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絶望していたので猫耳奴隷少女飼いました 4話

 天笶は外に出てこれからの生活に必要だろうと思うものを買い集めた。まず服屋に行き、レキ用の服を何着か買った。天笶はこの時、レキを男だと思っていたので当然購入したのも男向けの物だ。

 その後に修道院に行き、治癒魔法が載っている経典を購入した。治癒魔法が載っている経典は、読めばいきなり魔法が使えるというものではない。本を読み込んで、何回も練習してやっと治癒魔法が使えるようになる。いわば治癒魔法のコツや使い方が載っている本なのだ。

だが逆に言えば読み込んで何回も練習したらできるようになるのであり、魔法が使えるようになる価値があるので値段は膨大なほど高い。一冊金貨二枚という値段である。すべての治癒魔法が載っている経典を集めると金貨十枚はかかる。

 天笶は金貨十枚を払って五冊を一気に購入した。黒龍討伐の報酬が余っていたし、治癒魔法が上手くなってレキの傷を治せると思えば安いものだと天笶は思っていた。

 最後に食料を買いに行った。何がいいのか悩んだが、取りあえず体にいい物と体の弱いものでも食べられるものを聞いて購入した。おすすめの調理法など体の弱っている人にもおいしく食べられるレシピをメモし、天笶は家へと向かう。

 空を見ると日がかなり傾いており、五時ぐらいだなと思いながらお腹を空かせて倒れてはいないだろうかとレキのことを心配していた。

 

「ただいまー、待たせてごめんね」

 

 天笶はそう言いながら玄関を開き中に入る。

 

「!?」

 

 次に目に入ったのは荒らされた家の中だった。

 小物が散らばっていたり、ご丁寧に靴箱の中身すら掻きだしてある。

 何者かが家に侵入し、荒らし回ったことは明確だ。

 天笶は真っ先にレキのことが気がかりになった。持っていた荷物を放り投げて、レキのことを探す。

 

「おい! 大丈夫か!」

 

 走って部屋を見て回り、当然リビングにも天笶はレキを探しに来た。

 ドアから走って入って来る天笶、余りにも無防備なその姿を後ろからレキは見ている。


(何も疑わず、入ってきやがって死ね!)


 レキが包丁で狙うのは首もとだ。首を刎ねて生きている生物はそうそういない。まず人間なら即死だ。

 音を出さない歩行術で迫り、天笶に向かって包丁を振るう。


(!? しまった!!)


 それは空腹による、とっさの失敗だった。力の入れ方を間違え音を立てて体勢を崩れかけさせてしまったのだ。

 レキの音に気付き反応する天笶。ここでレキが助かったと思った点は、天笶が格闘に関しては素人だったことだ。

 一か月前まで日本にいてその時から運動らしい運動を天笶はしていない。異世界に来てからも格闘技術は素人に毛が生えた程度で、戦闘にはほとんど魔法で対応していた。

 天笶がとっさに出来たのは振り返ることだけだ。

 レキは体勢を崩しながらも包丁を突き出す。

 

(クソッ!!)

 

 狙いは首から大きく外れて天笶の腹に突き刺ささる。


(致命傷だろうが、まだ死んでない!! 早く抜いて魔法を使う前に殺さないと!!)


 レキが一瞬のミスに焦りを感じていた時、天笶はこの状況と似たようなことがあったなと思い出していた。

 あれは天笶が異世界に迷い込み鹿熊に襲われた後のことだ。ニックが鹿熊を両断したあと、半狂乱に陥っていた天笶はニックも敵だと思い殴り掛かっていたのだ。

 ニックは顔面を殴られながらも、肩に手を置いて


「大丈夫だ、俺は敵じゃない」


 と嫌な顔一つせず答えてくれた。

 後に聞いたときも、へなちょこすぎて全然効かなかったよと冗談交じりに返してくれたくらいだ。

 天笶はあの時と同じだと、立場が変わっているだけだと、今自分がするべきことが何なのかを自分なりに導き出していた。

 レキが包丁を抜き出す前に、天笶はレキを抱きしめる。

 レキが驚きさらに包丁を深く突き刺すも、レキは抱きしめるのをやめない。


「大丈夫だ。僕は敵じゃない。僕は君に危害を加えないよ。安心してくれ」


 レキは信じられないことを聞いた。初めは言っているが分からないほどだった。

 こいつは何を言っている? 正気か? そう思った。

 数十秒して天笶が言っている意味を理解した。

 天笶はこの家の様子を見て家を誰かが侵入したと思ったのだ。そしてレキがそれに驚き帰って来た天笶を刺した。天笶は本気でそう思っているのだ。

 レキのことを一切疑っていない。

 

(何で? なんでなんだ?)

 

 気づいたらレキの目から一滴の涙が流れていた。

 今レキが天笶を刺したのは驚いてでも咄嗟にでも、間違えて誤ってでもない。自分の意思で自分のことだけを考えて行ったのだ。

 家を荒らしたのもレキだし、泥棒何てもちろんいない。

 天笶を心の中で馬鹿な奴だと嘲笑っていたし、天笶も口には出さないまでもどこかレキのことを馬鹿にしているのではないかと待っている間に思っていた。

 ヘインケルが天笶をレキが殺すかもしれないとまで言っていたのだ。

 それなのに、天笶はレキのことを一切悪く思っていない。

 どこまで優しければ、そんなことができるのだろう。

 奴隷商もヘインケルもレキも天笶はお人好しの馬鹿だと思っていたがそうではなかったのだ。ただ心優しい奴だったのだ。

 

「もう大丈夫。落ち着いたか?」


 そう言って抱擁を説いた天笶の顔は笑顔だ。レキに心配させないようにと、思っているのだろう。その様子を見てレキはとても安心した。何か心が温かくなるような気持と同時に、今まで強い意識で保っていた体に限界が来た。

 疲れがレキを襲い、それに流されるままにレキは倒れる。

 どこか遠くからの様に天笶の心配する声が聞こえた。

 その声を聞いてレキは、自分の体の方を心配しろよと言いたくなりながらも、意識を失った。


***

 

 次にレキが目を覚ますとそこは最初に座らされたソファの上だった。窓から入る眩しい明かりと時計に映る時刻で朝なのだと理解する。

 上半身を起こして目の前をみると、前にある机の上に治癒魔法の経典が積み上げられていた。

 一冊は広げてあり、読んだことがうかがえる。

 

「おお! 起きたか! もう起きなかったらどうしようかと思ったよ!」

 

 声の方にレキが向くとレキが目を覚ましたことを喜ぶ天笶の姿があった。


「すぐに朝食を作るから待っていてくれ」

 

 そう言った二十分ほど後に、天笶が朝食らしきものを持ってきた。

 体が弱っている人でも食べられるという事で煮込み料理を、作って来たらしいのだがはっきり言ってド下手だ。

 野菜の切り方からして料理の初心者だと分かる。

 味も調味料の入れ過ぎとあく抜きが下手なせいでかなりマズい。

 料理店で出したらコックがぶん殴られるレベルである。

 

「初めて本格的な料理をしたけど、やばいな。これから練習しよう」

 

 その日の朝食はレキにとって今まで食べたものの中で間違いなく下から数えたほうが早いくらいマズいものだったが、何故か今まで食べたものの中で一番おいしく感じられたのだった。



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