大事な人
これは私の長編小説「神人な恋人」の短編です。
そのため少々分かりにくい箇所があるかもしれませんが、この作品をもっと楽しみたい方は「神人な恋人」をご覧になることをお勧めします。
ここは神界。
今日は珍しく霧が晴れて、爽やかだった。
そして、ここは朱雀の部屋。
物書き机に向かったまま、離れない。
ふと、朱雀は机から顔を上げた。
部屋の襖の向こう側に気配を感じる。
「誰?」
本当なら、集中すれば誰かなんてすぐに分かる。
しかし、あえてそれをしないのは疲れているからなのか。
「入っても良いのか?」
少し低めの声。
だが、明らかにそれは女性のもの。
「天空かしら?」
「ああ」
「どうぞ。構わないわよ」
すっ…と襖が音もなく、開く。
そこに立っていたのは長い髪を高く結い、袖のない切り袴を纏った女性。
「どうしたの?」
「いや…特に用は無いのだが…」
「一体何なのよ…」
ため息まじりに呟くが、まあいいかと思う。
「そうね。私も疲れましたし…お茶にでもしましょうか?」
天空は黙って頷いた。
「じゃあ、和美様から頂いたお菓子を頂戴しましょう」
そうそう、と朱雀は天空に言った。
「天后と六合、天一は嫌がるかしら…でも一応呼んできてちょうだい」
「……分かった」
天空は再び襖を開けて出て行った。
全く、と朱雀はひとりごちる。
天空の外見は若く、とても美しいのに何か冷ややかな雰囲気がある。
否、冷ややかではない。近寄りがたい、とでも言うべきか。
何かを抱えている。
とてつもなく大きな、何か。
きっと彼女の心では受け止められない位に大きな何か。
天空は強い。
戦えば十二神将のなかでも三番目に入るか入らないか。
しかし、戦闘以外の彼女は何かを堪えている。
生前、彼女に何があったのか。
神は人が死に、そして力があり、なおかつ強い願いを持った者だけが神となりその願いを果たす。
自分は『和美』という少女を守りたかった。
前世に最期まで守りきれなかったから。
しかし今の和美は生前の『あのお方』とは違う。
外見・容姿・声…
似ているところは山ほどある。
だが、何か違う。
それは『魂』か…
他の十二神将も同じ思いがあるのか。
それは聞いたことがない。
四神はその中でも一番に思いの強い者だけが、成れる神。
青龍、玄武、白虎。
この三人は出会えた。
再び会いたいと願った『人』に。
しかし、四神以外の十二神将は主を持てない。
ならばどのような基準で『神』を決めるのか。
「長い疑問ねぇ…」
和美からもらった菓子を箱から出し、一つ口に入れる。
「和菓子ですね。私の口に合わせてくださったのかしら…」
花や鳥の形をした砂糖菓子。
それを皿に並べながら、今度十二神将に聞いてみようと思った。
「お邪魔いたします」
音無く襖が開いて、四人の女神が現れる。
「あら、天一も来てくれたのですか?」
「ええ。賑やかな席は大好きですもの」
やんわりと笑って言った。
「あ。可愛い!」
天一の後ろからひょっこりと顔を出した六合は菓子を見ていった。
「あら、本当」
「食べてしまうのが勿体ないですね」
「本当に…」
しかし、朱雀は思った。
こんな時も天空はだんまりしている。
ふう、と一息つくと四人に言った。
「それでは頂きましょうか」
「全く…天空は相変わらずだな」
隣の建物の屋根に座っていた勾陳と騰蛇は彼女達のやりとりを見ていた。
「ああ。なぜあそこまで気張る必要があるんだ?」
いつもふざけている騰蛇も、今は真剣だ。
「分からない。生前、天空には何かがあったはずだ。それを知っているのは審神だけだ。他の者は誰一人として知らん」
「仕方がないだろう。天空はもともとあんな性格だ」
いきなり二人の背後に現れた大陰は冷たく言った。
「お前も変わんねぇ奴だよな…」
いつも優しい大陰は、何故か天空の時だけ冷たい。
騰蛇はそれを敏感に感じ取っている。
「俺はあいつが嫌いだ」
「いつもそう言うな。それはどうしてだ?」
「わからん」
「おい…」
「だが、本能的に拒絶しているんだ」
大陰はそう言い捨てた。
『ったく…神様ってもの楽じゃねぇなぁ…』
騰蛇は一人そう思った。
――管理人――
どうでした?
私もなぞだらけです。
少しずつ分かっていくと思います。
それではー。