第五話【学園からの脱出Ⅱ】
学園南、第三体育館外。
地下坑道を使い、第三体育館付近まで来た幸村たちは、森林地帯で身を潜めていた。
第三体育館の周囲には、予想通り銃を武装した者たちが警備体勢を展開していた。
「生徒会長、一つお願いしても?」
「もう私の事は生徒会長ではない。気軽に名前で呼んでくれ」
「分かりました。では天月さんで」
「名前と言ったのだが、まぁいいか。それでお願いというのは?」
幸村は、蓮だけに聞こえるように耳打ちする。
「……そんなんで良いのか?」
「はい、大丈夫です。僕もカイトも、能力でっていうのは難しいと思うので」
「そういう事なら簡単だ。任せておけ」
「お願いしますね」
幸村の言葉を承諾した蓮は、武装してる者たちを睨み小さく呼吸を繰り返す。
集中力を上げ、イメージを頭の中で固めていく。
「幸村、私はどうすればいい?」
「カレンは天月さんの援護。万が一に備えて、天月さんの退路を作ってほしい」
「天月さん?幸村、生徒会長の事そう呼んでるの?」
「ん?名前で呼んで欲しいと言われたんだけど、苗字の方が良いかなって思って……変かな?」
幸村の言葉を聞いて、カレンは溜息を吐く。
その反応が、幸村には理解出来なかった。
「そろそろやるぞ?良いか、幸村君?」
「はい、任せますね。天月さん」
蓮は空中を高く飛び、頭上からの奇襲をし始める。
常人とは思えない程、身体能力を見て幸村たちは呆然としていた。
「えっと、私の出番あるかな」
カレンが自分の頬を掻きながら、困った表情を浮かべている。
「まぁ、見る限りはないかも……」
幸村がそう呟いた時、目の前に蓮が宙返りしながら着地する。
「待たせた。君に頼まれた物は、根こそぎ持ってきたぞ」
ジャラジャラ、と地面へと置く。
そこには、色々な銃や装備が置かれる。
「幸村、これは?」
「武装集団が使ってた銃。これで僕とカイトは、多少なりにも援護は出来るし戦える」
幸村は無造作に銃に触れながら、カイトにも銃を差し出す。
「……無いより良いでしょ?」
カイトは銃を手渡され、銃口やら持ち手を手の上で遊んでいる。
「まぁ、使ってみるか」
一言言っておく事があれば、この二人は銃などの飛び道具の知識は皆無である。
だから間違えてセーフティを外す事は……
――バンッッ!!
……無くはなかった。
撃たれた弾丸は、幸村の足元で煙を出していた。
「アンタ、幸村を殺す気!?」
「いってぇ!いきなり殴るなよ!」
「いきなり撃つより、マシよ!」
カレンがカイトを殴り、目の前で口論が始まる。
それを眺めながら、幸村は黙々と銃など身体に身に装備していた。
「幸村君、君は銃を使った経験は?」
口論をしている二人を蚊帳の外に、蓮は幸村にそう言った。
「ありませんよ?見た事があるぐらいで」
そう言いながら、何食わぬ顔で幸村は銃のセーフティを外しコッキングをする。
「ほ、ホントに無いのか?」
「嘘を吐いてどうするんですか。僕は銃を扱うのは、未経験ですよ」
……ザッザッザッザッザ。
「何か近づいて来ますね」
「さっきの銃声が聞こえて駆けつけて来た敵の増援だろう。どうする?」
足音を聞きつけた幸村と蓮だが、淡々と話していた。
その二人を見て、カイトとカレンは目をパチクリしていた。
「えっと、逃げないのか?」
カイトがそう言うが、幸村がニヤリと口角を上げる。
「散々逃げ回って、正直疲れた。だからそろそろ……」
銃を足音の方向へ向け、言葉を続ける。
「……反撃開始しようか。ここから二手に分かれよう。僕と天月さんは、このまま敵の囮になって逃げ道を探す。カイトとカレンは他の生徒たちの様子を確認して欲しい」
「はぁ!?ちょっと待てよ。何で俺がこいつと……じゃなくて何でお前が囮なんだよ」
「今なんか、失礼な事言いかけなかった?」
ムッとした表情を浮かべ、カレンはそう言ったがカイトは幸村の肩を掴み言葉を続ける。
「――生徒会長が強いのは知ってるし、お前が頭の切れる奴だってのも知ってる。だけど、相手は銃を扱えるプロだ!いくらお前でも、危険過ぎる!」
「危険なのは重々承知だよ。でもカイトはまだ本調子じゃない。それに僕なら、天月さんの動きに合わせる事が出来る」
幸村の放った言葉に、ピクリと蓮は反応する。
「例えそうだとしても!俺はお前を置いて行くなんて無理だ!」
「カイトッ!」
「……っ」
「大丈夫だから。僕は死なないよ」
カイトは幸村の顔を見て、ゆっくりと掴んでいた肩から手を離す。
「カイト……幸村、生きてね」
カレンはゆっくりと歩くカイトを見届け、そう言葉を残してその場から離れていった。
やがて背中も見えなくなり、幸村と蓮だけが残った。
「……じゃあ行きましょうか、天月さん。撃ったら走って下さいね」
「本当に良いのか?」
「何を今更言ってるんですか。僕の思いはカイトに届いてますし、僕にもカイトの気持ちは伝わってますよ」
「なら……」
蓮は「君も逃げたら彼らと共に」と言おうとしたが、すぐに言葉を止めた。
何故なら、幸村は唇を噛んでいたからだ。
銃を構える幸村は、狙いを定めて黒い武装集団へと発砲する。
雨の降る中響く銃声は、幸村の心の叫びかと思わせる程鋭い音を響かせていた。