相棒は高校2年生、ただし……
「守護契約は無事に完了したようじゃな。嬢ちゃん、ステータスに表示は増えとるかの?」
爺さんの問いに少女はコクコクと頷く。
というかステータスなんて見れるんだな。
にしても、契約をしたというのに外面上の変化どころか、何かが変わったという実感すらない。
完全に拍子抜けだ。
「何か変わった感じとか、まったくしないんですけどね……」
「大丈夫じゃ、詳しくは後で嬢ちゃんに聞くといい。では騎士達よ、お2人をお見送りして差し上げるのじゃ!」
「ちょ、話はまだ!」
ツッコミは当然のように無視され、俺と少女は騎士達によってドナドナされていくのであった。
僅か数分後には、城門前で途方に暮れる2人がいた。
「これから、どうしようか?」
「どうしましょうねぇ……」
城門から外を眺めてぼんやりと呟くと2人と、それを可哀そうな目で見る城の衛兵さんたち。
ほんと、これからどうしよっか……。
「えーと……お嬢さん、この世界の常識的には、まずはどうすれば良いのかは教わったのかな?」
「…………知らないです」
「だよねぇ……。なら、お嬢さんが教わったのって……いや、この世界の常識以前に、自己紹介がまだだったね」
うっかりしていた。よく考えなくても、俺はこの少女の名前すら知らない。
いくら急かされていたとはいえ、名前も知らない少女とキス……契約を結ぶとか正気か俺?
いや正気じゃねえな、いきなり異世界に飛ばされて正気を保てるほど、俺のメンタルは強くない。
ともかく、まずは自己紹介からだ。
「俺の名前は山城護、35歳の独身だ。職業はえーっと、いわゆる自宅警備員という奴だな」
「……小森陽雪、です……17歳、高2で「えっ!?」ひゅい!?」
どう見ても中学生くらいにしか見えないのに、まさかの高校2年生である。
これで驚くなというほうが無理があるよ。
「驚かせてごめんね、続けてくれ」
「えと、その…………半分、引きこもり……みたいな生活送ってました」
「そうなんだ、良くそれで高校2年に上がれたね……」
「ひぅ…………実は、1年留年しててですね……うぅ、ずびばぜん」
「あぁ!? ごめんね泣かないで、余計な事聞いちゃって、ほんとゴメンよ……」
泣き出してしまった彼女を、どうにかこうにか宥める。
1年留年で高校2年ってことは、実際は高校3年相当で想像してたより更に年上ってことなのね……俺が言えた事じゃないが、この子メンタル弱すぎじゃないか?
「えっと、小森ちゃん、でいいかな? これからよろしくね」
「…………はい……えと、山城さん……こちらこそ、よろしくで「あーお二人さん」ひゃあ!?」
「いつまでも城の前に居られると迷惑なんだが、そろそろ移動してはくれんかね?」
と、いつまでも城門前でグズグズしている俺達を見かねて、衛兵さんが話しかけて来てくれた。
小森ちゃんはかぶせられて驚いたのか、ピシリと固まっている。
「あ、はい、すぐ移動しますね。あーでも……僕らって、どこに行けばいいんでしょうか?」
「お前なぁ、それを他人に聞くかね」
「すみません……いきなり放り出されて、何も分からないんです」
しょうがないじゃ無いか、こっちの事ほんとに何も分からないんだからさ。
俺がこの街のことを何も知らないと話すと、衛兵さんは文句を言いつつも色々と教えてくれた。
人の優しさが身に染みる。
この辺りにあるギルド(冒険者ギルドか商人ギルド)にまずは登録して仕事をしたらどうか、と彼は提案してくれ、ギルドの場所とお勧めの宿の場所まで教えてくれたのだ。
なんと良い人だろうか、俺が女だったらぜひ養ってほしいと思ったかもしれない。
そういや神官の爺さんに、ギルドへの紹介状を持たされたんだった。
何でそれに気付かなかったんだ俺よ。
