植物転生 26話 ヴァ―レルと大樹の殺し合い
俺がフォフォザットの町の近くに移住してから五年が経った。
今では人間の言葉を覚え、風魔法で会話もできるようになっている。
あれから、マリーとネフォスは結婚し、二人の子供をもうけている。
一人目が生まれたときに、俺は枝を送った。
杖でも作れとその時は空中に文字で現したものだ。
ヴァ―レルの方も結婚し、二人の子供を作っている。
こっちには何も送っていない、だって俺ヴァ―レルのこと嫌いなんだもん。
部下に切らせて様子見するとか手口気にいらねぇし。
さて、そんな今だが、俺の前にはヴァ―レルとその部下三十人がいる。
何の様だろう?
「今回きたのは君との決着をつけるためだよ。大樹君」
『決着って何のだよ?』
「私に子供がいることは知っているだろう。私の家は存続される、私の嫁はかなり信頼できる子でね。私がいなくても大丈夫そうだと思ったのだよ」
『何が言いたいんだ?』
「私が君を殺す。と宣言させてもらおう」
『へぇ、面白れぇ』
と同時に何言ってんだこいつ。と思わないでもない。
俺に比べればヴァ―レルの魔力はカス同然だし、何をされても勝負にすらならないと思う。
だが、ここまで堂々と宣言したのだ。何か秘策があるのだろう。
「では早速やらせてもらおう。屋敷で話した通りだ、実行しろ」
そう言うと私兵たちが、こっちに向けて魔力を集中させる。
魔法の兆しだ。
『言っておくけど、当てたら殺すよ』
俺の忠告は無視された。
炎の玉が生成され射出される。
だがおかしい、威力が低い、わざと抑えている感じだ。
そして炎の玉が飛んで来る。
しかし俺の横を通り過ぎただけで、当たるものは皆無だった。
「君は攻撃されると攻撃し返す。ゆえに当てなければいい」
『意味あるか? それ』
単純に謎だ。何したいんだこいつ。
「意味はある。そして確認しておきたいんだが、この作戦は君の攻撃されない限り攻撃はしないという矜持に基づいている。今更変えてくれるなよ」
『言われるまでもない。変えないさ』
おそらくは攻撃されない限り殺さないという俺ルールを維持させる挑発だったのだろう。乗ってやるかって感じだ。変えるのも癪に障るし。
「安心したよ。これで私は君を殺せる。言っておくが君のそのルールは強者の驕りだ。強いと自覚しているからそう言う発想が出る」
『ふーん、実際今の俺強いしな』
「そうだな、人類が束になって戦争を起こしたところで勝てるかどうか怪しい」
『おお、そこまで強いのか俺』
「それを超えてこそ、私の人生の終幕に意味があるのだ」
『ほへー、相打ちでも狙ってんのか?』
「いや、勝つさ。ただ私は死ぬ。それだけだ」
「良く分かんねー」
その後も、私兵によって魔法の威嚇射撃は行われ続けた。
時々、全力で込める奴が出てくるので安心できない。
なんていうか、剣を常に向けられている感じだ。
それがおもちゃの剣だと分かっていても落ち着かない。
ずっとそんなことが続いた。
魔力が尽きれば、呼び人員と交代し、ずっと射撃を続ける。
ヴァ―レルの野郎は、椅子に座りただこちらをみているだけだ。
時折指示を出しているが何を考えているのか分からない。
『おい、いつまでこれ続けんだ?』
「もちろん、君が死ぬまでだ」
『訳分かんねぇ』
そして夜中、まだ威嚇射撃は続いている。
私兵は館からやってきたものと交代された。
深夜になってもまだ続く。
明け方になっても続き、さらに翌日になっても続いた。
(眠い。あいつの作戦は俺を確実に眠らせる事か。ずっと戦闘態勢に入らなければいけないこととずっと刃を向けられているかのような精神を削る状況。一度寝たら一時間は確実に起きないだろう。いっそ体力があるうちに寝るか。あいつらにとって俺が寝ているかどうかなんてわからないだろうし。後半日は黙って過ごし、その後で寝よう)
その後俺は自分の作戦通りにずっと黙ってから寝た。
俺はその後思い知ることになる。人類の知恵を、ヴァ―レルの立てた作戦を。
「寝たか。意外に寝るのが早かったな。やはり戦いに関しては素人。殺気が消えて丸わかりだよ」
「本当にやるのですか、ヴァ―レル様」
「やるよ、ガーランド。妻にはすべて話してある。それに僕は死ぬが作戦が成功すれば死にはしない。この町の守り神にでもなってやるさ」
大樹が寝た五分後、ヴァ―レル子爵は魔法陣を展開した。この五年間でやっと聞き出した禁術。エルフが持つ植物と融合する術だ。
体をすべて魔力に変え、精神を植物に注入し、乗っ取る。
問題は元々精神がない植物相手の術だということ、意識があるものに対しては抵抗があるだろう。だがそれも相手を寝かせることで解決した。
しかも緊張状態を維持させ、精神的に疲れているはずだ。
いつも寝ている状況より、かなり無防備だといえよう。
ヴァ―レル子爵は禁術を展開する。
ヴァ―レル子爵の体が分解され、大樹へと向かっていった。
目が覚める。
俺の意識はある。寝ている間に殺されるかもしれないという不安はあったが、特に何もなかったようだ。
『やぁ、起きたかね。もう少しで完全に殺しきれたんだがね』
『んん? 何だこれ?』
ヴァ―レルの思念とでもいうべきものが俺の中に響く。
そこで俺は気づいた。
俺の意識の支配が枝一本分しか届いていないという事を。
後はヴァ―レルが支配しているという事に。
『エルフの禁術を使った。植物と融合する禁術だ。君はそれで体のほとんどを僕に乗っ取られたんだ』
『なるほど、やりやがったな畜生め』
こんな術が存在するとは、寝ている間に俺の体の大半は奴の手中。だがギリギリのところで俺が目覚めた。
『さてこのまま私の意識で押しつぶさせてもらうよ』
『さすがに無理か。お前何度も死線を潜り抜けた英雄らしいからな』
俺は精神対精神の真っ向勝負で勝ち目がないと悟る。
だから俺は枝にこめられた魔力で魔法を使う。
風魔法で自分の枝を切り落とす。
『今回は負けだが、いずれ殺すぜ。次は先手を譲ってやんねー』
『させるか!』
俺が逃げると悟ったのだろう。
ヴァ―レルの大樹に魔力が集まるが遅い。
乗っ取ったのは俺の体で技術は奪えてない。
俺は転移魔法を全力で使って、行き場も分からずワープした。
残ったのはヴァ―レルの意識が残った木だ。
『逃げられたか。勝ったが、殺す前に逃げられた。ひとまず勝利を宣言するか』
残ったヴァ―レル子爵は氷魔法の文字で勝利を告げた。
こうしてヴァ―レルの勝ちで戦いはひとまず終わることとなった。




