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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
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1-30-1.天正寺恭子【陣野卓磨】

最近涙もろいのか、自分で読み直してても各章の最期で泣いてしまいます・・・。

 月曜日、六時限目も終わった。今日は何も起きていない。

 SNSを見ても、ネットのニュースを見ても、連日起きていたそれらしい事件は起きていない。

 起きたと言えば、約束していたポスターを持ってくるのを忘れて三島に叱責しっせきされたくらいだ。


 だが、そんな些細な事はどうでもいい。ここ数日、校内で広まった掲示板の噂も、サイトが消えた事によって徐々に収束していく事だろう。


 だが、生徒の間に広まったもう一つの噂はまだ消えていない。

 昨年度自殺した女生徒が飛び降りた時間、その付近の時間に裏サイトの掲示板を開いて書き込みをすると、その女生徒が復讐にやってきて、その自殺した女生徒の遺体そっくりな姿で殺されると言う噂。

 濁してはいるが、勿論この女生徒とは伊刈の事だ。


 大方、七瀬が漏らした捜査情報に尾ひれはひれ付いてそう言う噂になったのだろう。実際、短期間に御厨みくりや洲崎すざき、生徒指導の小枝が同じような姿で死んで、その噂に真実味が付いていた。


 だが、それももう昨日の事件で終わりだ。亡くなった方は大勢出てしまったが、もう終わり。奴はインターネットという仮想空間に広がる大きな海に封じ込められた。二度と出てくることは無いだろう。

 ……そう信じたい。


 俺は影姫がいたおかげで助かった。影姫がいなければ、俺は御厨と同じように殺されていただろう。

 どこを見ているか分からない無数の目玉、伸び縮みする鋭利な爪や腕。今思い出しただけでもぞっとするあの姿。

 『目玉狩り』と世間が揶揄するのは的を射ていた。遭遇した時、俺も最初に目玉を狙われたのだ。


 二次元のキャラが飛び出してきてくれればなんて考えた事もあるが、まさか実際に画面から飛び出してくるなんて思いもしなかった。しかもあんなグロテスクな奴が襲ってくるなんて。影姫のとっさの一撃がなければ、俺の目玉に目玉狩りの爪が突き刺さっていただろう。

 他に殺された人達も同じ様に目玉を真っ先に狙われたのだろうか。……恐らくそうなんだろう。生きたまま目玉をくり抜かれたのかと思うと背筋が凍る。


 そして今流れている噂も的を射ている。あの速さ、誰かが噂を試そうものなら瞬く間に殺されてしまっていたことだろう。しかし噂と言うのは不思議なものだ。みんな殺されて経験した人間がこの世に残っていないにもかかわらず広まっていくのだ。

 人の想像力とは逞しいものである。


 そして……。あまりそうだとは思いたくないが、目玉狩りの正体は間違いなく昨年度自殺した伊刈だろう。耳に引っかかり垂れ下がっていた見覚えのある眼鏡、そして髪型、声。血に染まっていたが、ウチの制服も着ていた。総合的に考えると、どう考えても彼女であるとしか思えなかった。


「陣野君、ちょっといい?」


「ん?」


 教室を出てから廊下から窓の外を眺めつつ一人でそんな事を考えながらトボトボと歩いていると、突然背後から呼び止められる。

 俺は一瞬体をビクッッとさせ、恐る恐る振り向いた。俺を呼び止めたその声は、あまり声を掛けられたくない人物の声だと思ったからだ。


 振り向くと、やはりそこに立っていたのは思った通りの人物、天正寺恭子てんしょうじきょうこであった。


烏丸からすまさんから前に聞いたんだけど、あんたオカ研なんですって? ちょっと聞きたいことあるんだけど」


 俺が返事するのを待つこともなく質問に入る。

 

 御厨みくりや洲崎すざきが殺されてからは大人しくしており、他の生徒からも距離を置かれていた事もあってその存在を忘れていた。


 端正な顔立ちから一部の男子からは人気があるが、その性格もあってか、元々近づこうとする者は少ない。

 無謀にも告白した男子が股間を蹴り上げられた上にラブレターを学校の掲示板に張り出されて晒されたなんて話もあった。被害者からしたらトラウマ物だろう。


 一年の時は同じクラスだったが、会話といった会話もした事がない。それに俺ははっきり言ってコイツにはあまりいい印象を持っていない。なぜなら、自殺した伊刈を虐めていた主犯格だったからだ。

 俺も何度か、伊刈がコイツ等に連れて行かれるのを見た事がある。なぜ連れて行かれたかは分かっていた。だけど俺は見て見ぬフリをしていた。


 俺がそう言う行動を取ったのは、自衛の為だ。

 お世辞にも俺はイケメンとは言えないので女子人気が下がるとかという理由も付け難いのだが、余計な事に首を突っ込んで女生徒から総スカンなんて食らおうものなら残りの学園生活がお先真っ暗になる。

 それに先日遭遇したアレ。頭の悪い俺でもわかる。どう考えてもこいつらのせいだろう。


 俺は殺されかけたのだ。こいつ等のせいで。伊刈があんな姿になったのは、こいつのせいもあるのだろうと思うと……。


「なに。オカ研っつっても所属してるだけでほとんど行ってないし……正直オカルトとか興味もないんで……」


 そう言う俺を見つめる天正寺の視線は少し暗いように感じた。


「話すことも無いわ。じゃ」


 影姫に聴取された時に何か言われたのだろうか。

 あまりこいつと関わりたくなかった俺は、天正寺の返事を待つ事もなく軽く手を振ると、そのまま踵を返し立ち去ろうとした。

 が、その振った手をムンズと捕まれると引き戻された。女子に触られビクッっと体が反応したような気もしたがそれは置いておこう。手を掴んでまで引き止めるとは何事だ。


「な、なんだよ」


 見ると厳しい目つきの天正寺。軽い用事ではないようだ。


「噂、知ってるでしょ。呪いとかって信じる……?」


 やはり影姫に何か言われたのだろう。

 天正寺の事を話していた時の影姫は相当厳しい顔つきになっていたのを思い出した。


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