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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-4-2.厄災のカス【陣野千太郎】

 先の厄災の欠片である屍霊……あれが原因なのだろうか。


 それは世間一般に噂されている〝八尺様はっしゃくさま〟と呼ばれる類の屍霊であった。影姫はそいつににやられたのだ。本体と同化している刀である〝毒刀・鬼蜘蛛〟を無残にも八つに打ち砕かれ、その姿を保つ事が出来なくなったのだ。

 あまりに強大な力で、静磨も影姫も太刀打ちできず、近隣にあった廃村に封印し閉じ込めるのがやっとであった。


 あの時は"白鞘しらさや家〟や"黒刃こくは家〟の力も借りれたからよかったものの、当事の当主がそれぞれ他界している今はそれも期待できない。

 影姫が目覚めた今、厄災が気付き八尺様や他の封印された屍霊が再び呼び起こされるのも時間の問題だろう。


 今再び、固く閉ざされた封印を全て確認せねばなるまい。そして警備を強めなければならない。

 不用意に何も知らぬ人間に解かれない限りは、外界への影響は大丈夫であると思うが……あやつ等に対してはやりすぎるという事はなかろう。


「起こした者の力が低いせいか、厄災のカスに粉砕された後遺症かはわかりませんが、本来の姿よりかなり幼い姿。力もかなり制限され、記憶も曖昧になっているようです」


「それはワシも承知している」


「先日も屍霊が一匹現れたようですが、かなり手こずったようですし、うちの生徒も何人か殺されました。屍霊発生のタイミングもありましたし、全てが彼女のせいであると言うわけではありませんが、空間転移の術法や屍霊感知の術法も衰えてほぼ使えない様では……厄災が撒き散らすゴミ掃除もまともに出来ません」


 それは全く持って、その通りである。その私の安易な考え為に、私がいる自宅でさえ卓磨の身を危険に晒してしまった。卓磨だけではない。今後の事を考えると燕だって危ないのだ。卓磨には月紅石を託したものの使いこなせるかも分からず、いつ危険に晒されるか分からない。

 どうやら目玉狩りは退治したようだったが、月紅石の能力が発現したという雰囲気ふんいきは感じられなかった。


「私が千太郎さんの家に張った結界も直接的な外敵は防げますが、今回の様にインターネットのような電子回線を伝って動き回る屍霊は防ぎようがありませんしね。時代が流れて色々と便利な事も増えていますが、我々にとっては不都合で行動が読みにくい屍霊が生まれ易くなっているのかもしれません。そして、厄災の本体がどこに隠れているか見つかっていない以上、その片鱗を潰して少しでも浄化し力を削る必要があります。それには……」


 厄災のカスが影姫の存在に反応し、人の怨念が篭った魂を屍霊化させる。もちろん屍霊の発生は影姫だけが原因ではないが、発生確率が一段と高くなるのだ。目覚めればこうなる事は分かっていたはずなのに。返す言葉がない。


「私もあまり表に出る事はできませんし、貴方ももうそのご老体。誰かサポートできる人物がいればいいのですが……しばらくは様子を見るしかありませんね。白鞘家や黒刃家、組織の人間も今は信用できませんし」


「そうですな……」


赤鷺あかさぎの家の者にでも声をかけておきましょうか」


「かたじけない」


 せめて卓磨が数珠についた月紅石げっこうせきを使えるようになってくれればいいのだが……。卓磨が何も言っていないので分からないが、先日の一件で能力の片鱗も出せなかったのだとしたら、期待は薄いな……。


「では、私はまだ仕事が残っていますので」


 そう言うと立ち上がり、仕事机に向かい腰掛ける。机の上には山のように積まれた紙の束。新入生や新学期の書類か何かだろうか。


「これ、全部に目を通して判子を押すんですよ? サインなら幾許か楽になるのに、この国はいつまで経っても頭のお堅い人が多くて困りますわ。判子判子判子、もううんざり」


 やれやれ、と言った素振そぶり。そう言って苦笑する。


「まことに、その通りですな。利権と言う物はなかなか壊せない物です」


 同じく笑い返す。


「では、ワシはここいらで失礼します。また何かあれば……」


「ええ、いつでもいらっしゃいな。来て頂ければ、私がいれば、いつでも時間をお作り致しますわ」


 軽く会釈をし、分れの挨拶を済ますと部屋を出る。閉めた扉の向こうからはドン!ドン!と勢いのいい音がする。中頭が判子を押印する音だろう。


「陣野様、車のご用意が出来ております」


 執事に促され車まで案内される。


 サポート……サポートか……。赤鷺も今は組織の上層に身をおいている。屍霊事件に対して勝手に手を出せば他からの目が厳しくなる。いかがなものか……。


 ワシもいずれは老体に鞭打ち手助けしなければいけないだろうか……。

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