相棒はお荷物(物理)
「はい、口開けて」
「……あーん」
俺は今、昨日あったばかりの女子高生に朝食のスープを手ずから食べさせてあげていた。
「……なんかこう、照れるな」
「うぅ……私も恥ずかしいです……」
イチャイチャするなって?
否、断じて否である!
これは言うなれば介護なのだ。
だとしても、なぜ俺は異世界に来てまで少女の介護をしてるのだろうか。
これでは守護獣ではなくただの介護者になってしまう。
内心ぼやきつつも食事をさせていると、部屋の扉を開けて女将さんが入って来た。
小森ちゃんは一瞬逃げようとしたが、「ひぅ!?」と声をあげて固まっている。
きっと急に動いたせいで筋肉痛の痛みが走ったのだろうな。
「あらまあ、お邪魔しちゃってごめんなさいね。もうちょっとしたらまた来るわ」
「いや、待ってください! これは違うんですよ、その……彼女が動けないから、食べさせていただけでして」
「良いの良いの、言わなくても分かってるわ。若いんだからそのくらい、ねぇ?」
これは絶対に分かってないやつだ。
俺みたいなおっさんが、こんな年端も行かぬ少女と乳繰り合ってるとか誤解され、通報でもされようものなら……。
こらあかん、誤解を解かねばえらい事になるぞ!
「誤解ですって、俺と彼女はなんでも無いんです! あー、小森ちゃんもなんか言ってやってくれよ」
「…………えと……その…………昨日、無理しすぎちゃって……足腰立たなくって……その……(ぽっ)」
たしかに筋肉痛で立てないんだろうけど……なんでそこで顔赤らめた!?
小森ちゃんは慣れない人と喋って恥ずかしかったのか、顔を真っ赤に染めて俯いてしまい、既に限界っぽい。
「あらあらまあまあ、夕べは随分とお楽しみだったみたいね~」
ほらー、完全に悪化してんじゃねーか。
いや、小森ちゃんに頼った俺がバカだったんや……。
「いや、ほんとに誤解なんですって!」
「恥ずかしがらなくてもいいのよ。でもね、もう無理させすぎちゃだめよ、女の子は繊細なんだから」
だから誤解だって言ってんだろ、こんのクソババア!!
いやいや冷静になるんだ俺、Be Cool……クールに行くんだ!
等と抵抗したものの結局は誤解を解けず、小一時間もの間、女将さんの有難いお話しを聞かされたのだった。
ははは、気を取り直して朝だぜ!
無駄に疲れた気もするが、きっと気のせいだ。何もなかったんだ!
「さて、今日は商人ギルドへと行こうと思うんだが、何か質問はあるかね?」
「……はい」
「はい小森ちゃん!」
「えと…………動けません」
「ふむ……なら小森ちゃんはお留守番で」
一人残されると知り、途端に心配そうになる小森ちゃん。
「え……あ…………置いてく、です……?」
「ああ、俺一人で行ってくるよ。まー直ぐに帰ってくるから心配すんなって」
「…………そんな事言って、私を置いてく気ですね……? さては……私を見捨てて、一人で旅立つ気ですか?」
「何でそうなる!? 見捨てたりしないってば!」
「いいえ、見捨てます! 知ってるですよ、皆そう言って私を見捨ててくんです……」
うわぁ、どうしようこれ……なんてめんどくさい子だ。
「あのさ、俺を信じて待っててくれないか?」
「……知ってますか? 引きこもりはですね……1人だと死んじゃうんです…………うふふ……どうせ、私は1人寂しく死ぬウサギ……」
確かに死んじゃうけども……。
それって寂しいからとかじゃなくて、生活力皆無だからだよね?
「ああもう分かった、降参だ降参! 俺は何をどうすりゃ良いんだ?」
「…………おんぶ」
「はあ?」
「おんぶして連れてってください……」
子守かよ!!
ん? 小森ちゃんの子守……いや何でもないです。
「はぁ……了解、じゃあ背負うぞ」
「……はい、お願いします……」
ベッドに横になっている小森ちゃんに背中を向けると、肩の上で腕を乗せて来る。
年頃の少女にしては骨ばっている腕が、首の前で巻かれ抱き着くように身体を預けて来た。
背中に当たる微妙な柔らかさ、これは胸か?
