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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-31-1.聞き取り調査【七瀬厳八】

「貴方は……そんな下らない物が事件と関係あるとお思いなんですか」


 目の前にいるのはこの学園の教師である田中裕也という男だ。無表情でとっつきにくい感じの男である。

 質問に対する返事も先程から素っ気無く、何かと言えば重箱の隅をつついたかの様に細々と反論をしてくる。

 体育系と理系、水と油。俺の一番苦手なタイプだ。

 

 俺と九条は今、霧雨学園に聞き込みに来ている。先日の大量殺人で見たアレも含めてこの学園に何かがある、間違いなく目玉狩りの事件に関係している……そう俺の勘が告げているのだ。

 と言っても、そんな勘など今まで働かせた事は殆ど無いので、合っているかどうかは皆目見当も付かないというのが本音でもある。

 勘よりも、アレがこの学園の制服を着ていたというのが大きい。それと、被害者の多くがこの学園の関係者だからだ。


「あんなもの子供の遊び場だ。私もその噂は耳にして、そういうものがインターネット上に存在しているという事は認識しておりますが、教師がそんなくだらない掲示板を使っているはずがないでしょう」


「いや、しかしですね。案外『まさかこの人が?』って人が使ってたりするもんですし」


「生徒達の嘘や戯言にまみれた匿名掲示板を、良識ある大人である教師達が利用するなどと馬鹿馬鹿しい。監視くらいする人はいるかも知れないが、それ以上の利用などと。実にくだらない。少し考えれば分かる事だ。貴方達警察の思考が理解し難い」


 それにしても、さっきからいちいちしゃくに障る言い方をしてくる。見下しているというかなんと言うか……年齢は恐らく同じくらいのはずなのに、すごく上から目線に感じてしまう。

 この男、去年は亡くなった御厨緑みくりやみどり洲崎美里すざきみさとの担任であったらしいので、この男に聞くのが一番いいかと思ったのに……とんだ貧乏くじだ。

 隣にいる九条も手帳を片手に少し困った顔をしている。


 今の所この男から聞き出せた話というと、今年も御厨緑の担任になるはずだったが、始業式前に亡くなった為に顔は合わせていないという事だけ。どういう生徒だったのか、とりあえずそれを聞くしかないか。


「ではー、御厨さんや洲崎さんはどういった生徒だったんですかね。去年担任だったんでしょう? 何か恨みを買うような事は……」


 田中はかけている眼鏡の位置を直すと、表情も変えずこちらに向き直る。


「その言い草ですと、私が疑われているのですかな?」


「いや、そう言う訳では……一応皆さんに聞いていることですので」


 その俺の言葉を聞くと、フン、と小さく息を漏らして口を開く。


「二人とも素行そこうが良い、とは言えない生徒でしたね。色々手を焼かされました。色々とね」


 田中の表情に少し変化が現れ、曇った様に見える。

 この男はやはり事件について何か知っているのかもしれない。


「ほう、手を焼かされた」


「いや、聞いた話を間に受けるのならば、恨みを買っているような事はあったのかも知れませんね」


「聞いた話。それは何か心当たりでも?」


 改めてそう聞くと、田中は眉間にしわを寄せる。言いたくない事でもあるのだろう。だが、今の反応からして殺された二人とは何かあったのだろう。


「刑事さん、これは任意の聴取ですよね。私が事件の犯人だと疑われているのであれば、身の潔白を晴らす為にも洗い浚い話す必要もあるとは思いますが、私にも生徒に関しては、私の独断だけでは言えない事がある。ここでいらぬ事を言って他の生徒に疑いの目をかけられるのは極力避けたい」


「そうですか……じゃあ、ここの教師だった小枝先生は? 亡くなる前に何か変わった行動とかとってなかったですかね?」


「知りませんね。彼は昨年の三学期に入ってから、しばらく精神を病んで休職していましたので」


「精神を? これまたどうして」


「PTA関係ですよ。彼は粗暴な教師でしたから。まぁ、精神を病んでいたと言うのが事実かどうかは私には分かりませんがね。生徒への体罰が保護者にばれて、それでかなり攻め立てられていましたが、それくらいで精神を病むような人物だったとは思えませんし」


「他には?」


「それが原因で教師の指導施設へ転属……まぁ、いわゆる世間一般で言う左遷ですね。それに関してはかなり気を削がれていた様です。生徒を軽く虐めるのが生きがいみたいな男でしたから」


「なるほど……小枝先生の事は話してくれるんですね」


「……彼は職員室でもあまり好かれた存在ではなかったですからね。私も彼とはあまり仲のいい方ではない。どこの学校にでもいるでしょう、教師からも生徒からも誰からも好かれずに煙たがられている教師の一人や二人」


 何かを思い出したのか、明らかに不機嫌そうな口調になる。

 確か小枝は生徒指導担当の体育教師だ。化学教師である田中とは、水と油でウマが合わなかったのだろう。

 俺と一緒だ。


「もう、よろしいですかね。放課後でも教師は忙しいんですよ。資料作りや部活の顧問などで」


「あ、ちょっと待ってください、最後に……九条、アレ出してくれ」


 俺がそう言うと九条が一枚の写真を取り出す。殺された大貫まちの写真だ。


「この女性に見覚えありませんかね?」


 田中は俺の差し出した写真を見て、すぐさま誰であるかを察知したようだった。


「大貫ですね。大貫まち。この学園の卒業生です。化粧で多少雰囲気ふんいきが変わっているが間違いない」


 その田中の言葉に、俺と九条は顔を見合わせた。まさかの大貫もこの学園の関係者だったのだ。確か俺の目の前で殺された店員も妹がこの学園に通っていると聞いた。これで食事処で殺された一部の人間を除いて全てがこの学園の関係者だという事になる。

 殺され方の度合いからして、食事処での被害者の大半は巻き添えを食らったか……。あの化物像を思い返すと、そう考えるのが妥当かもしれない。


「確か三年位前の卒業生だったか……素行はあまりよくない生徒でしたが……両親が他界してからは残された貯金で一人暮らしの生活していた様ですね。卒業後は確か近くにある北上印刷に就職したと記憶しています。最近どうしていたかは知りませんが」


「よく覚えてますね。サラッと出てきた」


「人の顔と名前を覚えるのは得意な方でしてね。スッと名前が出てきたことで何か疑いがかけられましたかな?」


 田中が少し不適な笑みを見せる。ここに来て始めての表情の変化だ。


「いえいえ、そんな事は」


 田中を疑っているわけではない。事前に調べたが彼にはアリバイがあるからだ。

 だが、なるほど聞いてみて正解だった。大貫もこの学園の関係者だったか。親族がおらず独り者な上に、会社では口数が少なく、ツテ入社で北上印刷にも履歴書がなかった上に、採用当事の人事や社長が代替わりしていた為になかなか調べがつかなかったが……。

 適当な事をしている中小企業に困り果てていたが、ここで情報が得られたか。


「もう宜しいですかね」


「え、あ、ああ。ありがとうございました」


「では失礼します」


 田中はそう言って立ち上がると軽く一礼をして、応接室を出て行ってしまった。

 なんとも無愛想な男だ。俺もあまり人の事を言えた風じゃないが、あそこまで酷くない……と思う。


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