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1章 想いの発露 ③

「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

 男を見下ろしながら荒い呼吸を繰り返す在人の元に観咲がやってくる。

「大丈夫? 在人」

「ああ、ま……、なんとか」

 観咲は安心に微妙な申し訳なさがブレンドされたような笑顔で心配を覆い隠す。(はた)から見れば在人に微笑みかけているようにしか見えないだろうが、一瞬、心の中で自分に言い聞かせるように、終わったから、と呟く。


「結局、倒しちゃったわね……。咲耶さんになんて報告する?」

「ややこしいよな……、どう考えても。その辺をいきなり爆発させてきました、とか意味わからんよな。とは言ってももう大事だし。そのまま言うのが一番かなぁ……」

「とにかく戻りましょう。それとも、ここから救急車の方が……? 在人、その体――――」


「いや、すまないが君たちはこちらに来てもらおう」


 突然聞こえた声に2人が降り向くと、そこには竹刀袋を片手に歩いてくる冬華の姿があった。

 まったく気配を感じさせなかったその動きは、武術の道に明るくない在人たちにも普通ではないことをうかがわせるに充分だった。


「茅根さん……?」

 観咲の体がこわばった。その姿を見た冬華は困ったように、

「そう警戒しないでほしいな。まだ会ったばかりとはいえ、クラスメイトにそういう顔をされるのは複雑だ」


「……ごめんなさい。でも、()()()()()()()にこっちに来いなんて言われても困ると思うの」


「……真剣?」

 在人の疑問の声をよそに、冬華は驚きを隠せないようだった。しかし、すぐに何かに気付いたようで、

「……そうか、もしかして君も……。であれば、なおさらだな」

 その言葉を聞いて、在人は咄嗟(とっさ)に足を踏み出そうとした。


 しかし、踏み出した足のすぐ先の地面が弾けた。

「ごめんね、在人」

 在人には聞きなじみのある声。冬華とは別方向からやって来たのは、

「シア……、お前もか」

「ん」

 両手で構えた突撃銃(アサルトライフル)らしき銃の銃口を下に向けたアリシアは相変わらず表情に変化がないが、申し訳なさそうな雰囲気を在人は感じた。


「手荒な真似はしたくない。この武器もその男の制圧用に用意したものだ。信じてほしい」

「……これも、お仕事」

 ここで全てを説明する気はないのだろう。2人の口調に(ほだ)されそうになるものの、観咲は今自分が安易に決めていいものか、迷ってしまった。彼女たちを信じていいものかどうか、その目は教えてくれなかった。


 観咲は隣に立つ在人を見る。在人もほとんど同じタイミングで観咲を見る。

 目が合ったのは一瞬だけ。在人はすぐに冬華に視線を戻した。

 だから、観咲は在人に任せることにした。


「一緒に行って、何があるっていうんだ?」

「今の状況を説明してやれる。治療もだ」

 冬華は在人の視線を受け止めていた。彼女が嘘を()いているようには、観咲にも見えなかった。しかし、言葉が足りないのにはもちろん気付いていた。

「……これでも、この事件の解決に協力したりとか、いろいろ大変なんだけど」

「もちろん、こちらで対応しよう」

(それができる組織だと。まぁそうだろうね……)

 心の中でため息を吐きつつ、在人は信用するかどうかは置いておいて、諦めて賭けをすることにした。


「2つ、条件がある」

「……条件?」

 首を傾げたアリシアに対し、冬華は静かに続きの言葉を待っていた。

「1つはもちろん俺たちや周りに危害を加えないこと。これは、俺たちがいなくなったことを含めて、事件を何とかする際にも、だ」

「……承知した。言われるまでもなく、約束しよう」

 信用されなかったことが悲しかったのか、寂しそうな顔で冬華は答えた。


「もう1つ。話は俺たちの治療を済ませてからだ。とりあえず問題ないようにしてくれればいい」

「2人揃ったら、話を聞きます」

 後の台詞は観咲のものだ。


 冬華とアリシアは顔を見合わせてほぼ同時に頷くと、条件を飲むことを告げた。

 すると、グラウンドに何台かの車両がやってきて、そこから何人もの人が降りてくるのが見えた。タイミングと冬華たちの落ち着きようから、彼女たちの仲間であることは察しがついた。おそらくはずっと聞いていたのだろう。


「OKだ。……なら、…………後は、頼む……な――――」

 その光景を見て、後を任せることを決めたせいか、在人の緊張の糸が切れた。


「御劔……?」

 口から血を流した在人を見て冬華が呟く。


 直後、在人は穴の開いた腕から大量の血を流し、その場に倒れ伏した。




「……そうか。わかった。後のことは任せておきたまえ。……ああ、それ以上は構わないよ。そちらは後で聞こう」

 咲耶は携帯に入った連絡を聞いて、周りを見渡す。彼女がいる生徒会室には生徒会役員や一部の教師が集まっている。もちろん、不審者対策のためだ。


「あのあの、か、会長。その……御劔先輩たちは……?」

 役員の1人である愛宮鈴(まなみやすず)が問う。彼女に限らず、その場の何人かは心配そうにしていた。

 咲耶は意識的に不遜な表情を作って、安心させるように指示を出した。


「大丈夫だ。不審者を拘束した、と連絡があった。御劔君は少しケガをしたらしくてね、念のため病院へ直行させるそうだ。念のため、救急車を手配しておいたのは正解だったかな。

 事後処理をするから、各クラスには1、2時間は学校の敷地内から出ないように通達してくれ。理由は、そうだな……。無難にガス漏れ、かな。下で調査中だから、と言ってくれ。

 ああ、じゃあ学食や購買からちょっとしたサービスでも出してもらおう。費用はうちの家で持つから、愛宮くん、ちょっと頼んできてくれ。先生方もそのように伝えてくれて結構。他の先生方への連絡はそちらにお任せします。以上、よろしくお願いします」


 指示を受けて退室していく先生方。役員たちも立ち上がり、鈴以外は自分の教室へ戻ろうとするが、

「夜霧くん」

 最後に廊下に出ようとしていた灯は突然呼び止められて、咲耶の方を向く。

「御劔君たちのことですか?」

「話が早いね。落ち着いた頃に彼らの荷物をここに持ってきてくれるかい?」

「了解です」


 一礼して去っていく灯を見送って、1人になった咲耶は会長席の背もたれに体重を預けて、深いため息を吐いた。

 先程の連絡を入れてきた彼女は、詳しい話をしなかった。いや、柄にもなく焦っていたようだったので、話を打ち切ったのは咲耶の方だった。

「まさかとは思ったが、随分な展開になったものだ」

 しかし、すべて聞かずとも、連絡してきたのが彼女だったことで、大体の察しはついていた。おそらく、彼らのどちらか、あるいは、両方などという、それこそ奇跡が起きたか。

「やれやれ、困ったものだ。あまり友人を取られたくはなかったのだが」

 その言葉は諦めなのか。本人以外にそれを知る者はいない。

 彼女にできるのは、彼らの味方になってやることだけだった。

「さて、まずは妹くんのことかな」

 咲耶は全てを飲み込むように、不敵に笑った。

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