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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-31-2.自殺の真相に関して【七瀬厳八】

「ありがとうございました。では、失礼します」


「あ、ちょっと刑事さん」


 幾人かの聴取を終えて職員室を出ようとした時だった。

 去り際に声をかけてきたのは、長身の年配の男性教諭であった。名前は確か……鮫島だったか。


「なんでしょう?」


「理事長から学内での聞き込みに関して許可が出ましたそうですので……」


「本当ですか」


「ええ、ですが、あまり生徒を刺激するような聞き込みはやめていただけると助かりますとの事で」


「それは承知しております。では、ありがとうございました」


 職員室から退室しドアを閉める。

 何人からかは聴取したが、やはりこういう学校裏サイトとかの情報は教師からでは有用なものは得られない。仮に使っていたとしても、こういったものを使っている人物だと思われたくないというのもあるだろうし、なかなか言いたがらないものだろう。

 生徒なら何かしらの情報を知っている可能性も高いと思うし、話してくれる可能性も高いと思うのだが。


「いやー、おしゃべりが一人いて助かりましたね」


「まぁ、な」


 そう、聴取した何人かのうち、一人よく喋る教師がいた。花町と言ったか……中年の女性教諭だった。

 噂話も交じっているようだったが、そこから色々情報を得られたのだ。


 まず、先月あった生徒の自殺の件。俺もこの件に関しては調書を見たのだが、自殺原因は『成績不振による将来への不安から精神的に追い詰められて自殺』となっていた。

 だが実際は違ったのだ。その教師の話によると、どうやら自殺した生徒は他の生徒から虐めを受けていたらしい。しかも、その虐めていた生徒の中に御厨緑みくりやみどり洲崎美里すざきみさとがいたというのだ。


「先輩、これはあれっすよ。だんだんと見えてきましたね」


 九条が笑みを浮かべている。


「ああ……だが何でウチの調書はあんなのになってたんだ……? 俺等はあの件に関しては捜査に関わってなかったからよく知らなかったが、あそこまで知っている教師がいるんだから誰かしらからそういう話が出てもおかしくはないだろう」


「先輩、これですよ、これ」


 九条が手帳を取り出しページを捲ると、一人の名前を指さす。

 そこには〝天正寺恭子〟と書かれていた。

 それは先程聞いた花町の話の中にも出てきた、虐めに加担していた生徒の名前であった。


「こいつがどうした。いじめの主犯格だっけか……?」


「ええ、そうですよ」


 しかし、俺はその書かれた名前を見て少し気になる事があった。ほんの些細などうでもいい事なのだろうが。


「てか、フルネームさっき言ってたっけか……? 苗字は聞いた気がするが……それに……」


「い、いや、言ってましたよ。先輩、連日の捜査疲れでボーっとしてたんじゃないっすか? それより、この苗字、聞き覚えありませんか。珍しい苗字だから僕は覚えてますよ。ほら、隣町の」


 俺の疑問を遮る九条は少し慌てた様子で取り繕う。

 そうか、天正寺は聞き覚えがある。だが下の名前の漢字は……まぁ細かい事を気にしても仕方が無いか。どうせ、聞いた名前をあてずっぽうで書いたんだろう。こいつはそういう所がある。


「ああ……!」


「そう、門宮市議会議員の天正寺明憲てんしょうじあきのりですよ」


 天正寺、そうだ、天正寺。

 隣の門宮市の市議会議員に同じ名前の奴がいたな。


「そういうことか……上も腐ってやがるな。情けねぇ……しかし、となると今回の連続殺人事件は、この伊刈早苗が虐めが原因で自殺したことによる復讐か怨恨か……? そして、次狙われるとしたらコイツか……」


 視界に入る手帳に書かれた天正寺恭子の名前。次でなかったとしても、十中八九コイツは狙われるだろう。

 だが金で警察を言いくるめている様な親だ。監視対象や保護対象にするにしても議員の許可が下りるかが問題だ。


「そう見るのが妥当でしょうね。周りを始末して、主犯を恐怖のどん底に突き落としてからメインへ、って所ですか。いやぁ、やり方がえげつない。やるならすぐに楽にしてやれば良いのに……」


「おい、そういう事は思っていても口に出すな。まったく」


 楽にしてやればとは何事だ。仮にも警察官という職業についてる人間が殺人を助長するような事を口走りやがって。


「いや、スミマセン。しかし、犯人は親か兄弟か、はたまた友人か……? 伊刈早苗の身辺を洗う必要があるでしょうね」


「いや、親は無いかも知れんな……確か最近、伊刈って名の夫婦が自宅で首吊ってた案件があったはず……一人娘が自殺したからって……なるほど、繋がってくるな。しかしそうなると当たるのは交友関係か。にしても、虐められてた奴の復讐をするほど仲のいい奴なんているモンなのか……?」


 しかし、そうなると俺達が食事処で見たアレの説明がつかない。目の前で消えたアレはどう見ても人間じゃなかった。その姿を思い出しただけでもゾッとする。


「それは調べてみないと分からない事ですよ。学校では虐められてたかもしれませんが、ほら、学校終わってから仲良くしてた人物がいたのかもしれないですし。虐めを受けていたのに休まず登校してたってのも僕は引っかかりますよ。普通登校拒否とかするでしょ。遊び仲間とかバイト先とか、誰か仲が良い人間がいたんじゃないっすかね」


「でもなぁ……そんな人物がいたとしたら虐めを苦にして自殺したりするか?」


「先輩の言いたい事はわかりますよ。でも、やっと掴んだ手掛かりです。学園理事長の許可も出ましたし、もう少し学園で聞き込みを行いましょう。もう伊刈早苗の自殺から一月ひとつき程経ってますし、そろそろ事件について何か話してくれる生徒もいるかもしれませんよ。さっきのお喋り教師みたいに」


「そうだな……少なくともアイツはこの学園の制服を着ていたし……」


「じゃあ、とりあえず二手に分かれましょう。僕は外で部活してる生徒に聞き込みしますので先輩は中を」


「ああ、早く終わらせたいしそうするか」


 そうして俺達は二手に分かれて聞き込みに入ることにした。

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