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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第二章・血に染まるサプライズ
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2-3-2.目撃者に僕はなる【長原康平】

 何か恐ろしいものを見たのだろうか。

 あそこで何かが起こっている事は間違いない。女性が倒れた事に関係あるのだろうか。

 暗い中、遠目にしか見えないその光景に疑問だけが浮かび上がってくる。


「な、なに!?」


 突然の叫び声に僕が驚いたのはもちろんの事だが、僕の後ろでボーっとしていた金田も、辺りに響く突然の腑抜けた叫び声を聞いて驚いている様子でこちらに視線を移す。


「ぼ、僕に聞かれても……何かあったんですかね」


「様子を見なさい! 私は後方を守っていてあげるから!」


 背中を押され、なかば無理矢理、角から再び顔を覗かせられて家の方を見る。


 男性はというと地面にへたり込んでいる。もう一人いた女性は地面に力なく倒れたままだ。暗がりでここからではよく分からないが、目を細めてよく見ても動いている様子はない。


 男性はへたり込んだまま何かを見上げていおり、様子がおかしい。そして、更に目を凝らして見ると、彼等の向こうにもう一人の人影が確認できた。

 男性と向かい合うような形で、暗がりでも分かる青白い肌をした……僕らと同じ霧雨学園の女子制服を着ている人影が立っている。

 異様に指が長く見え、その指からは何か液体が滴り落ちているように見える。

 さっきまではいなかったと思うのだが、目を凝らしてよくよく見始めてから徐々にその姿が見えてきた様な気がした。気が動転していて気がつかなかったのかもしれないなんて事も少しは思ったが、どう考えても最初は見えなかった気がする。


 え? 通り魔? 傷害事件か?

 いや、まさか……霧雨学園の女子制服を着ているという事は学生だろう?

 それが……学生が通り魔だなんて……。


「どうしたの? なんかあった!? ひょっとして悪霊が出たの!?」


 小刻みに震えながら黙り込む僕を見て、金田もさすがに気になったようで、僕を押しのけるようにして家の方を覗きこんだ。


「あ、あれ何? 地面に溜まってるの……血じゃないの!? 女の人の下! どうなってんの? まさか殺人事件!?」


 金田は見た目も性格も成績も悪いくせに目だけはいいらしい。僕にもよく確認できなかった所まで見えている。落ちてる金も目ざとく見つける守銭奴の目だ。何か特殊な能力でも持ってるんじゃないかと思うほど目がいい。


「薄暗くてよく見えないわね……もどかしいっ」


 金田が声を上げた瞬間だった。立っている人影が両手を振り上げ、 ブン ブン と片腕ずつ男性に向かって振り下ろした。振り回したのは分かったのだが、腕の軌跡が見えないほどに早い。気がついたら振り上げられた腕は、肩から垂れ下がるようにダランと元の位置に戻っていた。


 すると男性の首筋から、先ほどの女性の様に血が噴水のように飛び出てきた。あんなに出るものなのかと思う位に勢いよく。まるで宙に吸い寄せられるように吹き出ている。


「ひ、ひぃ! あれ! 先輩! ……うっ重い」


 金田はその光景を目の当たりにして、既に失神して気を失い、僕にもたれかかって来ていた。普通ならこういう時でも女性の胸の感触を嬉しむのが男と言うものなのだろうが、残念ながら金田は驚くほど胸が無い。


「なんでえええええええ!? え?? なんでえ!?」


 思わず叫び声をあげてしまった。謎の人影はこちらを向くと、頭を妙な角度に曲げて大きな口でケタケタと笑いをあげると、そのままゆっくりと呪いの家の中に消えてしまった。

 そう、消えたのだ。門に入って見えなくなったのではない。文字通り門に向かって歩きながらその姿が煙のように消えてしまったのだ。


 救急車……いや、け、警察……! 警察を!!


 訳の分からない状況ではあるが、通報しなければという気持ちだけは沸いて来た。あの血の量だ。救急車を呼んだ所で二人はもう助からないだろう。いや、万が一という事もあるし一応呼んだ方がいいだろうか。どうしよう。こういう事は初めてでどうしていいのか分からない。

 あ、学校に今日の宿題置き忘れてきてしまったな……。いや、自分でも分かる、僕は混乱している。落ち着け、肩の力を抜くんだ。肩の力を抜け康平。まずはこの邪魔な女を道路脇に転がして……。


 僕はなんという所に連れて来られてしまったのだ。全部金田のせいだ、何もかも金田が悪い。コイツにまともな考えがあったなら僕は今こんな現場を見ずに済んだ。この光景が頭によぎって夜寝られなくなったらどうするんだよ……だから現地に行くのは嫌なんだ……。


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