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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-2-2.被害者が見ていたサイト【七瀬厳八】

最終更新日:2025/2/25

「それより、親御さんは大丈夫なのか。かなり錯乱していたと聞いたが」


「ええ、家にいたのは被害者の母親ですね。今は下の階で別の者が見てますが、少し落ち着いたみたいっス。通報してきたのも隣人が叫び声を聞いての事でしたし……。まぁ、さすがに娘さんをこういう状態で発見したとなると平静を保つのは無理っスよね……」


「ふむ、で、その母親はどうなんだ。落ち着いたっつっても―――アレだろ」


「ざっと見た感じですと母親には一つも血痕が付いてなさそうでした。恐らく部屋を開け遺体を発見して、すぐさま助けを呼びに家を飛び出しちゃったんでしょね。テンパって自分で救急や警察に通報するって行動さえ取れなかったって感じですかね」


「返り血を浴びたから着替えたっつう可能性はないのか」


「着替えをしたり、肌についた返り血を洗い流した形跡も家の中には残されてませんでしたし、これだけの血液が飛び散っている室内です。そんな状況で母親には血痕が付いていないとなると、母親が黒って考えるのはちょっと厳しいっすね。殺人だとすると外部の人間と考えるのが妥当でしょう。さすがに返り血一滴浴びずにこの犯行を行うのは無理があると思いますし」


 そうなのだ。部屋には血液が飛び散っている。前の二件もそうだった。今回ほど血の飛び散りは酷くなかったものの、犯人はかなりの返り血を浴びてそうなものだ。いずれも事件が起きたのは夕方の十七時前後、目撃者がいてもおかしくない時間帯だ。だが、前の二件の時も辺りの聞き込みや監視カメラで捜査はしたものの、怪しい人物の目撃情報などは一切得られなかった。もちろん、凶器といった物証も一切見つかっていない。この血まみれの部屋に漂う、どこか説明のつかない冷たい気配が、俺の心をざわつかせる――まるで、理解を超えた何かが、この惨劇の裏に潜んでいるような錯覚が、薄暗い夕暮れの光に重なる。


「それと、見てくださいよ。あのパソコンの画面」


 九条が持っているペンで指しながら視線を移す。


「ん?」


 指された先を見ると、一台のパソコンがある。所々に血が付着し、画面にもかなり血痕が付着しており、少々見づらくなっていた。もちろん俺もその存在については認知していた。


「あれがどうした」


「映ってるサイトですよ。前二件の被害者が持ってたスマホの最後の接続履歴に残っていたのと同じサイトですよ、あのページデザインは。恐らく多分きっとそうだと思いますよ」


 九条がパソコンの画面を指差しながら、そう言う。そこには黒い画面。確かに何か映ってはいるようだが、俺には皆同じに見える――でも、その黒い画面に映る血痕が、夕暮れの赤みを吸い込み、異様に不気味に輝いている。


被害者がいしゃが最後に見ていたサイトか……。偶然似た様なサイトなんじゃないのか? 俺はあまり詳しくないがインターネットの掲示板なんて腐るほどあるんだろ?」


 インターネットやパソコンにうとい俺には、サイトデザインの違いなんてよくわからない。署でも、仕事でどうしても必要な時以外はあまりパソコンを触らないくらいには苦手だ。だが、この血まみれの画面に潜む冷たい気配が、俺の直感を刺激する――何かが、このパソコンの中に隠れているような、不気味な予感がする。


「駄目ですよ先輩。調べもせずそんな軽く言っちゃあ」


 そう言うと九条はパソコンに近寄り、画面に顔を近づける。画面にも血痕が散らばっており見づらくはなっているが、画面には黒い背景でコメントがいくつか書かれた掲示板のサイトが映っている。


「同じですね。前二件の時に少し調べましたから。ほら、ここ……霧雨学園きりさめがくえんの学園裏サイト、そこの掲示板です。SNSが主流となっている今、あの手のブラウザで見るタイプで個人の古いデザインの掲示板サイトはもうあんまり残ってません。これは何か関係してますよ。絶対」


