絶望していたので猫耳奴隷少女飼いました 7話
「これ、どうですか? ご主人様」
そう肉声で答えるのは、二年間の治療で喉も治ったレキだ。
天笶がレキが外に行くための外出用の服として買ったひとつである白いワンピースと、奴隷紋を隠すバンダナを首にレキは身に着けていた。
その姿はどこかの貴族の令嬢と言われても、納得できる美しさだ。透き通るような肌やピコピコ動く愛らしい猫耳、整った顔立ちとどこを見ても美少女のそれである。翡翠色の右目、群青色の左目というどこか幻想的なオッドアイがさらにレキの美しさを際立てていた。このオッドアイは一回失明した左目を治療したら、色が変わっていたからである。
二年前には全身に切り傷や火傷の跡が広がっており、見るも無残な姿はもう何処にもない。レキを売った奴隷商が見てもレキだとは絶対に気付かないだろう。
今日はレキが奴隷の買われて二年経ち始めて外出する日である。
レキを買った当初は見た目も酷かったし、喉が潰れて会話もできなかった。そんな中で外出させても嫌な目にしか合わないだろうと思っていた天笶はレキの傷が治るまでレキを外出させなかったのだ。
今では声も治り、見た目も誰かにとやかく言われない。一目にはもう奴隷と分からないだろうと天笶が判断したからこその外出である。
「ああ、とても似合ってるよ。まるでどこかのお姫様だ」
「そう?」
お世辞ではなく思った感想をそのまま述べる天笶。その言葉に少し顔を火照らせながらも、悪い気はしないレキ。
今日は今までずっと家で療養していたレキの久しぶりの外出だ。レキの行きたいところに天笶は素直についていくつもりだった。
天笶にとっては妹の様な大切な存在との喜ばしい外出に過ぎないが、レキにとっては違うこれは思い人とのデートだ。
レキは今日の出来事を利用して天笶との距離をさらに詰めようと考えていた。
現在のレキと天笶の関係は奴隷と主人という関係でしかない。奴隷と主人の関係と言っても、天笶はレキを家族同然に扱っている。不当な扱いをする主人が多い中、天笶ほど奴隷を大事に扱っている人は中々いないだろう、レキは十分に恵まれていた。
天笶はレキに異性という意味で手を一切出していない。
レキ自身も自分の体に魅力がないとは思っていない。二年前は男と間違われるほど絶壁な胸だったが今は谷が常時作られるほどの豊満な胸を持っているし、男とすれ違ったら大抵のものが振り向くだろう体つきをしている。
しかし、そこは異性と住むだけで悩む天笶だ。世の中の男性ならレキの水浴びをこっそり覗くぐらいするだろうが、それすらしない。
天笶は貞操感を大事にしていた。
そんな訳で天笶とレキを結ぶものは奴隷と主人という関係しかないのだ。
もし奴隷紋を解除することが出来、ただの親しい中という間柄になれば、何もない異性が同じ屋根の下に暮らすのは問題として違うところに住むぐらいはやるだろう。
レキの違法の奴隷紋は解除のキーワードがないためそう簡単に外せはしないが、解除魔法を習得すれば強引に解くことは出来る。
最近はレキの治療の必要がなくなったために解除魔法の本を買い、習得しようとしていた。解除魔法はかなり難しく、そこそこ出来るだけで解除士という専門職業をやれるほどである。
さらに天笶は解除魔法と相性が悪く、習得に時間がかかりそうだがそれでも一年ほどあればレキの奴隷紋を解除できるほどの解除魔法を習得できるだろう。
レキにとっては奴隷と主人という恵まれた関係は後一年間もすれば終わる。リミットは後一年間。それまでにそれ以上の中になろうと考えていた。
***
町に出て取りあえず、商業区でも回ろうかということになり、さっそく町に繰り出す天笶とレキ。
レキは玄関を出て間もないところで、天笶の手を手繰り寄せて抱きしめるような形でつかんだ。いきなりのアプローチである。だがこれを天笶は
「なぁレキ。もしかして町に出るのが恐かったりするか?」
奴隷時代の仕打ちでレキが人間不信に陥っている合図だと受け取った。
「いえ、そう言う訳じゃ……いや、そうです。その通りです。なので今日一日はこの形で居させてください」
レキは奴隷時代のせいで実際に天笶を刺すほどの人間不信に陥っていたが、今は天笶のおかげですっかり治っている。けれども都合が良かったのでレキはそういう事にしておいた。
