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2章 世界は表と裏でできている ⑥

「「「託宣?」」」


「かつてそういう能力を持った人がいたんだよ」

 コーヒーに砂糖を投入し続けながらそう語る弧月。5本目のスティックには在人達も呆れ気味だった。


「かつて……ってことは、今は」

「ああ、既に死んでいる」

「……それが今、何の関係があると?」

 在人の疑問に、6本目のスティックを開けつつ弧月が答え始める。


「現在、超能力研究はお偉いさんの指示もあって、より実用性の高いものを優先している。その中でも特に使われる技術が2つある。

 1つは、脳波による個人認証技術だ。例えばそこの扉。実はそれ、普通の自動ドアじゃあないんだ」

「でしょうね。仮にも指令室のセキュリティがそこまでガバガバだとは思えませんし、ドア横に認証用の機械らしきものがあったのに、さっき富嶽さんはそれを使わなかった」

「確かその横の機械が反応してたわね。それで開いたのはわかったんだけど」

 在人の推測に、観咲の補足が加わる。観咲の目には、何かが確認されたことが見えていたのだろう。


「脳波は元々、人間の脳の活動によって生じるものとして、心身の状態を示す基準になるものだったんだが、能力研究の過程で、自身の外部へ影響を与えうる特殊な脳波があることが確認された。一応ψ(プシー)波って名前が付けられたんだ。超能力を表す記号だからってね。

 特徴として、通常の脳波が周波数の違いで自分の内部を表すものであるのに対して、このψ波は周波数の違いでは分けられていない。特定の観測法で捉えられる波形を総じてψ波と称している。

 最初は能力者特有のものかとも考えられたが、調べてみると一般人も、全体的に能力者より弱めではあったけど、誰もが持っていて、しかも同じ人物の波形が複数回計測してもほぼ一定なのに、複数人で計測するとそれぞれの波形が微妙に違っていた。そのため現在、より精度の高い個人認証技術としての活躍が期待されているんだ。

 また、波形の中には個人で固定されている領域と、多少変化する領域とがあるらしく、この変化する領域は、どうも思考の影響を受ける、いや、むしろ思考の内容を記載している節があってね。まぁ要するに、この脳波を受信する側に指向性を持った命令を送れることになるが……、わかりにくいね。その辺はこの後に説明しよう」


 マドラーでコーヒーをかき混ぜながら説明していた弧月はここで一息つくように口を付けた。なお、かき混ぜている間、わずかにザラザラとした音が聞こえており、砂糖が溶けていないことにみんなが気づいていたが、誰もツッコむことをしなかった。


「で、もう1つが能力を技術に組み込んで直接利用する研究。もう研究っていうより開発ばっかりだけど。

 とりあえずこれを見てもらおうかな」

 弧月が取り出したものは、腕時計のような形をしていた。というより、在人達にはただの腕時計にしか見えなかった。


「え? うわ! すご〜い、きれ〜い!」


 しかし、次の瞬間、その文字盤の上に極光(オーロラ)が浮かんでいた。

 それは夜空でもないのにはっきりと輝き、特に観咲と環奈を魅了していた。


「これは物質を励起させる能力を応用したもので、まぁ主に発光現象を引き起こすくらいしかできないんだけど、時計を照らすことから、目くらましになるほどの強烈なものまで私の意思一つで使えたりする、地味だけど優れものだよ」


「能力を応用って、つまり科学的に再現した、とかですか?」

「ううん、そういうのじゃないみたいよ」

 即座に否定したのは、科学とは違う、超能力と同種のものをその目で捉えた観咲であった。


「さすがだね。そう、これはさっき言った能力を登録した鉱石を使用しただけのちょっと変わった腕時計だよ」


「能力を登録した鉱石?」

「とある特殊な鉱石があるのさ。名前はミスリルって言ってね――」

「あ! なんかゲームとかでよく聞くやつ!」

「確かに……」

 環奈ほどではないが、ゲームをすることがある在人にも、多少なじみのある名前だった。


「まぁ名前は想像上の鉱物にあやかって付けたらしいけど。

ともかくこの鉱石には特殊な性質があって、特殊な2種類の電磁波を当てることによって、能力と使用権の登録ができるんだ。

 そうだね、仮にA波と呼ばれる電磁波を当ててミスリルを励起状態にすると、そこに能力者のψ波を当てることで、ミスリルがその能力を記録する。

 で、別の電磁波、まぁB波としておいて、こちらで励起させるとψ波で個人を登録できるようになり、登録した人物のψ波でのみ記録された能力を発動できる。

 この2つの合わせ技で、ミスリルは専用能力端末になるというわけなんだけど……」

 そこまで口にして、弧月は端末から情報を呼び出す。


「登録した能力ってちょっと本来の能力とは変わってしまうんだけど、登録内容を変えなければ、本人の死後も能力が使える利点がある。

 そこで、先程の『託宣』だ」


 画面にいくつかの情報が表示されていく。

「現在『BeSPsyD(ビサイド)』で厳重に管理している『託宣』のミスリルは、能力者のψ波を当てることで能力の名前を付けてくれる優れものでね。なるべくこちらに任せてもらってるんだ」


「……優れもの?」

「優れものさ。なんせ、能力の本質を表すことすらあるからね」


「……なるほど」

 確かに、能力者本人ですら能力の内容は曖昧な感覚しかない。それを理解するヒントになるのなら、重要なことだろう。


「じゃあ、冬華センパイたちのも?」

「ああ、そうだ」

「ちょっと言いにくいのだけは、困りもの」


「さっき君たち二人のψ波を取らせてもらった時に、『託宣』に回した結果が、これだ」

 そう言って、とある情報を画面内からピックアップする。

「まず、叶芽くんの能力だ」

 表示された能力名は――


「――――『ラプラスの瞳』」


「これはまた、わかりやすいのが来たね」

「……そうなの? わたしよくわかんないけど」

 不思議そうな顔をしているのはアリシアだけでなく、冬華もであったが、それとは別に、ちゃんと思い出せないのか、うんうん唸っている環奈がいた。


「『ラプラスの悪魔』でしたか? なにかの小説で見たことがあります。確か、ラプラスという学者の言葉、……『もしもある瞬間のすべての物質に関するデータを知り、解析できる知性があるとしたら、その目には未来を含めてすべてが見えていることになる』、……でしたっけ?」


「ふむ、原文とは少々違っているが、おおよそはそんなものだろう。『全知』と呼ぶべき超越的存在がいると仮定した上で、決定論的解釈に基づく、因果律という考えの究極とも呼べる概念。実際は量子論によって否定された概念であるが、現在の状態を知ることができる君の能力としては、ふさわしいものだろう」


「……わかりました。それじゃあ、この能力の名前は、それで」

「決定だね。まぁ、やり直しても変わらないけど」

 観咲の了承を得て、その名前は決定された。ならば次は……、


「で、俺のも決まったってことですよね」


「ああ、もちろん。御劔くんのは……、これだ」


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