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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-3-3.アレとは【長原康平】

「えーっと、通報してくれたのは……君達?」


 僕等はまだ呪いの家から少し離れた道の角にいる。あんな光景を見てしまったし、まだ血溜りはあそこにあるから近寄りたくないのだ。

 少しでも見てしまった現実を、頭の中から遠ざけたいと言う決意の表れでもある。


 目の前には私服警官……少しやる気のなさそうな顔をした刑事だ。

 闇夜にパトカーや救急車の赤色灯が煌々と光を放ち、警官達や集まってきた野次馬の声で周囲は騒ぎとなっている。男性が襲われて叫び声を上げた時は誰も来なかったというのに、サイレンが鳴り響いたとたんコレだ。


 どうやら血を流して倒れている二人は思った通り亡くなっていた様で、遺体の上にはブルーシートがかけられている。だが、ブルーシートは遺体を覆い隠しきれておらずに隙間から手や血痕がはみ出しており、事件の生々しさが垣間見えた。

 それが視界に入ると、吐気こそしないものの、気分が悪くなってくる。


「は、はい! 私達です!」


 通報したのは僕なのに、少し前にサイレンの音で失神から目覚めたばかりの金田が出しゃばってくる。コイツの事だ、事件の目撃者としてインタビューとかされてお金をせしめようとか考えているのではなかろうか。そんなものでお金が出るはず無いだろう。


「で、犯人を見たってのは?」


 刑事が軽く指をさしながら僕等二人を見比べる。


「私、見ました! この目でしっかりと!」


 僕が返事をしようとすると、見てる途中で失神した癖に金田が後ろからでしゃばって来た。


「犯人、どっちに逃げて行ったか分かる?」


「いや、それはぁ~……」


 刑事の質問に対して言葉が詰まる金田。そりゃそうだ、答えれないだろう。何せ失神して見てなかったのだから。


「ああ……じゃあ君は?」


 刑事は金田の歯切れの悪い返事に何かを察したのか、僕の方に聞きなおした。


「は、はい、僕は見ました! 二人が倒れた後、犯人は笑いながらあの家の中に……消えて……」


「消えた? 入って行ったんじゃなくて?」


「ええ、消えたように見えたんですが……門に向かって歩き出したのは確かです」


「ふむ、他に何か特徴は?」


「この人と同じ服装をしていました! 多分、手に刃物を持っていてそれで二人を!」


 呪いの家を指差し僕がそう言うと、刑事さんも家の方を眺める。

 不気味にたたずむ呪いの家は、ここから見ても人の気配は全くしない。だが、見ていると、ただただ気分の悪くなるような嫌な感じがする。背を走る何とも言えない悪寒がそれを一層濃くする。


「同じ服装……ってことは霧雨学園の生徒か? しかし、あの家はなぁ……それと、多分って刃物を持ってるのはしっかりと見たの?」


「い、いや……はっきりとは……」


 僕等に聴取している刑事が、これまたハッキリとしない僕の返事に小さく溜息をつくと、振り返り呪いの家の方を眺め始めた。すると、若い刑事が軽い足取りで呪いの家の方から駆け寄ってきた。


「先輩、あの家の方なんですけど……」


 どうやら家の散策を大まかに終えてきたようだ。犯人は見つかったのだろうか。いや、見つからないとおかしい。僕はずっとここで見てたんだ。あれからあの家からは誰も出てきていない。


「大家に連絡取ったら家の鍵はドアの横の鉢の下にあるから勝手に見てくれってんで、家の中を何人かであらかた見て来たんすけど、誰もいないっす。もぬけの空っすね。それどころか、最近家の中に人がいたという形跡も見当たらないっす」


 そんな馬鹿な。あれから僕達はずっとここにいたけど、間違いなく誰かがあの家から出て行った姿はなかった。玄関の門ではなく別の場所から出たのだろうか。いいや、そんな気配も感じなかった。

 第一あんな風貌の奴が返り血を浴びたまま街をウロウロしていたら、どこかしらから通報が入ってもおかしくないはずだ。


「はぁ……わかった」


 先輩と呼ばれた刑事が大きな溜息をつく。


「先輩、また、アレ関連ですかね?」


 若い刑事さんが先輩刑事に小声で囁いたのがこちらにも聞こえてきた。アレってなんだろうか。そう思って見ていると、先輩刑事は僕の視線に気がついたのか、気まずそう顔をするなり後輩刑事の肩に手をやると二人揃って後ろを向き、少し離れるとコソコソと何やら話しをし始めた。


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