レキに手を抱きしめられながら町を歩く天笶とレキ。
途中で天笶は奇妙な目で見られたり陰で嘲笑されていると感じたが、実際は男が美少女のレキに抱きしめられて歩く天笶を羨ましい眼差しで見ていたり陰で嫉妬の言葉を吐いているだけであった。
天笶とレキは商業区に入ると様々なものを見て巡っていった。それこそ、食料品が売っている市場から剣や槍が売っている武器屋までだ。
天笶が意外だったのは、レキがペンダントとかぬいぐるみとか女子が好きだと思っている様なものにあまり興味を持ってなかったことである。逆に女の子が好きそうなのイメージから真逆のナイフや短剣を食い入るように見てたことだ。
「レキって刃物が好きなのか?」
二年間の間で天笶が仕事に行っている間は暇になるだろうと、本や編み物の糸、パズルなどの娯楽品を買って持ち帰ったが、一番喜んでいたのはリハビリのために買って来た木刀や木の短刀だった様なと天笶は思い出した。
「好きですよ、ご主人様。実は私、奴隷になる前は傭兵でした。その時に使っていたのが得物がナイフだったのです。その時に信頼してたのは使う二本のナイフだけでした。そんな訳で、自然にナイフや短刀は好きなっていきましたね」
そう言う、彼女は竜の装飾が付けられた値段の高い短刀から目を離さずにそう言った。
「今見てるそのナイフって、レキから見て技物なのか? 僕はそういうの良く分からないんだけど」
レキはそのナイフを手に取って、刃先を手でなぞってから答える。
「いや、これはだめですね。装飾がいいだけです。実用性を求めるならこのナイフを買うべきではないですね。それに私の好みじゃないです」
私が好きなのはああいうのですね、とそう言って隣の壁に無造作に刺してあるナイフの内の一つを指さした。
そのナイフは余計な装飾が一切ない。刃の色は真っ黒で、商品名のタグが不幸を呼ぶ呪いのナイフとなっている。
後はこういうの、言って指さしたもう一つのナイフも、持ち主を殺す悪魔のナイフというタグが付けられたものだった。
「ええー、明らかにやばそうなんだが、落として拾う時に毎回刃を触って怪我しそうだぞ」
「大丈夫です。刃物何て慣れれば怪我しませんよ」
「うーん、そんなものか?」
その後に、天笶はその二つのナイフと足に付けるタイプのナイフホルダーを買ってレキにプレゼントした。
レキは笑顔でそれを受け取って、さっそく足に装備する。付ける様子が様になっていて、天笶は本当に傭兵をやっていたんだなと感心した。
歩く様子もぎこちなさが一切なく、まさかこの少女が白いワンピースの下に二本のナイフを装備しているなんて想像できない。
武器屋を出て表通りに戻った時にレキは天笶に、あることを訪ねた。
「そういえばご主人様は余り強さに頓着しませんよね。さっきもナイフのことは分からないって言っていましたし。私が育ったところが傭兵団っていう力が一番の所だったせいかもしれませんけど、男の人はそういう事に興味津々だと思っていたんですけど」
それはレキが思った単純な疑問だ。この世界では、個人で力の差がかなり出やすい。それ故に、突出した力のある強い者はこの世界で有利に生きられるのだ。
例えばA級を超える冒険者は一回の依頼でE級の冒険者が一年掛ってもらえる報酬を稼ぐことが容易にできる。
戦争でも地球とは違い、数より質が求められる。
そういったことで、この世界の男性は力に憧れ力を手に入れようとするのだ。
酒場なんかで武勇伝を語ったり、手で石を砕いて力を見せつけたり、力を誇示するのは当たり前のことであり、天笶のように力に執着しない方が珍しかった。
傭兵団にいたときは男連中から自分がいかに強いのか、耳にタコができるほど聞かされたが、天笶からはそういった話を一切聞かない。
なのでレキは天笶がどれぐらい強さなのかさえ知らないのだった。
「うーん、元々住んでいたところは強さが余りいらない場所だったからかな。僕は自分と大切な人を守れるだけの力が有ればそれでいいよ」
「ふ~ん。ご主人様、その大切な人の中に私は入っています?」
「もちろんだよ。誰にもレキを傷つけさせなんかしないさ」
「嬉しいです!」
天笶の言葉に顔を少し赤らめながらも、レキは自分の感情を包み隠さずいうのだった。




