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おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~  作者: ぎたこん
第一部・第一章・初めての怨霊
1/613

0-0-0.序

挿絵がちょこちょこありますので、一括ダウンロードの外部アプリよりも、小説家になろうの公式ページで読むことをお勧めします。


最終更新:2025/2/26

 轟音が空間を切り裂き、マキナが創り出した異界が崩れ去る――その音は、まるで世界そのものが悲鳴を上げるかのようだ。


「影姫! 何をなさっているのですか! 急いで脱出を!」

「おい! このままでは元の世界に戻れなくなるぞ!」


 足を止めた私に、仲間たちの切迫した声が、崩れる空間の響きに混じって届く――イミナの鋭い叫び、リーゼロッテの震える警告――だが、私の胸に浮かぶのは、ただ一つの疑問だった――頭に蘇る、翁が遺した記憶の断片。


〝厄災ノ人造神は役目を終えた時、その身体は光の粒子となり崩れ去ると伝えられている〟


 しかし、眼前にある厄災ノ人造神マキナの姿は、異様だった――足元から薄靄うすもやのように、陽炎の如く消えゆくその姿は、死よりも静かな不気味さを湛えている。


 この場に留まれば、元の世界に戻れる保証などない――仲間たちには、それぞれ帰りを待つ家族や愛する者がいる。今戻れば、我々が暮らす時代くらいは、平和に過ごせるかもしれない――だが、私には誰もいない。父も、母も、弟も、故郷の街も、すべて失われた。先の未来を思うならば、ここでマキナを仕留める必要がある。滅ぼすなら、私しかいない。


 足場が崩れ、空間そのものが歪む。このまま迷っていれば、マキナに最後の一撃を加えることさえ叶わなくなる。決断するしかない。


〝フフフ、勘の鋭い娘もいるのね――嫌いではないけれど、目障りだわ〟


 頭の中に突如として響き渡る声――それはマキナの冷たい、しかし嘲笑うような響き。その声が届いた瞬間、足場が急激に速度を上げ、崩落していく。翁の言葉が正しかったと、確信が心に宿る。


「影姫っ!」


 振り返ると、イミナとリーゼロッテの顔が、崩れゆく空間の闇に浮かぶ――すまない、イミナ、リーゼロッテ。お前たちに生きる理由を与えられたことに、感謝している。他の仲間たちにも、深く感謝している――だが……!

 再びマキナに向き直るが、足場はほとんど消え、虚無が広がる。迷いで、チャンスを逃してしまったか。


〝もう遅い――我は過去に遡り、再び未来を再編する――貴様()のように我に刃向かう存在が出現せぬようにな!〟


 くそっ――もう、手立てはないのか……――その時、後方から爆音と共に機械の轟音が響き、一つの影が飛び出してきた――仲間の一人、古代機械兵器のボロだ。


「影姫、イキマショウ――アナタ一人クライナラ乗セテ飛ベル」


「しかし、お前にも……」


「私モマタ、知ッテイマス――過去カラ繰リ返シ残サレタ、膨大ナ厄災ト屍霊ニ関スルでーた――私ガ鉄くずニナロウトモ、貴女ガ今シヨウトシテイル事、必要デス」


 崩れ去る空間の轟音で、他の仲間たちの声はもう届かなくなった。その後、私はボロの背に乗り、厄災ノ人造神に特攻をかけた――右手に神刀・スサノオロチ、左手に毒刀・鬼蜘蛛を握り締めて。


 それを阻止すべく、飛行する私たちにマキナの魔力弾が降り注ぐ――辛うじてかわしてはいるが、ボロの身体は少しずつ被弾し、崩れ去る。


「ボロっ! もう少しだ、踏ん張ってくれ!」


「……ああ、ここで踏ん張らないでいつ踏ん張るってんだよ」

 ボロから聞こえてきたのは、いつもとは異なる、知らない声だった――だが、その声にはなぜか懐かしさを感じた――。


「皆コイツに殺されたんだ! それなりの落とし前、つけてもらわないとなっ!」

 その言葉に、一人の名前が浮かんだ――だが、知らない名前だ――「タクマ」――その響きが、どこかで私の心を揺さぶる――。


「タクマ、後は任せろ……! 必ず……!」


 煙を吐きながら崩れ去る機械の身体を蹴りつけ、飛び跳ねてマキナへと刃を向ける。噴水のように溢れ出る血液が降り注ぎ、耳を貫くマキナの絶叫が空間を震わせる――私の両刀は、確実にマキナの心臓を突き刺した。


〝フ、ハハハッ――おもしろいよ! そうだよね、敵がいないと面白くないよね! いいよ、お前()も道連れにして連れて行ってやるよ! 後悔するといい、何も知らずに消え去れなかったという事をッ! 真なる紅き石の呪いをその身に受けるという事をッ!〟


 その後の記憶はない――その前の記憶もない――。


 私に残された記憶は、厄災を滅せよという使命だけだった。その不気味な静寂が、虚無の闇に閉ざされる。


一言でもいい。読んでくれたあなたの感想が私の次へのやる気の第一歩となります。

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