0-0-0.序
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最終更新:2025/2/26
轟音が空間を切り裂き、マキナが創り出した異界が崩れ去る――その音は、まるで世界そのものが悲鳴を上げるかのようだ。
「影姫! 何をなさっているのですか! 急いで脱出を!」
「おい! このままでは元の世界に戻れなくなるぞ!」
足を止めた私に、仲間たちの切迫した声が、崩れる空間の響きに混じって届く――イミナの鋭い叫び、リーゼロッテの震える警告――だが、私の胸に浮かぶのは、ただ一つの疑問だった――頭に蘇る、翁が遺した記憶の断片。
〝厄災ノ人造神は役目を終えた時、その身体は光の粒子となり崩れ去ると伝えられている〟
しかし、眼前にある厄災ノ人造神マキナの姿は、異様だった――足元から薄靄のように、陽炎の如く消えゆくその姿は、死よりも静かな不気味さを湛えている。
この場に留まれば、元の世界に戻れる保証などない――仲間たちには、それぞれ帰りを待つ家族や愛する者がいる。今戻れば、我々が暮らす時代くらいは、平和に過ごせるかもしれない――だが、私には誰もいない。父も、母も、弟も、故郷の街も、すべて失われた。先の未来を思うならば、ここでマキナを仕留める必要がある。滅ぼすなら、私しかいない。
足場が崩れ、空間そのものが歪む。このまま迷っていれば、マキナに最後の一撃を加えることさえ叶わなくなる。決断するしかない。
〝フフフ、勘の鋭い娘もいるのね――嫌いではないけれど、目障りだわ〟
頭の中に突如として響き渡る声――それはマキナの冷たい、しかし嘲笑うような響き。その声が届いた瞬間、足場が急激に速度を上げ、崩落していく。翁の言葉が正しかったと、確信が心に宿る。
「影姫っ!」
振り返ると、イミナとリーゼロッテの顔が、崩れゆく空間の闇に浮かぶ――すまない、イミナ、リーゼロッテ。お前たちに生きる理由を与えられたことに、感謝している。他の仲間たちにも、深く感謝している――だが……!
再びマキナに向き直るが、足場はほとんど消え、虚無が広がる。迷いで、チャンスを逃してしまったか。
〝もう遅い――我は過去に遡り、再び未来を再編する――貴様等のように我に刃向かう存在が出現せぬようにな!〟
くそっ――もう、手立てはないのか……――その時、後方から爆音と共に機械の轟音が響き、一つの影が飛び出してきた――仲間の一人、古代機械兵器のボロだ。
「影姫、イキマショウ――アナタ一人クライナラ乗セテ飛ベル」
「しかし、お前にも……」
「私モマタ、知ッテイマス――過去カラ繰リ返シ残サレタ、膨大ナ厄災ト屍霊ニ関スルでーた――私ガ鉄くずニナロウトモ、貴女ガ今シヨウトシテイル事、必要デス」
崩れ去る空間の轟音で、他の仲間たちの声はもう届かなくなった。その後、私はボロの背に乗り、厄災ノ人造神に特攻をかけた――右手に神刀・スサノオロチ、左手に毒刀・鬼蜘蛛を握り締めて。
それを阻止すべく、飛行する私たちにマキナの魔力弾が降り注ぐ――辛うじてかわしてはいるが、ボロの身体は少しずつ被弾し、崩れ去る。
「ボロっ! もう少しだ、踏ん張ってくれ!」
「……ああ、ここで踏ん張らないでいつ踏ん張るってんだよ」
ボロから聞こえてきたのは、いつもとは異なる、知らない声だった――だが、その声にはなぜか懐かしさを感じた――。
「皆コイツに殺されたんだ! それなりの落とし前、つけてもらわないとなっ!」
その言葉に、一人の名前が浮かんだ――だが、知らない名前だ――「タクマ」――その響きが、どこかで私の心を揺さぶる――。
「タクマ、後は任せろ……! 必ず……!」
煙を吐きながら崩れ去る機械の身体を蹴りつけ、飛び跳ねてマキナへと刃を向ける。噴水のように溢れ出る血液が降り注ぎ、耳を貫くマキナの絶叫が空間を震わせる――私の両刀は、確実にマキナの心臓を突き刺した。
〝フ、ハハハッ――おもしろいよ! そうだよね、敵がいないと面白くないよね! いいよ、お前等も道連れにして連れて行ってやるよ! 後悔するといい、何も知らずに消え去れなかったという事をッ! 真なる紅き石の呪いをその身に受けるという事をッ!〟
その後の記憶はない――その前の記憶もない――。
私に残された記憶は、厄災を滅せよという使命だけだった。その不気味な静寂が、虚無の闇に閉ざされる。
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