プロローグ:自宅の警備を遂行せよ!
俺達は今、押し寄せる魔物の波と対峙していた。
『11時方向、飛行型3です。対物ライフの転送を開始します』
ヘッドセットからは、淡々とした少女の指示が流れてくる。
日頃ポンコツな彼女も、こういう時は意外と頼りになる。
「あいよ。こちらニートリーダー、対象を狙い撃つぜ!」
今まで構えていた魔導ライフルを背中に掛けると、直ぐに長大なライフルが手元へと転送されてくる。
自分の背丈ほどもある対物ライフルは、命中性と威力を特化させた一品だ。
その分、魔力消費が多いのが難点だが、これならどんな相手でも撃ち落とせる。
膝立ちになってライフルを構え、バイザーに表示されたターゲットサークルに集中する。
魔物との距離は1km足らずといったところか。
飛行型の魔物、ハーピーとでも呼ぶべき羽毛に包まれた人型の魔物が2匹、円に収まった瞬間に引き金を引く俺。
「パシュオン!」という音と共に銃口から何かが飛び出し、2匹の魔物の肉体の大半をえぐり取って行った。
あの2匹は即死だろう、残りは1匹。
突然に遠方から放たれた攻撃によって、一方的に仲間失い狼狽えた様子の魔物を、焦る事無く円に収めて再度引き金を引く。
『対象の沈黙を確認しました。次は3時方向、ポイントT-3に向かいウルモフβの援護をお願いします。敵は地上型が7、指揮官タイプの殲滅を優先してください』
「了解、直行して殲滅任務にあたるよ。あと対物ライフルの回収と魔力の補充を頼む。魔力残量は大丈夫か?」
『了解です。今から回収、あっこら!?』
『魔力はまだまだいけるよ! だから、おじちゃんもがんがんいくのだ~』
ドタドタと言う音の後に、ヘッドセットからは幼い少女の声が聞こえて来る。
「くくっ、了解。そっちも良い子にしてろな」
『もうっ、甘いんですから! ほら、回収したんだから、ちゃっちゃと魔力を込めちゃって!』
ヘッドセットの先からは『は~い』としぶしぶ返事する可愛い声が、遠く聞こえて来た。
どうやらヘッドセットは無事取り返せたらしい。
俺は苦笑を浮かべながら背中の魔導ライフルを構え直し、3時の方向に走り出す。
通常では考えられないスピードで走る俺だが、ここではこれが当たり前であり、この聖域においては俺は、俺達は最強なのだ。
走り出して1分も経たずにポイントT-3、3番テントが見えてくる。
その傍には、オークと呼ばれる大型の魔物の一隊おり、ウルモフβ、うちの可愛い番犬達が足止めしてくれている。
バイザー越しに見る魔物の中で、1体の魔物に赤いマーカーが付く。
オペレーターの少女からリアルタイムで送られてくる情報が、こうしてバイザーに表示されるのだ。
奴がこいつらの指揮官という事だろう。
俺は走りこみつつ、小脇に抱えた魔導ライフルで、マーカー付きの魔物を狙って3点射を2セット。
「ポポポワン」という気の抜ける射撃音が2回すると、指揮官オークがくずおれた。
後は指揮官を失って慌てている敵を、片っ端から3点射して倒していくだけだ。
「ポポポワン」「バタリ」「ポポポワン」「バタリ」という音が6回響くと、7匹も居たオークは既に倒れ伏していた。
「よく頑張ったなお前たち、後で骨付き肉を進呈しよう!」
「「「ガウガウウ!」」」
元気に答えるウルフ達を見ると、戦闘中だというのに癒される。
あぁ、今すぐにでもモフモフしたい。って、まずは報告だな。
「こちらニートリーダー、ポイントT-3の制圧を完了。次の指示を待つ」
『お疲れさまでした。あとはそのままそこで……いえっ、待ってください! SG-01の大破を確認しました、至急ポイントT-4に向かってください!』
「了解。取りあえず移動を開始するから、情報は随時頼む」
『お願いします! えーっと、MC-03の映像を……えっ、これって、飛行型の大型魔物を1体確認しました! 敵はワイバーンです!!』
「ぐぅ…………じょっ、上等じゃねぇか! すぐにミンチにしてやんぜ!」
俺は自らを奮い立たせるよう、そう断言する。
相手が何であろうと殺ることには変わらないのだ。
俺は如何なる敵からであろうとも俺達の聖域、つまり俺達の家を守らなければならない。
そう、俺は自宅警備員、自宅を守護する者なのだから!