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2章 世界は表と裏でできている ④

「超能力には大別して二種類ある」


 在人たちが『BeSPsyD(ビサイド)』への参加を決めてから、2人は簡単なデータを取られて、休憩していた。傷は塞いだとはいえ、怪我人である在人の体も考慮し、指令室のソファに環奈や冬華、アリシアも併せて5人で座った。テーブルにはお菓子や飲み物が置かれ、思い思いに手を伸ばす。緊張感などもはやありはしなかった。


 そんな中、弧月は端末でデータを整理しながら、能力についてより詳しい説明を始めた。


「能力のあり方での分類なんだが、仕組みとか、そういうので分けている訳じゃない。ただ、1つ言えるのは、いろんな能力者と対峙する中で、この2つの違いには大きな意味を持つ」

「それって?」

 クッキーをサクリ、と噛みながら聞く環奈。彼女は超能力者ではないが、在人たちに負けず劣らず、下手をするとそれ以上に超能力に興味を持っていた。


「能力の幅の広さ……、それが、現象系と概念系の違いなのさ」

「現象系と、概念系……」


「そう。そもそもわたしたちは能力の内容をこう定義している。『一文で語れる内容』と。能力を使えるようになった人には、自分の能力がそんな感じに説明できるようだね」

「ようだねって……」

「わたしは能力者じゃないからね。その感覚はわからないのさ」

「あれ? そうなんですか? ……そっか、研究チームって言ってましたもんね」

 得心したように頷く環奈だが、弧月は苦笑いをしていた。

「そのあたりは別に関係ないんだが……。そうそう、富嶽も能力者じゃないよ」


「「「え?」」」


 その言葉に驚いたのは環奈だけではなかった。在人と観咲も揃って富嶽を見る。

 当の富嶽は司令官のデスクに腰かけてゆったりコーヒーを飲んでいた。

「おう、俺は能力持ってないぜ」

「こんな組織のトップやってんのに?」

「まぁな。色々あるのさ。大人の世界には、な」

 そう言ってコーヒーを口にする富嶽。3人の中でその意味を察したのは在人だった。


「ま、得体のしれないやつらの集まりってのが怖いわけだ。要するにさ」

「全員じゃねぇよ。ついでに言うと、ここでの立場は俺より弧月のが上だ。な?」

「一応ね」

 端末から目を逸らすこともなく事もなくそう答える弧月。その手は端末の操作で(せわ)しなく動いている。

「一種の文民(シビリアン)統制(コントロール)ってやつだ。軍隊じゃねぇが、形としてはな」

「?」

 どうやら、環奈だけは文民統制という言葉にピンと来ていないようだった。


「2人は能力者なの?」

 傍らの冬華、アリシアに、観咲はずっと疑問に思っていたことを聞いた。

 2人は事も無げに、

「うん、そう」

「先日からチームを組んでいる」

と、答えた。

「じゃあ、転校してきたのも……」

「配置換えでな。他支部から異動してきたんだ」

 冬華の答えに在人は内心納得していた。


「2人の能力って……?」

 冬華とアリシアは富嶽に視線を移した。まず了解を取りたがるのは、組織的なやり方に染まっているせいかもしれない。

 しかし、富嶽は2人の視線に気づかないようにゆったりとコーヒーを飲んでいた。

 その態度を見て、隠すことでもない、と考え、冬華は口を開いた。


「私の能力は『近距離動性(ショートドライブ)』。『物体を一定距離内で動かせる』、現象系の能力だ。

 数メートル程度だが、範囲内のものを、範囲内で移動させられる」

 そう話す冬華の手に、突然テーブルの上のクッキーが飛んできた。開いた手のひらの上にポトリと落ちる。

「瞬間移動とは違うんだな」

「ああ」

 瞬間移動とは違って、2点間を移動する軌跡ができるため、なんだか少し比較してしまって、下位互換のように在人には見えてしまった。


「……わたしのは、これ」

 そう言ってアリシアが向けてきた手のひらの上には、テーブルの上にあったクッキーが置かれているだけ。

 在人たちが首を傾げていると、突然、手のひらのクッキーがチョコレートのお菓子に換わっていた。

「「「……?」」」

 瞬きする間に換わっていたので、一瞬、その変化に気付くまでにタイムラグができてしまったほど、自然に、そして、換わったことを認識してなお、まず自分の目を無意識に疑ってしまうような、違和感のない変化だった。


