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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-34-2.女の口喧嘩【陣野卓磨】

「こちらの方は、『もし、死んで悪霊になった人がいるとして、その怨念や呪いを解く方法があるのか』というのを聞きにきたの。で、そちらは……」


 そう言いつ表情を変えずに天正寺の方を見る。

 声を掛けられた天正寺もそれにあわせて部長の方に視線を向けた。


「あ、あの、私は二年の……っ!」


「あなた、知っているわ。私の学年の……三年の方でも噂になっていたわよ」


 天正寺の言葉をさえぎり、少し不機嫌そうにそう言う部長の視線は冷たかった。

 それはそうだ。学年が違って階が違うといえど、アレだけ派手にやっていたのだから上の学年に知れていても不思議ではない。

 そう言われた天正寺は言葉の続きを言う事も出来ず黙って小さくなってしまった。


「いい話は聞かないわね」


 部長は自身の座る椅子を回転させるとパソコンの方に向き直り、何やら操作し始めた。


「これも……このサイトも貴方達の仕業でしょう? 私も『陰気なオカルト馬鹿。いるだけで周りが暗くなる』とか誰かに書かれた事があるわ……まったくもってその通りだから気にしてないけど」


 そう言いながらキーボードをカタカタ打ち込んでいる。

 恐らくあの掲示板の事だろう。それを開いて天正寺に書き込まれた現物を見せるつもりらしい。


「どういう神経してるのかしらね。こういうものを作ってほくそ笑んで」


 天正寺はというと部長の言葉を聞いてさらに俯いて沈黙してしまった。


「あれ……」


 部長が不思議そうな声をあげて、画面に顔を近づけて覗き込んでいる。サイトが映らないのだろう。それはそうだ。昨日、最強電脳戦士三島によってサイトごと削除されたのだから。


「それは……私が書き込んだものじゃないし……緑が……」


 天正寺がボソッと呟く。


御厨みくりやさん……? 御厨さんがなんなの? やっぱり御厨さんがあのサイト作ったの!? そもそもあんなサイト作る事自体が……っ!」


 そんな天正寺に対し、桐生が我慢できなくなり怒りの声をぶちまける。


「わ、私は最初は……反対して……それに私が緑とつるむ前からあのサイトは……」


「そんなの信じられると思ってるの!? 早苗ちゃんがどれだけ辛い思いをしたか……」


「い、今更何言ってんのよ。自分だって無視してた癖に」


「死んだ人に責任全部押し付けて逃げようとしてる人に、そんな事言われたくない……」


「誰がそんな事したって言うのよ! 私だって責任の一端くらいは感じてるわよ!!」


「嘘よ! さっき御厨さんがとか言ってたじゃない! アンタみたいなサイテーな人間が生きてて、なんで早苗ちゃんが……! アンタも死ねばよかったのに! 何でアンタだけ生きてんのよ! 一番死ぬべきはアンタでしょ!」


「わ、私は……」


「どうせ口では責任感じてるとか反省してるとか言って、本心では早苗ちゃんの事なんて何とも思ってないんでしょ!? 顔に出てんのよ! あっつい面の皮突き抜けてアンタのゴミみたいな本心丸見えなのよ!」


 ヒートアップする口喧嘩。

 チラッと七瀬刑事の方を見ると、やはり言葉の内容が内容だけに険しい顔をしている。だがやはり、女の口喧嘩に割り込むのは気が引けるのか、少しだけ二人に向けていた視線を下へと戻してしまった。


「言いたい事言ってくれて……何も知らない癖に……」


「アンタの事なんて知りたくも無いわよ! 存在すら頭から消し去りたいくらいなのに! クズ女がさっさと死ねばいいのに! マジで何でアンタだけ生き残ってんのよ! どのつら下げて此処に来たのよ! 脳みそブス! ゴキブリ女!」


「ゴ、ゴキ……っ……なんですって!?」


 桐生がこれほどまでに声を荒げるのは始めて見る光景だった。普段大人しいだけに怒りがよほど溜まっていたのが伺える。

 女子の口喧嘩というものは怖いものだ。俺には付け入る隙すらないし、入り込みたくない。影姫は素知らぬ顔で茶菓子を摘んでいるし、七瀬刑事はというと狭い部屋に響く大声が耳に響くのか頭を抱えて俯いている。頭を抱えたいのはこっちも同じだ。


 部長はというと何やらキーボードの上の方をカチカチ押している。ブラウザの更新ボタンでも押しているのだろう。だが、サイトは消えているのだ。いくら押しても繋がることはない。


「桐生さん、天正寺さん、少し落ち着いて……」


 見かねた影姫が溜息を付きつつも口を挟もうとするが、二人は全く聞く耳を持たない。

 影姫も自分が原因の一端を担っている事を自覚しているのか、少々困った顔をしている。

 桐生は頭に血が上り、明らかに周りが見えていない様子だ。椅子がこけそうになる程の勢いで立ち上がり、今にも手が出そうで怖い。握る両拳もプルプルと小刻みに震えている。

 普段大人しい人物ほど、ってやつか……早くこの場から脱出したい。


「聞こえなかったの!? 何度でも言ってやるわよ! クズ女がさっさと死ねって言ったのよ! 人の気持ちも考えられないゴキブリ以下のゴミが脳みそ腐ってんじゃないの!? 頭カチ割って医者に見てもらえば!?」


「こっちが大人しく下手に出て言わせておけば……!」


 天正寺が声を荒げて、机に拳を叩きつけてついに立ち上がる。

 だがその時だった。


「落ち着けといっているんだ! 黙れ! 二人とも! 五月蝿い! 何の為にここに来たか思い出せ! 喧嘩をした所で何も始まらんだろう!」


 影姫の怒号が部屋に響き渡った。ビリビリとあたりの空気が震えるのが分かる。

 喧嘩をしていた二人……いや、部屋にいる部長以外の俺を含めた四人が、その怒号にビクッと身を震わせ影姫の方に視線を移した。

 イライラして地が出たな……影姫。


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