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ギフト  作者: 三城谷
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第一話【鳥籠の鳥】

キーンコーンカーンコーン。

講義終了の鐘の音と共に、安堵の声が漏れていく。

教室を出て、ゆっくりと廊下を進む。

時刻は、十二時四十分を過ぎた頃。

この学園の昼休憩は、かなり長い。

一般の高校が約四十分としたら、この学園は約一時間半とある。

多少長いおかげで、僕はのんびりとした時間を過ごしていた。

「空、たけぇな」

屋上のフェンスに登り、空にある雲に手を伸ばす。

高いとは分かっていても、すぐそこに手を伸ばせば届くかと錯覚してしまう程だ。

「感心してる所悪いけど、それ以上登ると落ちちまうぞ?」

急に声を掛けられ、登りかけていた体勢を崩す。

その体勢を直しながら、声を投げられた背後へと身体を向ける。

「――おっと、ふぅ……あぁ、びっくりしたなぁ。これで僕が落ちたら、一番に狙われるのは君だね!カイト」

「何でそれをニコニコして言うかな。生憎俺には、お前を殺す動機はないよ」

彼はそう言いながら、パックジュースのストローに口を付ける。

もうすぐ空になってしまうのか、空気を吸い取ろうとする音が聞こえてくる。

その音と一緒に、涼しい風が頬を撫でる。

心地よくて、僕の好きな時間である。

「お前はいつも変わらんな」

ちょっとした静寂を破ったのは、カイトの方だった。

カイトは決して自分から話すタイプではないのだが、変わらないとは何の事だろう?

「変わらないって、何が?」

「そうやって満足そうな顔して、風に当たってるのが、かな」

「そうかな?割とこれは、気分によって風の当たり方が違うんだけどね?」

「へぇ、何がどう違いがあるんだ?」

詳しく求められてしまった。

大して理由は無いのだが、隠す事でも無いから話す事にしよう。

「大した事じゃ無いんだけどね。僕が思う心地良い時の風は、僕の心が穏やかな時だと思うんだよね。喜怒哀楽に応じてっていうのかな。幸せに感じたりするし、邪魔だって思う時もあるよ」

喜怒哀楽に例えると、今の風は喜びが近いだろう。

「へぇ、じゃああれか?台風とかの場合は喜怒哀楽の哀になるのか?」

「台風なら違うかな。僕の場合は、台風とかは楽になっちゃうよ」

「あぁ、それは変わった感性をお持ちで」

僕は、カイトと外を眺め黄昏れる。

そしてふんわりと、また同じ風が頬を撫でる。

「でも喜び怒りも、哀しみも楽しさも……僕にとっては邪魔な時が多いんだけどね」

「え?」

「何でも無いよ。もうすぐ午後の講義だから、そろそろ戻ろうよ。カイト」

カイトが、今の言葉を聞いていたかは分からない。

僕はそのまま歩き、屋上を後にする。

その後ろから少し遅れて、カイトも着いてくる。


この学園は、特殊である。

表立っては普通の高校と大差はない。

だがこの学園に通う者、この学園に通う生徒の存在が特殊にしている要因の一つ。

講義は一般常識や知識を常に学ぶのだが、午後からは基礎訓練に入る。

この基礎訓練が、特殊なのである。

特殊な訓練と言っても、基礎訓練は一般の体育と変わらない。

だがその一部で、個々の能力を基準とした特殊訓練が行われているのだ。

この訓練で問われるのは、ただ一つ。

それは自分の中に眠る、特殊な異能力を高めるというが目的だ。

異能力は個々に持ち、決して似てはいてもその能力は被る事はない。

幸村とカイトも、その生徒の一員である。

「カイト。訓練中にこんな所にいて良いの?一応だけど、僕とはクラスが違うはずだよ?」

学園の敷地の中には、訓練用に作られた森林が存在する。

その森林の中で、幸村は木の枝にぶら下がりながら言った。

その木の根元に座り、カイトは欠伸をしていた。

「俺はお前と違って、この能力ってのに愛着がある訳でもない。だからと言うつもりも無いが、この訓練にも大して思い入れは無いんだなぁこれが」

「不良だねぇ、カイトは」

ぶら下がるのをやめて、地面へと飛び降りる。

「あまり無茶するなよ?お前また病院送りになるぞ?」

「大きなお世話だよ。僕は能力値は低いけど、自分の能力は意外と使えると思ってるんだから」

幸村は頬を膨らませ、まるで子供のようにそっぽを向いた。

「そりゃすまんね」

「……ぷっ、ははははは」

幸村とカイトは、お互いに笑い合う。

それに夢中だったのか、彼らは近づく気配に気づけなかった。

『訓練中に無断で遊ぶとは、お前達は早々に死にたいらしいな』

「――っ!!」

幸村とカイトは、息を飲み声の主へと身体を向ける。

「遊びとは、人聞き悪いですね。天月蓮生徒会長」

カイトは頬に汗を垂らし、半歩下がりながらそう言った。

『遊びをしている様子にしか見えない現状の中、遊びと言って何が悪い?それとも貴様は、今のお前達の行動は遊びではなかったなどと言うつもりか?』

天月蓮はカイトを睨み、彼の近くへと歩み寄る。

そして近くへ来た瞬間、天月蓮は常人では反応が出来ない速度で蹴りを入れる。

「――ぐっ!?」

カイトは反応出来ず、隣の木へと叩き付けられる。

「カイトっ!!」

幸村はカイトに駆け寄り、カイトの様子を確認する。

一撃……たった一撃だ。

その一撃で、彼女天月蓮は自分より体格の良い彼を後方へと蹴り飛ばした。

幸村は能力を使ってこの場を離れるか、負けるのを覚悟で立ち向かうか。

その二択を迷っていた。

「……やめとけ、幸村」

「……カイト?でも……」

幸村の肩を掴み、カイトは起き上がる。

「ここで生徒会長とやり合うのは駄目だ。第一お前は、能力を便利と思っても、完璧には使いこなせないだろ」

「……でも」

「でもじゃない。生徒会長は、この学園の中で数少ない実力者の一人だ。生半可に逆らえば、俺達に自由はない」

カイトの言葉を聞いて、幸村は深呼吸をし始める。

『どうした?北條幸村、来ないのか?』

両手を広げ、幸村の目の前へと立つ。

だが幸村は、カイトを抱え始める。

「すみませんでした生徒会長。すぐに持ち場に戻ります。ご無礼をお許しください。それでは」

幸村は一礼をし、その場を離れる。

その背中をニヤリと、彼女は観察しているのだった。


幸村は、ずっと考えていた事を頭の中で整理していた。

――この学園は確かに特殊だ。僕たち能力者の為に、それを使える身体を作る講義を知識を学んでいる。だけどその実態は……。


幸村は曇り始める空を眺め、溜息を吐く。


――鳥籠の鳥だ。僕たちに自由はない――

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