絶望していたので猫耳奴隷少女飼いました 5話
天笶とレキの共同生活が始まった。
最初の一日はまずい朝食を食べて、お互いを知ることから始まった。
言葉を話せないなら、筆跡はどうかと天笶は思って試してみるがレキは簡単な単語を読むことしかできなかった。傭兵の仕事にはそれだけで事足りてしまっており、難しいことを伝えなきゃいけない依頼も話を聞いて終わりだった。つまりレキは脳筋だったのだ。
仕方がなかったので文字を一文字言っていき、名前の文字の所で頷くという方法でレキの名前が天笶に伝わった。名前一つに十分以上かかったことに、やばいと思った天笶はとりあえず毎日のカリキュラムに文字の勉強を追加することを決めた。
そういったやり取りがあったあとに、天笶はレキに水浴びを推奨する。
これにレキは素直に従う。
庭の井戸で水浴びをするのだが、レキの隣で当然の様に脱ぎだす天笶にレキは度肝を抜かれた。天笶はレキのことを男と勘違いしているために、別に問題はないと思っているのだ。
しかしそれはレキにとっては天笶に裸を見られることを意味する。
傭兵時代は男所帯で、男の前でも水浴び位平気でしたものだが、何故かレキは天笶に見られるのが無性に恥ずかしかった。
病み上がりで井戸から水を汲むのは辛いだろ? という善意で隣にいる天笶を何とかレキはジャスチャーで伝えようとしようするが一切伝わらず、結局押しまくって天笶を追い出すレキ。
天笶は全身の傷を火傷を見られたくないのか? と本質を理解しないままに納得した。
水浴びが終わった後は、早急に文字を覚えようという事で勉強会が開かれる。
レキにとって文字の勉強はこの世で嫌いなことベストスリーに入ることだったが、天笶に文字が書けないと会話すらできないという事で渋々勉強した。
昼間になるとまた天笶がまずいご飯を作り、食べ終えると又勉強会が開かれた。
夕方になると勉強会は終わり、天笶は治癒魔法をレキに試した。
昨日の夜にもやってみたと言いつつ、天笶は服をめくって腹を見せる。そこにはレキに刺された傷跡が薄く残っていた。天笶曰く、包丁を抜いた後は雷魔法で傷口を焼いて夜に治るかどうかやってみたのだとか。結果傷の跡が薄く残るぐらいに治っている。
まず天笶はレキの耳を治すことにした。レキの耳に手を当てて魔力を注ぎ込む。本来治癒魔法は手で治したいか所に触れなくてもいいのだが、触れたほうが効果が高いので天笶はそうした。
魔力を注ぎ癒しのイメージで治癒魔法を発動する。けれども目に見える成果は中々出てこない。結局限界まで魔力を使って欠けた耳が少しふさがった程度であった。
これは治癒魔法は古傷には効きづらいというのとなくなった肉体を取り戻すには膨大な魔力がいるからという事だ。
その日はそれで終わり、二人は寝ることとなる。
二人が寝ることとなったのは二階の寝室だ。ベッドが二つあり元々はニックとハリスの男二人組が使っていた場所である。
一緒の部屋に寝るのが恥ずかしかったレキだが、天笶の泥棒が来ても大丈夫なようにという心配によりレキも納得して一緒の部屋で寝ることになった。
こうして何事もなく二人の共同生活一日目が終わる。
ベッドの上でレキは今日一日のことを考えていた。
(……アマヤ、いやご主人様のことを考えると少し胸がドキドキするけど……まさか? でもそんなはずは、でもこんなの初めてだし……)
自分が初めて味合う感情に心当たりがありながらも変なプライドが邪魔して、素直に認められない。息苦しいけどでも嫌いじゃないという謎の感覚に、レキは布団を強く抱きしめるのだ。
そんなレキのこととは裏腹にアマヤもまたベッドの上で考え事をしていた。
(僕はこのままレキを育てる? 一緒に生活していていいのだろうか?)
天笶は考えながら悩んでいた。それはレキの主人として相応しいか、その資格があるのかという事だ。
あの時、天笶は奴隷商の口車に乗せられてまた、自分が目の前の子を見捨てられなくてレキを買ったのである。
レキのことを救おうだとかそういう事を考えて買ったわけでは無い。自分は善という良い行いをしているのではなく、自分あの時の見捨てられないという感情のために買った。つまりは偽善なのではないのか。
他にもレキと同じような目に合っている奴隷があそこにいたかもしれないのに、見捨てて帰ってよかったのか。
僕がレキを買ったのは、ただニックらという心の拠り所の変わりがほしかったんじゃないか?
そんなことを天笶は思う。
***
次の日からも二人の共同生活は上手く過ぎていく。
朝には天笶の作ったマズい朝食を食べて、勉強してマズい昼食をたべて勉強して治癒魔法をかけてマズい夕食を食べて寝る。
そんな生活が続いた。
毎晩の治癒魔法のおかげもあって、一週間が経つころには猫耳が完全に完治した。
マズい料理もそれなりになって、文字も簡単な単語なら書けるようになる。
リハビリのために天笶が木剣を買ってきて、その日のうちに模擬戦で負けるという事態も起こった。
和気あいあいと過ごし、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
さすがにずっとレキにつきっきりだと、お金が無くなるので天笶が仕事に出かけ、その間にレキが勉強したり家事をしたりというスタイルに変わっていった。
気づけば二人の共同生活が始まって一年の月日が流れようとしていた。
しかしこの時に天笶は避けられない悩みに直面することになる。