「そうだなぁ、小森ちゃんはまず何処に行けば良いと思う?」
「えと…………冒険者ギルド? でしょうか」
「その選択には、理由とかはあるのかな?」
「テンプレ……です」
「あぁ、取りあえずビールってノリね」
俺の返しに、小森ちゃんは首を傾げてハテナ顔だ。
そうだよね、高校生に言っても分からんよな……つうか何言ってんだ俺は、コミュ力低すぎだろうがよ。
これが1年間にも及ぶ、自宅警備員生活の弊害か。
「気を取り直して、冒険者ギルドに向かおうか……」
「ですね……」
俺達は、気まずい雰囲気を振り払うように歩き出した。
冒険者ギルドまで歩きで5分ほど掛かった。
「やっと着いたね、ここがギルドか」
「…………もう、歩けない、です」
俺も少しだけ疲れたが、小森ちゃんは見るからにバテバテで肩で息をしている。
いちいちポンコツな少女だ。
彼女なら冒険者ギルドで仕事を探そうにも、依頼を受けるだけで力尽きるのではないかと心配になる。
「とりあえず、中に入ろうか」
「……はい」
「……………………」
「………………」
「…………」
「……入らないんですか?」
「いや、だって、初めて入る店ってなんか怖いじゃん!?」
しょうがないじゃん、ある意味、一見さんお断りの店に入るより勇気いるぞこれ。
よく考えると冒険者って腕自慢のチンピラみたいなわけじゃん、それって一番俺と相容れない存在だぞ。
そんなのがこの中にうようよしてるかと想像すると……あ、帰りたくなってきた。
「…………ですね、気持ちは分かります」
「だろう、俺って初めての店には、いつもなかなか入れなくってさ」
「私はいつも、小一時間迷って、そのまま帰りますよ」
「帰るのかよ!」
「うふふ、そです」
彼女の浮かべた微かな笑みは、思いのほか可愛かった。
なんだか今、ダメ人間同士の仲間意識のような物が芽生えた気がする。
こんなどうしようもない処で解り合えてしまうあたりが残念すぎるが、小森ちゃんが笑ってくれてるなら、それもどうでも良い。
「それで、入るか入らないかどっちかにしてくれない?」
ガチャリとギルドの扉が開くとともに、凛とした声が響いた。
「あっ、えっ、その……」
慌てて周囲を見回すと、目の前には金髪碧眼で長身の美しい女性がいた。
胸元を強調するような、ウェイトレス風の町人服を着ている。
ちなみに小森ちゃんは、いつの間にやら俺の背後に移動しており、盾にするようにして俺の背中を押している。
意外と素早いな、小森ちゃん。
「えっと、どうしよう……帰ろっか?」
背後に向かって問うと、小森ちゃんはコクコク頷く。
「で、どっちなの?」
「すみませんが、今日のところは帰ります」
「そう、なら早く行って。そんなとこに突っ立ってられると、他の人に迷惑だから」
「お邪魔して申し訳ありませんでした。それでは失礼します」
ほんと仰る通りで……。
ギルドの女性に謝ると、俺達は直ぐに冒険者ギルドから立ち去った。
どうやら、俺達に冒険者ギルドは早すぎたようだ。
ギルドから離れて、通りを歩いている最中、小森ちゃんがポソリと呟いた。
「結局……帰ることに、なっちゃいましたね」
「そだな、これで俺も小森ちゃんにツッコめなくなっちまった。よし、今日はもう宿屋にいって休んじまうか」
「大賛成です! あっ、えと、今日は休んで……ギルドは明日にしましょうか」
「くくっ、俺も少し疲れたし、明日出来る事は明日やる、だよな。そのほうが俺達らしい」
そんなふうに少しの笑いと、ポツポツとしか続かない会話をしながら、俺達は宿屋へと向かう。
オチも内容もない、本当にどうしようもない会話。
それが何故か、この上なく心地良く感じられたのだった。
台詞の三点リーダが多すぎだーってのは、しばらくはご容赦ください_(._.)_