私達の幻想系世界修復記
私の職業は変わっています。吟遊詩人と呼ばれることが多いです。でも、ちょっと違います。どう違うのかはよくわかりません。
誰かが違うと言っていたのでそうなのだと思います。誰が言っていたのか、それは思い出せないのですが。
私はただ歌っているだけです。曲があるわけでもない歌を、口ずさんでいるだけです。でも、歌が届くと皆が争いをやめてくれます。だから、私は歌うのです。
ずっとずっと。争いがなくなるまでです。
だけど、それだけだとお金は稼げないので、ギルドに向かいます。今日も歌を歌いながら。ギルドに入ると、たくさんの人がいます。五才くらいの子供からおじいちゃんまで。たくさん、たくさんいます。
ギルドでは緊急時でもなければ依頼人が各スペースごとにいます。私はまず、メンバー募集のスペースに行きます。誰もいません。仕方ないですね。他に行きましょう。
……
私に、私一人でできる仕事は少ないみたいです。仕方ないのでメンバー募集しましょう。
少し待っていると私に話かけてくる方が来ました。
「やあ。君も一人かい?」
この方は私の仲間になってくださるのでしょうか?
私に声をかけてくださったのは、私より年下の大体12才くらいの少年です。
「良いのですか?」
「うん、僕も一人だからね」
少年はセルスと言うそうです。
「君の名前を教えて貰っても良いかい?」
「レラです。訳あって家名は名乗ることができません」
本当の名前ではないけど、これが今の私の名前ですから。
「良い名前だね」
「ありがとうございます」
私達は外でのモンスター退治の依頼を受けることにしました。旅をしてきたので、ある程度は戦えますし、セルスもそうらしいです。
「行こう、レラ」
…………
今は魔物の落とす"核"と言うものを集めています。
「いやぁ、すごかったね」
「何がですか? 」
何か凄いことなどあったでしょうか。私にはわかりません。
「ほら、レラの歌」
「?」
私はセルスの前で歌った記憶はありませんが?
「口ずさんでいたじゃないか」
「あれですか……」
私は仲間が出来たことが嬉しくて、つい、はしゃいでしまったのです。
「レラの歌で皆争いをやめたよ」
たまたま近くで発生していた喧嘩が止まっただけです。
「偶然ですよ」
「しかし、僕はレラの歌が届いたからやめたのだと思うよ」
「なら、奇跡ですね」
少し恥ずかしいです。もうやめてください。
「いや、運命かもしれないね。まあ、とりあえずギルドに帰ろうか」
そう言うセルスと共に、町まで帰ることにしました。
…………
ギルドに帰ってきました。依頼達成を報告するためです。手続きをセルスがしてくださるらしいので私はギルドにある居酒屋のようなところで待つことにしました。
「相席良いですか?」
ここは四人席でセルスさんが座っても二人分空いているので、その旨を伝えました。
一風変わった少年でした。この辺りでは見ない黒髪を肩で揃えています。紫色の瞳は綺麗で、所々黄色く見えるところも素敵です。何故だか、色々知りたいなと思わせる目をしていました。だからでしょうか。私はつい、声をかけてしまいました。
「あの、少しお話ししませんか?」
「は、はい。ボクで良ければ」
そう慌てて答える彼に少し心が高鳴るのはどうしてでしょうか。
彼と色々お話ししました。彼の名前はジェロと言うそうです。彼は絵かきさんらしいです。そうこうしているうちにセルスが来ました。
セルスに相席することになったと、伝えます。セルスも快く承諾してくれました。
「ジェロ……そんなところにいたの!」
少し気の強そうな可愛い女の子がこちらにやって来ました。大体12歳くらいでしょうか? セルスと同い年に見えます。ジェロ君のパーティーメンバーでしょうか。
「って、セルスじゃないの! あんたね……」
「エレン! なんで君が……」
どう言うことでしょうか。セルスとエレンさんは知り合いだったのでしょうか。
見るとジェロさんも困ったような顔をしてます。
私の歌で止められるでしょうか? わかりませんが、試すしかないですよね。
「ラ~ラ、ラ~ラ、ラ~ラ~ラ~ラ~♪」
歌詞の無い歌です。私が歌うのはいつもこれです。でも、二人を止めることができました。
「凄いですね。とても綺麗です」
「ありがとうございます」
いつも言われる褒め言葉ですが、ジェロ君に言われると少し特別な気がします。
「お二人はどういう関係なのです?」
とりあえず、エレンさんとセルスさんに聞きます。
「幼馴染みよ」
二人の話を纏めると、セルスはかの有名なリジェロさんと言う画家さんが好きで、その絵を集めていたらしいです。その絵を集めることをエレンさんに否定されたらしいです。
エレンさんはノレラと言う吟遊詩人に憧れているそうです。真似をして歌っていたら、セルスに怒られたそうです。
もう、二人ともに言いたいことがいくつかあります。
「似た者同士なのですね」
「違うわよ」
「違うよ」
「息ぴったりで言われましても……」
ジェロさんも呆れています。
気持ちはよくわかります。私達も似ているかもしれませんね。そう考えるとなんだか嬉しくなります。
「「あのっ」」
ジェロさんと私の声が被りました。お互いに顔を見合わせます。譲って貰ったので、私から話すことにしました。
「あの、ここだけの話しにして欲しいのですが」
「良いわよ」
「大丈夫だよ」
「わかりましたっ!」
「実は、私の本名は、ノレラ・オナルド・リンウィーって言います。吟遊詩人してます」
「「「ええっ!」」」
三人の声が重なりました。綺麗なハモりです。合唱ならとても綺麗に出来ると思います。
「奇遇ですね。ボクも同じ様な事を言おうと思ってたんですよ。ボクの本名は、ミケル・シラン・リジェロと言います。今は画家を生業にしてます」
「「「ええっ!」」」
今度は私を含めて三人の声がハモりました。さっきの方が綺麗でした。残念です。
って、そうじゃ無くてですね。
「あの、リジェロさんだったのですね」
「そちらこそ、かの有名なノレラさんでしたか」
お互いに笑い合い、握手します。
「わけがわかんない」
「僕も……」
セルスとエレンさんが顔を見合わせています。やっぱり幼なじみというのは本当なのですね。
「まあ、でも、そうね。ジェロが凄いのはわかったわ。あんたがファンになった理由も」
「僕もレラの凄さがわかったよ。ごめん」
喧嘩が一つ解決しました。これでまた世界は平和に近づきましたね。良いことです。
私の夢は少しずつだけど、叶っているのです。