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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-30-3.語られる過去【陣野卓磨】

 三人で廊下を歩くが沈黙が続いている。俺の後ろを二人が付いてくるという形だ。

 チラリと後ろの二人を確認すると、影姫が天正寺に話しかけないのはもちろんの事、天正寺も暗く俯き加減で言葉を発する事が無い。

 背後からものすごい圧迫感を感じて、どこか息苦しいものを感じる。

 すれ違う生徒達も、天正寺が珍しく誰かと連れ立って歩いているのに奇異の目を向けてきており、微妙に目立っている立場である事が少し恥ずかしくもある。


 オカ研の部室はまだ少し先である。渡り廊下を渡って、部室棟となっている旧校舎へ行かなければならない。

 俺が口を開こうにも先程の件もあってか、天正寺とは少し気まずい。なにか話すことはないだろうかとは考えるものの、こういう時に限って、なかなかいい話題というのは思い浮かばないものだ。


「なぁ」


 とりあえず息苦しい沈黙を破る為に、無計画に声を掛けてしまう。背後にいるどちらにでもなく宙に向かってだ。

 俺の声を聞いた二人の視線を感じる。口を開いたものの何を話せばいいのかと言葉に詰まってしまい、考えを巡らせるしかない。


 ……そうだ。


「天正寺さんさ」


「呼び捨てでいい」


 すかさず返事が返ってくる。学校の女子に向かって呼び捨てするのは、俺の性格からしてもやりにくい。だが、相手がそう言うのならば仕方がない。相手がそう言うのならだ。


「ああ、うん。天正寺さ、なんで伊刈さんにあんな事をしてたんだ?」


 とりあえずパッと思いついたものを何の考えも無しに口に出してみた。

 いや、今この場でこの話題は正解なのか。発現してから考え直してしまうがもう遅い。

 名前を呼んでしまった以上何か話さねばと思って、考えも纏まらないまま口から出てしまったこの話題。

 ふと思いついた質問だったとしても、なんという質問をしてしまったんだ。他に思い浮かばなかったからって、さすがにこれはなかったかな……。

 いや、はっきりさせておく必要はあるんじゃないだろうか。俺だって被害者の一人だ。知っておく権利はある。


「……」


 心の中で一人葛藤するも、後ろについてきている天正寺は、俺の質問に対して案の定無言である。話し辛い話題であるのは百も承知であるが、こいつはこの期に及んでだんまりするのかと、少々苛立ちを感じてしまった。

 そして影姫の溜息が聞こえる。これは天正寺に対してだけではなく、俺に対しての溜息も含んでいるのだろう。


 そりゃあ溜息をつきたくなる気持ちもわかる。わかっているよ。聞いて答えが返ってくる質問かどうか俺でもわかる。今がそのような事を聞く雰囲気ではないのも俺でも分かる。


「私さ」


 等と考える俺の心の中とは裏腹に天正寺が口を開き語り始めた。静かな声で。


「私さ、昔、すごく仲のいい幼馴染がいたのよ。小学校の頃」


「うん」


 口を開いてくれたので、とりあえず返事をする。

 聞こえてきた言葉の内容は、俺がした質問である伊刈とは関係が無さそうではあったが、とりあえず聞いてみることにした。

 幼馴染……か。確か、伊刈と桐生も幼馴染だったな。俺にも幼馴染はいる。


「アンタも知ってるのかどうか知らないけど、私の親って政治家じゃん」


「ああ、聞いたことはあるな」


「だから周りの子等の親が、自分の子供に余計なこと言ってる事が多くてさ。小さいながらに私の事をちょっと遠ざけられる事が多くて……ホントに本音で楽しく遊べるの、その幼馴染の子だけだったんだ。スイカがとっても好きな子で……変わってるの。スイカをナイフとフォークで食べるのよ。手が汚れるからって」


 最近、他の生徒から距離を置かれていたせいだろうか。聞いてもいない事を淡々と話し続ける。こいつもこいつなりに、話を出来る友達がいなくなって寂しかったのだろうか。


「うん。それで?」


 興味が無いと言えば興味が無い話ではあるが、無言で歩き続けるよりは気まずさを紛らわせるかと思い、とりあえず相槌をうつ。


「でもね、その子……」


 そこで一瞬言葉が詰まり、途切れる。何かあったのだろうか。チラリと後ろを確認すると表情が暗い。影姫も天正寺の話しに耳は傾けているようであったが視線はただ前を見つめていた。


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