植物転生 24 子爵と迅雷の決闘
俺は夜中に汗だくでやってきた火傷女に色々聞かされた。
三回ぐらい同じ話をしていたと思う。
要は前に決闘したムキムキ男と俺を切ろうとする奴に指示を与えたいけすかねぇ司令官に同時にプロポーズされて迷っているという事だろう。
最初はどうでもいいと思っていたが、俺は良いことを思いついた。
と言う訳で決闘をしたらいいんじゃないってジェスチャーで伝えた。
その日、一つの丘の前にギャラリーが集まっていた。
今日ギャラリーが集まっている理由は一つ。
とある決闘を見るためだ。
ヴァ―レル子爵と迅雷のネフォス、二人がマリーという一人の女を取り合って決闘する。
娯楽と言えば酒と女と噂話、駒遊びぐらいしかない町の住人はこの一大イベントを楽しみにしていた。
一週間前に告知された決闘の知らせはすぐさま町中に広がった。
そして今日、ヴァ―レル子爵と迅雷のネフォスが対決するのだ。
ルールはどちらかが戦闘不能になるまで続くものだ。
土俵はない。
武器、魔法、何でもありだ。
「俺はヴァ―レル子爵様を倒して、マリーと結婚するぜ!」
そう宣言するのは迅雷のネフォスだ。
その一言でギャラリーが盛り上がった。
「私も負けられないな。マリーと結婚するのはこの私だ」
ヴァ―レル子爵の言葉でさらにギャラリーが盛り上がる。
ネフォスが大剣を構える。
それに対してヴァ―レル子爵が杖を構えた。
「えっと、それでは決闘を開始します。はじめっ!」
決闘の合図を出したのは今回の決闘の始まり、マリーである。
「一瞬で決めさせてもらうよ」
仕掛けたのはヴァ―レル子爵だ。杖を振り水の龍を作り出す。その大きさは三十メートルを超える。
この大きさの水龍を叩き付けられれば気絶必至だ。
上からたたきつけるように水龍がネフォスに迫る。
それを迅雷を纏ったネフォスが軽々と躱す。
身体能力が強化される魔法だが、少しずつ体を焼くという弱点がある。
使う魔力がかなり多く、習得にも時間がかかるという弱点もある。
それゆえネフォスはこの魔法以外の実践レベルで覚えられる魔法を覚えていない。
俗に言われる戦士系の冒険者であった。
しかしそれ故にその練度と効果はすさまじい。これ一つで成りあがったネフォスは考えていた。
(一瞬で決めなきゃならないのはこっちだ。俺が勝てると可能性は全力の迅雷形態約三十秒。それ以上は体に負担がかかりすぎる! その間に決めなければ負ける)
水龍を軽々躱した後一直線にネフォスはヴァ―レル子爵に向かう。
突如として地面から土壁が現れる。
「おらぁ!」
大剣を振るうネフォス。
ネフォスの振るっている大剣は魔導具だ。
火竜の鱗を使い、魔力を流すと爆発が起きるようになっている。
土壁に当たった瞬間に魔力をこめて一瞬で、破壊する。
そのまま突っ切ろうとしたが、何かに引っかかって体勢を崩す。
「ちっ」
見ると土壁の一番下のラインだけ金属で出来ている。おそらく土壁は簡単に破壊されることを見越したブラフ。本命はこの金属の壁で足を引っ掛ける事。
だがこれぐらいなら簡単に体勢を直せる。
その空中でくるりとまわり体勢を直す。目の前のヴァ―レル子爵に剣を振ろうとして……。
「いないだと!?」
ヴァ―レル子爵がいないことに気付く。
周りを一回転してみるも、その姿を捉えることは出来ない。
「上か!」
上を見てもそこにヴァ―レル子爵はいなかった。
否、魔力を探知すると空中に幻影魔法で隠れているのが分かる。
幻影魔法は視力だけを頼りにする相手には有効だが、魔力が探知できるものには全くの無意味だ。