 画面の上に表示されている小さな文字。サイトのタイトルであろう。そこを指差しながら、九条は鼻息荒く自信に満ち溢れた表情を見せる。何の根拠もなしにどこからその自信は沸いて来るんだ。


「んー……俺はその手のことは苦手だしなぁ、九条の方で調べといてくれよ」


「わかりました」


 シャッと胸ポケットからペンを取り出すと、画面を見ながらメモ帳になにやら書き始めた。

 と、その時だった。九条がメモを取る為に手帳に視線をやったその瞬間、パソコンの画面が突然消える。


「あっ、あれ?」


「……!」


 画面が消えるほんの一瞬前、醜く歪み潰れた女の顔がちらりと映し出されたように見えた。その一瞬は、まるで血まみれの夕暮れの赤みが画面に溶け込み、俺の意識を引っ掻くような不気味さだった。それは俺でも九条でも、この家にいる警官の誰でもない、背筋の凍るような顔だった。

 被害者の顔? いや、違う気がする。疲れているのだろうか……。その顔の奥に、どこか冷たい手が記憶を操るような錯覚が、俺の心を震わせる。


 九条も画面が消えたのに気がつき、不思議そうに画面を見つめ、ペンを片手に固まっている。


「ど、どうした。充電でもなくなったのか?」


 見てしまったが、頭の中では否定する。画面が消える時の歪みが偶然そう見えてしまっただけだと、自分に言い聞かせる。なんだったのだ、今のは――この血まみれの部屋に潜む、理解を超えた何かの気配が、俺の意識を揺さぶっているのではないか。


「ありゃ、何で消えたんすかね。それよりどうしたんすか? 顔色悪いっすよ。また気分悪くなりました?」


 九条が不思議そうな顔でこちらを見ている。生憎、俺には霊感とかそういったものは一切ない。今まで生きてきた中でもそういう類のものは見た事なかった。最近の凄惨な事件続きで疲れているのだろうと、自分に言い聞かせる事にする。


「いや、なんでもない」


「そうっすか? それならいいんですけど、また突然もよおさないでくださいよ? それはそうと、デスクトップのパソコンなので充電とかは無いと思うんですけど……って、あれ?」


 九条は何かに気がつき、身を屈めた。そして床に転がっているコンセントを指差し、不思議そうに問いかけてきた。


「これって……パソコンの電源プラグっすよね」


 指をさす方向には太いコードが転がっている。先にあるプラグはコンセントの挿し口には刺さっておらず、もしこれが本当にパソコンの電源プラグなのだとしたら、なぜ今までパソコンの画面はついていたんだという疑問が起こる。


「間違いなくパソコンのプラグなのか?」


「ええ、この太さのコードで、可能性のある他の電化製品と言ったら……近くにあるのはパソコンの本体かディスプレイくらいっすね。どっちにしても今まで画面が付いているのはおかしいっす。見た所、予備電源の箱とかそういう物もなさそうですし」


「ふーむ……俺には分からんな。こういう機械関係は」


 機械的な物は苦手だ。スマートフォンは仕事でも必須になってきたので何とか必死に覚えたが、パソコン関係になるとチンプンカンプンで若い奴にまかせっきりだ。使わないと覚えられないというのは頭では分かっているのだが、どうにも手が出ない。


「何かこう、ただならぬ雰囲気ふんいきを感じますね……事件三件目にして新展開……! こんな事言っちゃダメかもしれませんが、何処かワクワクしてきましたよ」


 九条が屈んだ姿勢のままパソコンのディスプレイを見上げて、嬉しそうに言葉を放つ。人々が何人も死んでいるというのに、ワクワクするとは何とも不謹慎な……。


「あのなぁ」


 同じくパソコンのディスプレイを見ると、真っ黒になったその画面には、疲れた顔した俺の姿が映っていた――でも、その黒い画面の奥に、かすかな赤い輝きが浮かぶように見えた。血のように、夕暮れの赤みが、どこか不気味な気配を帯びて、俺の心をざわつかせる。


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