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詳細案件

「要は、巨大なんですよ」

「巨大」

「機械型の自動人形は今までもいくつか発見されていますし、それなりに倒されています。我々人間と変わらないサイズのものが大半ですが、時々デカイのが出てくる」

「で、今回のがそれだと」

「ですね。ざっと見て10メートルいくらかはあります」

「でかいなあ。超巨大ってレベルじゃあ、なさそうだけど。それにしても……」

 会話に割り込むようにして、オスカーが呻いた。ドロシーも頷く。

「資料、見ます?」

「お願いできるかしら」

「別に、複数刷ってるものですから。どうぞ」

 向かいに座る依頼仲介係の青年、トトは、あまりこちらの反応を伺う素振りも見せず、テーブルの上に数枚、紙を広げた。魔術念写によるものであろう現場写真のようなものが印刷されている。

 瓦礫の中に、半ばそびえるようにして、黒い巨人が埋まっていた。

「黒いのは、この魔術念写が白黒だからですよ」

「あえてその注釈を、今、入れる意味とは……」

「実際の所は、結構綺麗な白銀色だったんです。あ、僕はですね、現場行ってきたんですよ。これでも未踏地調査員の資格は持ってますからね、こういうときのためにですね」

 眼前で小さく胸を張るトトに、ドロシーは苦笑で返した。

 ちょっとした自慢がしっくりと似合うような、穏やかで人の好さそうな顔立ちをした男である。

 ……犬顔やら男にしては繊細すぎるやら、揶揄されることもしばしばとは聞くが。

「磨き上げたブリキって、ああいう色になるんですかね」

「へえ、ブリキ?」

「まあ、見ただけですけどね。実際は……こう、魔術的硬度うんぬん素材みたいなタイトルが付くんでしょうけど。とにかく綺麗な銀色でした。びかびか輝いているんじゃなくて、上品な光沢で」

「保存状態が良いのか。……うーん、この自動人形は、このままの形で見つかったんだよな、トト」

「ええ。何が起動の切欠になるかなんて、分かったもんじゃありませんから。触ることは厳しく禁じられてます。もしやっちまったら、未踏地調査員の資格剥奪ですよ」

「あ、やっぱそれぐらいはやってるんだ」

「当然です。人員の安全は何よりも優先的に確保されるべきです」

 何故か更に胸を張られて得意げに言われてしまう。……意識の高い組織でいらっしゃいますこと、とでも返したら良かったのだろうか。

 ドロシーが胸中で迷っているうちに、とっととオスカーは話を進めようとしていた。

「ということは、眠ってはいるが、自己修復の機能は保たれている、――つまり間違いなくこいつは『生きている』、と」

「そうですね。まあ、有機的な見た目の自動人形を考えれば、自然なことではあるんですよ。死体みたいな状態で発見された連中はほとんどありませんから」

「確かに。機械型だと誤解しやすいけど、結局は自動人形なんだもんね」

「ですです。そういう訳で。ただまあ、超巨大、という程でもない……微妙なサイズですし、一応典型的な機械型自動人形の枠に入らなくもない感じですから、未知の新種! として騒ぐには、ちょっとインパクトが足りないんですよ。地区を封鎖してじっくり調査するにも、お金かかりますし、この程度で封鎖するかって前例作るのも色々とアレなんで」

「分からなくもないけど、めんどくさいわね」

「というか、面倒な話にしないことにしたんですね。依頼出して、ぶっ飛ばしてもらおうということで。……というわけで、これどうぞ」

 言って、トトは新しい資料を机の上に広げた。ドロシーにとっては、見慣れた書式の紙だった。

 職業魔法使いへの、依頼の概要である。

「依頼主、エメラルド市行政部、戦史遺跡調査委員会……」

「当局直々の依頼か」

「もちろん参加制限がついてます。当局の正式な職業魔法使いの認定を受けて、なおかつキャリアランクA以上。超精鋭とまでは行かずとも、精鋭しか参加できないようになってます。まあ、お二人なら問題ないと思いますけど」

「あたしは半年前にAランク貰ったから大丈夫。オスカーも、A獲ったわよね?」

「半年と一月前にね。……そうか。S以上まで引き上げちゃうと逆に人が足りないのか」

「基準厳しすぎって意見もありますけどね。昔ゆるゆるだった反動ですよ、流石に死人が出すぎましたから」


 キャリアランク。


 要は、職業魔法使いの客観的な信頼度のバロメーターである。

 職業魔法使いは基本的に依頼を受けて動くが、依頼を終了した場合、それが成功であろうが失敗であろうが死人が出ようが、とにかくエメラルド市行政部――当局に概要を報告することが義務付けられている。

 報告データを元にランクが付与されるのだが、基本的に狩った自動人形の数や依頼の成功率、同行者の負傷率などが評価されるらしい(ランク付与の際に詳しいチェックシートが送られてくるのだが、それに目を通す職業魔法使いがそういるとも、ドロシーは思えなかった)。

 基本的によほどのことがない限り、ランクAまでは不可逆である。一度上がってしまえば、同行者を大虐殺してしまったぐらいのやらかしがなければ、ランクが下がることはない。

 これがS以上になるとチェックシートが送られてくる半年ごとにランクの上下があるため、Aランクが付与されるまで生き延びられたかどうかが、職業魔法使いの一定の評価基準となっていた。

 S以上、特に最高ランクのSSを数年維持している職業魔法使いともなると、界隈でも名の知れたレジェンドということになるのだが、大体SSに上がれば年齢的にもキャリアが厳しくなるわ、依頼料も釣り上がるわで、大体のレジェンドはレジェンドとなった頃には職業魔法使いを辞めてしまっている。

 ひとつ下のSも、近年の評価の厳格化が影響し、精鋭中の精鋭でなければ、Sを維持できている職業魔法使いは少なかった。なので、精鋭向けとなると、大体Aランク以上ということになる。当局直々の案件となると、ほとんどがA以上だ。

(それに、危険度が高くなる分、報酬が美味いのよね……。でも周りのレベルが保証されてるから、はっきり言ってシロウトの依頼より、安全に済んじゃったりするし)

「規模はどんな感じなんだ」

「募集人数のとおりです。十数名で調査チームを組みます。僕達当局……今回は戦史遺跡調査委員会、未踏地班ですね、そこから若干名、スタッフが同行します」

「トトも行くの?」

「勿論ですよ。記録兼雑用係です」

「事前の選抜は」

「強いて言えば、『これ』がそう、ですね。仲介係として当局スタッフが派遣されてまして、その仲介係の推薦を経て、最終的に依頼する職業魔法使いを決定します」

「なるほど。……おい、トト。確認させてもらうが、お前、職場でちゃんとやれてるタイプなんだろうな? 俺たち、お前に書類を託して、大丈夫なんだな?」

「そこは信頼してくださいよ。僕は人畜無害を地でいく小市民ですよ。それにオスカーさんもドロシーさんも、キャリアの評価に問題はありませんから、特に落ちる理由なんてないですよ」

「だと良いんだけど」

「えっと、それじゃあ」

 こほんと咳払いして、トトは三枚目の用紙を取り出した。ペンを脇において、確認するようにドロシーを見つめてくる。

「お願いして、良いんですね?」

「こちらこそ、挑戦させてちょうだい。ブリキの自動人形なんて、なかなか面白そうじゃない」

 頷いて、ドロシーはペンを取った。紙に自分の名前をサインする。


 無事審査を通過し、調査チームに加わること。

 当局からの正式な依頼が下宿に届けられたのは、それから数日後のことだった。


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