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聖剣勇者 1話

 聖歴3500年。

 日本ではない異世界で、一つの大事件が起きようとしていた。

 それは百年ごとに起こる魔王の襲来。

 四天王と呼ばれる幹部たちを携え、魔王は剣と魔法の世界、フォフォザットに降り立った。

 魔王はたちまち、魔族と呼ばれる悪魔たちを生み出し四天王と共に人間に宣戦布告する。

 その結果、魔王が降り立った北の大地は阿鼻叫喚の地獄と化した。

 魔王の力は強大であった。

 3500年の歴史で一度もただの人間に魔王は後れを取ったことはない。

 ただの人間……には。

 魔王が現れた直後、神から啓示があった。

 それは百年に一度人間を救うために異世界から召喚される勇者の事だ。

 魔王に対抗できるのは百万の軍ではなく、勇者とその一味のみ。

 今までの3500年間、人間が生き残り続けてきたのは勇者とその仲間たちがいたからなのだ。

 異世界から呼ばれし勇者を筆頭に、竜にまたがり空を駆ける竜騎士、魔導を極め魔の深淵に至った大賢者、弱きを救う乙女である聖女。

 選ばれし者たちによって、魔王は討伐されてきた。

 そして、ここデアール王国では、神の予言に従い異世界から勇者を呼び出す儀式が行われていた。




 王座がある謁見の間で、今まさに異世界の勇者が召喚されようとしていた。

 召喚者の名はティアラ・デアール。

 このデアール国の王女である。

 本来百人の熟練の魔導士が魔力を振り絞って、召喚陣を起動させる。

 だがティアラは若干十五歳という若さにして、熟練の魔導士百人分の魔力を持っていた。

 なので、安全面を考慮して王城の謁見の間に騎士を集め、その中心で勇者を召喚しようとしていた。

 ぶつぶつとティアラが召喚の呪文を唱える。

 それを黙って聞く、周りに鎮座する騎士団の面々や国王や大臣。

 

「来たれ! 勇者よ!」


 最後の一句を唱え、絨毯に書かれた魔法陣が眩く光る。

 そして、謁見の間が光に包まれた次の瞬間、勇者が召喚された。




 俺こと堺勇人はまさに意味不明の状態に陥っていた。

 目に広がるのはさっきまで歩いていた学校帰りの歩道ではない。

 地面が光ったと思った次の瞬間、俺は知らない場所に立っていた。

 そこは石造りで出来た一室で、豪華なシャンデリアが頭上には輝き、真っ赤な絨毯とその上に幾何学的な魔法陣が描かれている。

 周りには金属鎧を着て帯刀しているおっさんたちが、目の前には金髪の少女が青のドレスを着て跪いていた。

奥には、でっぷり太り王冠を付け真っ赤なマントを着た、いかにも私が国王ですと言わんばかりのおっさんが。横にはモノクルを掛けたおっさんが居た。

全員が驚きといった表情で見ている。

その目線の先は俺だ。

おっさんたちの驚きの目線は俺を貫いている。

何これ? どういう状況? 誰か説明してー!

そして、目の前の跪いていた少女が立ち上がった。

その容姿を見て俺は息をはっとのむ。

流れる金髪に、理性を感じさせる青い瞳、整った顔立ちに、透き通るような素肌。

美少女を体現したかのような目の前の少女に俺はただ茫然と見惚れるしかなかった。

こんな美少女初めて見た、何か言われれば思わずはいと頷いてしまいそうだ。

 目の前の美少女がキラキラとした瞳で俺を見つめる。

 やめろぉ! 女性経験が一切ない、しがない高校一年生の俺にその瞳は余りにも効く。

 美少女はひとしきり俺を見つめると、口を開いた。


「勇者様、どうかこの世界をすきゅっ! 痛っ! 舌噛んだ! 今のなし! ちょっと待って!」

 

「は、はい?」


「大丈夫ですか、姫様ぁ!」


 目の前の姫様言われた周りのおっさんに心配された美少女は舌を噛んだらしく痛そうに舌を出す。


「ふぅ、緊張の余り思わず舌噛んじゃった。えっと落ち着け私。こういう時は深呼吸よね。はーい、吸って、吸って、吸って、吸って、ごほっ、ごほっ、苦じい……」


「姫様ぁ!」


 息を吐けよ! いくらなんでも吸い過ぎだ。呼吸の吸しかしてないじゃないか!


