……。と思い、チラッと七瀬を見ると、兵藤の言葉を聞いてバツが悪いのかそっぽ向いて視線を逸らされた。


カナちゃん、隣にいるんだから嫌でも聞こえるよ」


 霙月が苦笑しながらフォローを入れてくれるも、兵藤の興奮は止まる事がない。

 いいぞ。もっと言ってやれ。勘違いチビから俺を救ってくれ。コイツの無駄な興奮を押さえ込んでくれ。


「いーや、乙女の会話を盗み聞きするなんて絶対に許せないわ! ね、七瀬!」


 急に振られた七瀬がビクッとなる。

 乙女の会話と言える様な内容かよ。


「そ、そうよそうよー。ぬすみぎきなんて、よくないわー。ユルセナイヨネー」


 父親の電話を散々盗み聞きしてる癖に、棒読みで何言っているんだコノヤロウ……。口に出しては言わないが、厳しい視線を七瀬に向けると、ぷいっっと再び目を逸らされた。


「まあいいわ……そこでよ!」


 机を勢いよく叩く兵藤。その鼻息は荒く、鼻の穴から小さい何かが跳んで霙月の机に付着した。汚い……。霙月もそれに気がついたのか、素早くポケットティッシュを取り出すと机に付着したソレを拭き取った。


 兵藤はというとそれに気付かず何か決意に満ちた表情をしているのであった。


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