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絶望していたので猫耳奴隷少女飼いました 3話

 天笶が出かけて三十分も経った頃、レキは家の中を荒らしまわりながら金品を探していた。


(クソッ、全然金品がねぇ!)


 一階のトイレから二階の寝室まで、片っ端から調べたが銅貨の一枚も出てこない。この時、レキは知る由もなかったが、ニックらや天笶はお金を自分で全部持っておく派であり、使わないお金は庭の倉庫にしまってあった。他にも貴重品や武具は倉庫にしまってあり、倉庫の鍵は現在天笶が持っているだけである。

 レキはタンスの中から取り出した背丈が合わないジェーンの服を着て、台所から持ち出した包丁を手に持っていた。

 苛立ちに包丁を振り回してから、レキは少しでも食料がないものかと台所を探るも保存食すらない。

 

(収穫が服と包丁だけか、もう三日は水しか飲んでないし、さすがにこのまま逃げ出すのは無理だな)


 何回か無理やりこじ開けようとした庭の倉庫を見つめて、レキはあの時に鍵開けも習っておけばよかったと後悔した。

 

(……あいつが買い物から帰ってきたら、殺して食料と金を奪って逃げるか)


 そう決心したレキはリビングの死角に潜み、天笶が帰って来るのを待つ。


(どうしてこうなったんだか)


 レキは天笶が帰ってくるまでの暇な時間に過去のことを思い出していた。レキが奴隷になるまでの出来事すべてだ。


***


 レキには血のつながった親はいない。誰かすらも知らない。レキは赤子の時に孤児院の前に捨てられており、孤児院に拾われ育てられる。しかし孤児院の生活は良いものではなかった。孤児院の経営者は貴族から支援を受けていたものの、院長がそのほとんどを着服し孤児院自体は貧乏であったからだ。

 支援を着服するような院長がトップの孤児院である、孤児院は劣悪環境だった。レキが七歳の頃に院長の着服が発覚、これに腹を立てた貴族は孤児院を閉鎖し、レキは住む場所を失った。

 居場所を探し彷徨う途中で、レキはその腕を見込まれ傭兵団にスカウトされる。腐った孤児院で育っていたレキはいつか外に出て食べていくために腕を鍛えていた。猫の獣人という種族がらもあったのかどうか分からないが、その年にしては異端ともいえる強さを身に着けていたのだ。

 その時は金がなく、財布を泥棒しようとした相手が傭兵団のリーダーだったである。

 盗みは失敗したが傭兵団スケルトンナイトのリーダーのザックスに、腕を買われ傭兵団に入団した。

 入団当初は、十にも満たない小娘という事もあってか周りから疎まれていたが、ザックスに鍛え上げられ十歳になったころにはすでに傭兵として活躍できるほどの強さを手に入れていた。

 ナイフを逆手に持った二刀流というスタイルで、小柄な体躯を活かし猫の獣人の脚力を使いこなし風のように駆け回りながら切り裂いていく。

 生まれながらに持った野生のセンスや、培ったナイフの技量が合わさり、十歳からは劇的に力を付けていった。

 この世界では獣人は魔法を使えないが、それを持って余りあるほどの戦闘力がレキにはあった。

 十三歳の頃には傭兵団スケルトンナイトの一員として名前が知れ渡るようにまでなり、その頃にはレキを傭兵団の中で疎むものはいなくなっていたのだ。

 しかし、これはレキに実力があるのでその実力に免じて認めてやるというものであり、レキという個人そのものを良く思う奴は余りいない。

 レキの性格は歪んでいた。

 まともに食事すらださない孤児院という劣悪な環境。親の愛も知らず、強さだけがすべての傭兵団で育つ。まともに育つはずがなかったのだ。

 レキは誰も信用せず、力だけがすべてだという考えを持っていた。

 実際力があるから傭兵団の中でも認められていたということもあり、レキは力だけがすべてという事を疑わなかった。

 周りと同調せず、敵は確実に死ぬまで殺す。泣きわめこうが、命乞いしようが殺す。

 傭兵には交渉術や算術や、もし捉えられた時に逃げ出すすべなども学んだ方がいいとザックスから言われていたが、レキは自分の強さを磨く以外のことは無駄と思いしなかった。

 

***


 それはレキが十四歳の時のことだ。その時には一種の死神として恐れられていたレキはある日、仕事先で罠にはめられる。

 与えられた情報と現場の情報が明らかに違っており、一対七十という最悪の状況に陥ってしまった。

 死の物狂いで敵を殺し、何とか全員を殺すことにレキは成功する。

 しかし、どこから飛んで来た矢が腕に掠り、その矢に麻痺毒が塗られていたおかげで動けなくなった。

 伏兵にやられたのかと死を覚悟したレキだったが、霞む目で最後に見たのは同じ傭兵団に所属するオーエンであった。

 その時にレキは、この罠に傭兵団の奴も関わっていたことを理解した。オーエンが裏切ったのか、他の奴らも裏切ったのか、そんなことはレキにとって些細な事である。

 裏切ったに違いない全員をぶち殺したい気分だった。

 レキはその半面で気づいていた、自業自得なのだと。オーエンはレキが雑魚呼ばわりしていた下っ端であり、そのことをオーエンが憎んでいたのは知っていた。

 今回の出来事はまだ十四歳というまだまだ伸びしろのある死神を恐れた者と、それを利用したレキを良く思っていない人物がいて起こったことなのだ。

 もっと周りに歩み寄っていれば、こんなことにはならなかったかもしれない。そう思いながらも他人を信じることをやめていたレキは反省をしなかった。

 次にレキが起きたときには首に違法の奴隷紋が付けられていた。

 そこからの一年は今までの一生で一番最低な一年間だ。

 思い出したくもない。復讐を生きがいにして耐え続けた。

 今では声も出せないし、左目は見えないし、耳はちぎれている部分もある。自分を痛めつけた奴をそれ以上の痛みを味あわせて殺す。そのためには今のレキはなんだってやるだろう。

 あの時、レキが奴隷商の男に馬車に乗せられそうになっていた時。レキは奴隷商の男が一人で武器持たずレキを馬車に詰め込もうとしているのをみてチャンスだと思っていた。キーワードは言わなければ意味がない。首を絞めて奴隷商を殺し、逃げ出そうとレキは思っていた。

 そんな時だ、天笶が現れたのは。優しいを超えてお人好しの馬鹿と感じたレキは、こいつ相手なら確実に殺せるだろうと踏んでいた。

 実を言うと奴隷商を殺して逃げるのは賭けだった。空腹のせいで素手で殺せる確率は低かったのだ。

 今は違う。得意のナイフに値する包丁を持っている。一本しかなかったのが惜しいところだが、あの間抜けには一本でも充分だろう。

 

(……もうすぐ五時か)


 そう思ったのと同時に玄関の扉が開く音が聞こえた。


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