「『認識(アンビギュアス)交感(トリック)』。概念系、らしいよ。……『わたしが認識した同種のものを交換する』能力、かな? あ、ちなみにこのチョコレートは、わたしの部屋に置いといたやつ」

 チョコレートを口の中に放り込むアリシアは心なしか幸せそうな雰囲気だ。


「なんで疑問形なんだ……?」

「……わたしの能力(ちから)、よくわからないことが多い。……めんどい」

「めんどいって……」

 呆れ顔の在人に、なんとなく親しみが感じられて、観咲はつい笑ってしまった。

 クスクスと笑う観咲に影響されて、環奈も笑い、冬華の表情も柔らかくなり、場の空気が(やわ)らいでいった。


 ひとしきり盛り上がったところで、弧月が口を開いた。

「さて、話を戻すが、能力は『一文でまとまっている』。ただそれは能力者当人の認識によるもので、実際の内容にはもう少し細かな条件が付いたりする。

 そういったデータをまとめる中で、いくつかの特性がまとまっていることが判明して、それを現象系、概念系の2つに大別する形になったわけだ」


 なるほど、と話を聞く在人や観咲に対して、環奈は暢気なものだった。

「それ、どんな意味があるの? なんかかっこいいから?」

「何言ってんだよ……。その特性があるってわかっていれば、対策しやすくなるだろ?

 ほら、あれだ。ゲームでも初見の敵が固いやつの仲間っぽかったら、そいつと同じかな、とか考えて戦い方合わせるだろ? それだよ」

「あ〜。なんとなくわかったような、ピンと来ないような」

「まぁ、とりあえず話聞きな? 後でわかるかもしれないし。

 えっと、さっきは能力の幅の広さって話してましたけど、どういうことですか?」


「じゃあ、まずは現象系について説明しようか。

 現象系は超能力の中では一般的な部類で、概念系に比べてやや数が多いとされる。

 その能力は定義内容の範疇次第で広がりを見せ、その範囲であれば応用が利く。

 そうだね、例えばだが……、『発火能力』、があったとして、それが現象系の場合、『発火する』こと以外が、基本的にそれに付随した能力となる」


 この説明には環奈だけでなく観咲の方もピンと来ていない様子だった。

「君たちも理科の授業で習っただろう? 何かが燃焼するには、酸素が必要になる。もしも発火させる場所に酸素がなければ、火は点かない。


 だが、()()()()()()()


 だから、()()()()()()()んだ」


「「「……え?」」」


 何を言っているのか、と、ついには在人までもが疑問の声を上げた。

 確かにそれは、基本的な化学の内容だ。誰もが、瓶の中の蝋燭を実験で目にしただろう。

 そもそも燃焼とは、酸化反応の一種。定義的にも酸素がなければ成立しない。


「能力の発動の際には、発動に必要な条件を満たしていない場合、それが調達される場合がある。

 酸素がなければ、どこからか酸素が発生する。

 可燃性物質がなければ、いつの間にかそこにある。

 何より、火元もないのにどうやって着火するのか。そこまでは物理法則を越えるのさ」

「そこまでは?」

「発生した炎は物理現象なんだ。そこから酸素が失われれば当たり前のように鎮火する。

 能力を使い続ければともかく、そこから先は、周りの酸素や可燃性物質を消費し続ける普通の炎だよ」


 つまり、能力としては、『発火する』という現象を引き起こすことが滞りなく行われればいいという訳だ、と在人は理解する。では、それはどんな意味をもたらすのか。


「だから、燃え広がれば周囲の酸素を奪うために使うこともできる。

 これに限った話じゃないが、現象系は、結果が物理法則上の現象として現れるため、能力の内容とは少し違った応用的な使い方がしやすいんだよ。あくまで、しやすいだけだがね」


 能力を応用して、別の結果を引き出す――、それは、


「……当たり前のことじゃないんですか? バトルものの漫画とかでよく見るよ?」

 環奈の発言のように、自分の能力の使い方を考えることなど、普通にすることだし、努力次第である程度できるものではないのか。そう考えることもできる。

「ところが、そうもいかないのが、もう1つの方、概念系というやつでね」

 弧月は、なんだか楽しそうに、次の講義を進めていった。


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