だが、一瞬判断が遅れる。
合計で五秒ネフォスは無駄にした。
(一瞬で決める何て言っときながら時間稼ぎか、いやらしいぜ。俺の弱点を良く分かってる)
大地を蹴り、宙に隠れているヴァ―レル子爵に迫る。
ヴァ―レル子爵はばれると分かるや否や幻影魔法を解いた。
一直線に向かって来るネフォスに向かってニヤリと笑う。
「それは悪手だよ」
体に重力魔法がかかるただし下ではなく上に、だ。
軌道が上にずれる。
通り過ぎるネフォス。
そのままネフォスは重力魔法で上に上がっていく。
「くそっ」
やられたとネフォスは思った。
重力魔法で上に追いやられると足場がないために戦線復帰できない。
これが地上付近なら、剣で地面を突き刺して地面に帰ることが出来たが地面からジャンプして離れた所で重力魔法をかけられた。
重力魔法で体をうかせられた時の対処は主に二つ。こちらも重力魔法で反するか、相手の魔法を途切れさせるかだ。
出来る手段は後者しかない。
ネフォスは大剣を投げる。投げる瞬間に爆発を乗せて、速度を上げる。
それをみたヴァ―レル子爵は浮いた体を重力魔法で動かして躱した。
魔法は集中力が肝だ。
剣が横を通れば集中力が途切れるのが常人だが、ヴァ―レル子爵に限ってそんなことはなかった。
打つ手なし、重力魔法で浮かされたネフォスに打つ手ない。
詰みだ。
「私の勝ちだな。君は動けない戦闘不能だ」
「まだだ!」
空中でネフォスが炎の玉を作り出す。
お粗末な出来だった。やりなれてないのだろう。
ファイアーボールがヴァ―レル子爵に向かうが水魔法で簡単に消される。
その後もファイアーボールが連発されたが、すべてヴァ―レル子爵の水魔法にかき消された。
息切れし、魔力が尽きたネフォスに対し、ヴァ―レル子爵はまだまだ魔力を温存していた。
その時である。
一陣の風が吹いた。
弱い、木の葉一枚程度しか動かせないような風。
その風に葉っぱが一枚乗っていた。
葉っぱはネフォスの顔に当たる。
ネフォスはとっさに葉っぱを手に取った。
「その葉っぱは!」
ヴァ―レル子爵は感じた。葉っぱに宿る膨大なる魔力を恐らくあれは例の大樹の葉っぱ。
そして吹いた風は偶然ではない。大樹がネフォスの味方をしたのだ。
「嫌われているとは思ってたけどな。そういやマリーがここを決闘場所に決めて、決闘するのも大樹に相談したから何だっけか。すべて大樹の手のひらの上って事か」
「まだ俺にも勝ち目はあるようだな。ルールは何でもあり、飛んできたはっぱを食べるくらいいいよな!」
葉っぱを撃ち落とそうとヴァ―レル子爵の水槍が飛ぶ。
だがその前にネフォスが葉っぱを口にした。
「ぐふっ」
っとネフォスが血を吐いた。魔力の拒絶反応だ。
ヴァ―レル子爵は魔力を取り込む前にかたを付けないといけないと悟る。
水龍を作り出し、ネフォスに叩き付けた。
墜落するネフォス。
土ぼこりが舞い上がる。
そして土ぼこりが晴れたとき、その場にネフォスは立っていた。
口から血を流し、膨大な魔力を秘めている。
溢れ出る魔力が重力魔法に作用して、重力魔法は解除されていた。
ネフォスが迅雷を纏う。
その光は今までとは質が違う。
(来る!)
殺気を感じたヴァ―レル子爵はとっさに防御魔法で光の壁を作る。
一瞬で込めれる最大限の魔力をこめて壁を作った。
それもすぐに粉々に砕かれた。
ただのパンチでだ。
「葉っぱ一枚でこれほどとは……」
そのまま拳がヴァ―レル子爵に直撃し、ヴァ―レル子爵は吹っ飛ばされた。
めきめきと嫌な折れる音が響き、ヴァ―レル子爵は意識を手放した。