「待って、今のもなし。あなたは何も見てない。いいね? こういう時は深呼吸でなくて何か飲んで落ち着くのよ。と言う訳で紅茶!」


 姫様と呼ばれた美少女が叫ぶと、どこからともなくティーカップとポットを持ったメイドが現れる。ティーカップに湯気の立った紅茶を注ぐと、メイドは姫様にティーカップを渡す。


「熱いのでお気をつけて」


「分かったわ」


 そう言うと姫様は紅茶を一気飲みして、噴き出した。

 

「ぶはぁっ! あっづ! 噛んだ舌に染みるぅうう!」


「姫様ぁあああ!」


 あれ、何だ? 俺はコントを見せられるために怪奇現象に遭遇したのか?

 目の前の美少女の印象が大人しくて理知的な少女から美しいけど残念な美少女という印象に変わりそうだ。

 

「ああもう! えっとね、勇者様!」


 びしっと俺の方を姫様が指さす。


「この世界を救ってください!」


「あ、はい」


 取りあえず、今分かったことは俺がNOと言えない日本人だってことだな。

 



 俺はティアラ・デアールと名乗った姫様から、現状を説明された。

 曰く、ここは異世界で俺は勇者として召喚された。

 曰く、魔王という人を脅かす存在が居て退治してほしい。

 曰く、魔王を倒すまで元の世界には帰れない。

 他にも色々説明されたがざっとティアラに説明されたことをまとめるとこんな感じだ。


「それでですね、勇者様。改めて聞きたいんですが、この世界を救ってくださいますか?」


「俺でよければ」


 話によると魔王とやらを倒すまでは元の世界に帰れないらしいし、断る理由がない。俺はYESと答えた。

 

「よかった。胸のつっかえが取れた気分です。私はその言葉を待っていました。今日は勇者様の召喚を祝ってパーティが開かれるのです。ぜひ参加してください」


「分かりました」


 パーティか豪華な食事とか用意されているのだろうか。ここの所、外食とかしてなかったから楽しみだな。

 その日の夜、ティアラの言う通り、パーティが開かれた。

 学ランを脱ぎ、異世界の服に着替え、豪華な食事がテーブルに並び、国王や大臣、騎士たちから色々と話を聞かされた。


「勇者様、眠れないのですか?」


 パーティが終わった真夜中、王城のバルコニーに突っ立っていると寝室にティアラがやって来た。

 

「ええ、俺……私には何か今日の出来事が信じられなくって」


「無理もないですわ。いきなり異世界に呼ばれたのですもの。それと私に敬語は不要ですよ」


 バルコニーから見える月を眺めがらティアラと他愛無い会話をする。


「異世界の月ってふたつあるだな。俺の世界じゃ一つだった」


 空には緑と青い月がらんらんと輝いていた。


「いえ、三つですよ」


 そう言いながらどや顔でサムズアップのポーズで自分を指すティアラ。


「ほら、ここは君が一番美しい月だよ。という場面ですよ」


「ええー」


 何だそれは、どんな口説き文句だ。高校一年生の俺にはハードルが高すぎるぞ。


「あっ、ところでここからですね、タイルアルっていう一番星が見えるんですよ。あの金色に輝いて居る星です」


 ティアラが指さす夜空には眩く輝く金色の星があった。


「一番星の中では一番綺麗だって言われているんですよ」


「いや、君のほうが綺麗だよとか言わないからね」


「ええー、そんなー」


 それから数分も話し合った後、ティアラは部屋から出て帰って行った。

 俺は姫様が出ていったあと、ベッドに横たわる。

 勇者が使うベットというだけ合ってふかふかのもふもふだ。うちの敷布団とは大違いだ。

 

「もしかして、ティアラ。俺に気を使ってくれたのかな」


 ティアラの訪問はそんな意味があったのかも知れない。

 俺はこの世界の事を何も知らない。

 そんな中、世界を救ってください何て言われて、元の世界に帰るために何となく、はいと答えたが、今ならティアラのために少しは勇者らしいことをしてもいいかなって俺はそう思った。


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