感触はあるものの服の上からでは、ほとんど分からないといっていいくらいだ。
背中に感じる体温を務めて無視し、彼女の膝裏を持って姿勢を正す。
「立ち上がるぞ、しっかり掴まってな」
彼女の「はい」という小さな返事を待って、「よいしょ」と声を出して立ち上がる。
立ち上がった時の振動のせいで漏れたのか、「あぅ」という彼女の呻き声が耳元をくすぐり、妙に艶めかしい。
中年になると何故か、立ち上がる時に掛け声が出てしまう。不思議だ。
でもまあ、幸い小森ちゃんは想像以上に軽かった。
俺も良い歳だから、下手するとギックリ腰になりかねない。
これなら商人ギルドくらいには行けそうだ。
小森ちゃんをおんぶしたまま商人ギルドへと向かう。
宿の玄関で女将さんに遭遇して冷やかされたりもしたが、どうにか振り切り歩いて約10分。
三角屋根の大きな建物が見えて来た。
看板を見るに、どうやらここが商人ギルドらしい。
言葉と文字は不思議と分かってしまう。異世界物のお約束のアレだ。
細かな原理は不明だし、召喚時についたのか契約時についたのかは不明だが、便利なのでそういう物だと思っておく。
今日は小森ちゃんが背中に居るので、どっちが先に入るかという押し付け合いはしない。
ただ、誰かが中に入る瞬間を狙って、後ろからついていくように入った。
なんとなくこのほうが入りやすいのだ。
商人ギルドの中に入ると、内部は市役所の窓口のようになっており、カウンターには担当毎に窓口が分かれており、各窓口には美人な受付嬢が座っていた。
俺達は『ギルド入会・退会』窓口へと向かう。
幸い並んでる人は居なかったため、すぐに話が出来た。
「あのぉ、商人ギルドに入りたいのですが。えと、これ……」
そう話しかけ、王城でもらった紹介状を提出する。
「はい、お預かりいたします。ご紹介状ですね、少々お待ちください――これは!?」
「えーっと、それで大丈夫ですかね?」
「…………はい、もちろんでございます。えーと、ご入会されるのはお二人ではないのですか?」
「あ、この子もです」
俺は彼女に背を向けて、背後霊のようにへばりついた少女を見せる。
「なるほど、苦労されてるのですね」
「うぅ、分かってくれるんですね」
「泣くほどですか……?」
「分かってくれる方が少なくて……」
ほんと、昨日今日と最近では一番頑張ったというのに、酷い目に会いっぱなしな気がする。
「気を取り直して、手続きのほうを始めさせていただきます。この書類に氏名の記入だけお願いいたします。紹介状がありますので、住所と保証人の名前は不要ですし、登録料も免除されます」
小森ちゃんを下ろすと、言われるがままに記入して提出する。文字も書けるのか便利だ。
となりでは小森ちゃんも用紙に記入している。あっ、今間違えたな。
誤字に気付いたのか用紙を持って「あうあう」言っている……。
「すみません、誤字があった場合は?」
「二重線で消して、余白を使えば大丈夫ですよ」
「だってさ。後はどうすればいいですか?」
名前の記入を再開した小森ちゃんを尻目に話を進める。
「では、こちらに触れて魔力を流し込んでください。魔力パターンを記録致しますので」
「了解です」
水晶玉の魔道具っぽいのを出された。魔力パターンね……ファンタジーだな。
特に質問することなく、言われたままに進めていく。
これ、相手に悪意があったら簡単に詐欺られてるな。
つうても、こっちに来たばかりの俺は信じるしかないんだけどさ。
やはり常識が分からないのってはかなり怖い。
袖を引かれて下を向くと、どうやら小森ちゃんも名前の記入が終わったらしい。
「コモリ・ヒユキか……名前が前じゃないの?」
「あ…………」
「はい、一般的に名前が前で家名が後になります」
「解説ありがとうございます」
というわけで書き直しを頑張ってくれ。
さて、そろそろ登録は終わっただろうか。
商人ギルドの途中ですが、長いので一旦切ります。
それにしても、このヒロイン需要はあるのだろうか……いや考えちゃダメですね。
そして小森ちゃんが一々止まるから、ほんと話が進みません^^;