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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-34-1.気まずい部室【陣野卓磨】

「すいません、とりあえずそこの長椅子に座って待っててもらえますか」


 部長が指差す方向にある長椅子へと七瀬刑事を案内する。


「ああ、ありがとう。何の用事か知らないけどホント俺の事は気にしないでね。男が約束するっつった事は絶対守るのが俺の信念だから」


「俺は信用してますから、刑事さんこそ天正寺アイツの事は気にしないで下さい。ちょっと色々あって気が立ってるみたいで」


 そう言うと七瀬刑事は長椅子に座り腕を組んで目を閉じた。気にしないでと言われても、同室に刑事がいるとなると気にせずにはいられないと思うが、部屋の中にいる人物達を思い浮かべると、何かしらの抑止力になるかもしれないと少し安心もする。

 特に桐生千登勢きりゅうちとせ天正寺恭子てんしょうじきょうこだ。伊刈の件もあるし二人は水と油だろう。大喧嘩でもされたらたまらない。


「察するよ。大体の事情は知ってるから」


 七瀬刑事のその言葉を聞き、俺も長方形の形にならべられた長テーブルの一角に座る。俺のがわは、俺と天正寺てんしょうじ。向かいには影姫と桐生きりゅうが座っている。他の部員は今日はまだ誰も来ていない様だった。


 部長はと言うと、部屋の奥にあるパソコンの置いてあるデスクの席に座り椅子だけこちらを向けて座っている。

 その視線はこちらに向いており、今から何が起こるのかと興味津々な視線が向けられているのだ。

 そんな部長から視線を逸らすと部室のドアが半開きになっているのに気がついたが、その気まずい雰囲気に席を立つ事が出来なかった。


 しかし、気まずい。本来ならば天正寺を案内してすぐに部室を立ち去るつもりだったのに、なぜか俺まで席に着かされている。

 他の部員も顔を出さない事が多いらしいので、部長くらいしかいないと思っていたのだが、なぜか桐生が部室にいたのだ。天正寺の方を鋭い目つきで思いっきり睨んでいる。視線を突きつけられている天正寺はというと、そんな桐生と視線を合わせまいと顔をそむけている。


「き、桐生さん、どうしてここに? オカ研だったっけ? 俺あんまり部活に出てないから知らなかったなぁ」


 沈黙に耐えられず聞いてみるが、思わず声がうわずってしまった。


 記憶によると桐生はオカ研ではないはずだ。前に卓球部に所属していたのは知っているが、今はバイトをしているみたいだし部活は辞めたのだろう。まさか、やはりその後にオカ研に入部したのだろうか。いや、それは考えにくいか……。


「違うの。オカ研の人に聞きたい事があってここに来たんだけど……ついさっき来た所で、部長さんと話をしはじめて聞いてもらっている所で、廊下の方から陣野君達の話し声が聞こえて」


 ムスッとした顔で声色低く答える桐生。その言葉は所々語尾が強くなり、口調からも怒りの念が伝わってくる。

 俺に向けられた怒りでないというのは分かっているが、どうにも萎縮してしまう。


 部屋の中の雰囲気ふんいきがとても重い。

 いつの間にか席を立っていた部長が皆にお茶を出したが、それに口をつけているのは影姫だけだ。どうにも部室から抜けるに抜けれない状況になってしまった。部屋からは抜けれないのにストレスで髪の毛が抜けそうだ。

 天正寺だけを部長に任せて、俺はすぐに帰ってゲームにうつつを抜かす予定だったのに……。影姫、桐生、七瀬刑事というイレギュラーな存在が加わった事で俺の目論みも泡となり弾けて消えてしまった。


「そ、そうなのか。ははっ。そりゃタイミングが悪かったな」


 作り笑いを桐生に返すも、返事もなくまた沈黙。

 桐生や天正寺が揃ってオカ研に来るなどと、影姫が何やら余計な事でも言ったのだろうか。まさか呪いだの何だの吹き込んだんじゃあるまいな。

 何にせよタイミングが悪い。悪すぎる。どうして鉢合わせてしまうんだ。七瀬刑事は疲れているのか、そんな事を知るよしも無く、目元を指でつまみながら俯き、沈黙を保っている。


 刑事さん、ここに困っている男がいます。助けてください……。


「で、なにが聞……た…………の……」


 部長が口を開く。初めて会った時からそうなのだが、最後の方がボソボソ声になって何を言っているか分からない。この人はいつもこうである。


「部長、もう少しハッキリ言わないと聞こえないですよ……」


 俺が小声で注意の言葉を投げかけると、部長が無表情にチラッとこちらを見る。

 何か言いたげにこちらをジーッと見てくる。まるで俺の眉間に穴でも空けようとしているかの如く、視線を逸らさない。


 何だ。何が言いたいんだ。


「あなた、誰かしら」


 おい。ほとんど来てないっつっても、部員の顔忘れんな。

 と、心の中で突っ込みつつグッと堪える。幽霊部員なのだ、こういう対応をされても文句を言えないと言えば言えない立場なのだ。


「陣野です! 一つ下の学年の陣野! 貴方に無理矢理この部に入れられたんでしょ! 忘れないで下さい!!」


「そう、陣野君。去年部活に三回しか顔を出さなかった陣野君。……部活の懇親会と夏休み前の締めの日と冬休み前の締めの日の三回、四月十日と七月十八日と十二月十八日の三回。前部長の鬼瓦先輩に引きずられてしか来なかった陣野君。夏休みの合宿もサボったわよね……色々あって大変だったのに……」


「ぐっ……い、今はそんな事、何も関係ないでしょう……」


 いちいち細かい攻撃でボソボソ言いながら責めて来る。凄くとがめられてる気がする。

 いや、俺は悪くねぇ……俺は悪くねぇ! だって二階堂が! 二階堂がネットゲームに誘ってきたんだ!


 と、そんな言い訳を口から発する事も出来ず黙り込む。

 こちらにも負い目がある為、顔を合わせる事が出来なく苦笑いするしかない。俺がもぞもぞと何も言えないでいると、部長は小さく溜息をつき話を戻した。


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