罪と枷
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その女は、公爵ーー王位後継者を殺した。
毒殺であった。
大罪を犯した彼女は、その身が灰となるまで、火炙りの刑に処せられた。
しかし、罪人の存在は消えることはなかった。
残された娘の周りで、ひそひそと囁かれる陰口の中に。
いつまでも、いつまでも。
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少女は、召使いの手をかりて馬車を降りる。その大きくてごわごわとした掌は、彼女の手にわずかな温もりを与えた。
「寒い」
そんな言葉が、ふいに漏れ出る。
一度そう口にしてしまうと、少女はますます凍えていくような錯覚を覚えた。
「寒い」
声が震える。
肩にかけられた外套の端を、少女は強く握りしめた。
「着替えてきて、よかったでしょう?」
この召使いはいちいち余計なことを言う、と、彼女は内心苛立った。
あんな酷いドレスでは人前に出られないではないか。
だから、一度は屋敷に戻ってきちんと支度するよう進言したのではないのか。
あのドレスや社交界での事について何も言及しない気遣いは有り難かった。それが、今になってーー
「はぁ……」
嘆息しても、気持ちは軽くならなかった。
どうして、こうも嫌な思考ばかりが湧き上がるのだろう。
どろどろとした感情が渦を巻いて、それに侵食されるようなーー少女は、自分がひどく醜い存在になってしまった気がした。
何もかもが、嫌になる。
ーーさむい。
それは、風に当たったせいなのか。
それとも、心が冷え切っているせいなのか。
少女には、分からなかった。