花畑の裏に潜むモノ
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「きゃあっ」
とある学園の片隅で、少女の悲鳴が響きます。
「失望したぞ、エウリュ! 地位を振りかざして健気なセルピナを虐げるなど。恥を知るといい!」
「違います、ダンテリオン様、私はそのようなことなど…。 どうかお話を…」
「ええい、くどい! 俺が愛しているのはセルピナだけだ。
もうお前のような女との婚約などまっぴらだ。別れさせてもらう」
「そんな…」
振り返りもせず立ち去った青年は、その先でピンク色の髪の幼げな少女を見つけると、まるで先ほどのことなど無かったかのように、優しげな笑みを浮かべて話しかけます。
少女も甘えるように彼の腕にすがりつくと、ひっそりと、倒れ伏したままの少女の方を見やって、その可愛らしい顔に嘲笑を浮かべます。
さくっ さく
そのまま二人で一緒に立ち去る姿を、茫然と眺めていた少女の傍に、一人の女性が歩み寄ってきます。
「大丈夫かしら、エウリュ」
「ローラ様…」
「まあ、頬まで腫れて。仮にも騎士ともあろうものが、一方的な意見を鵜呑みにした挙句、女性に暴力までふるうなど…」
「ローラ様ぁ…」
殴られて倒れ込んだままの自分を助け起こしてくれた女性に縋りつくと、堪え切れなくなった涙が、後から後から溢れてきます。
「ううっ、信じていましたのに…。ダンテリオン様、いつか目を覚ましてくださると…」
「そうね、あなたは誠意を尽くしていたわ」
「ひっく、政略として決められたとはいえ、傍にあって恥にならぬよう努力し、それは認めてもらっておりましたのに…。
このままでしたら、尊重し支え合える夫婦とはなれると。愛もいずれ育めると…」
「そうね。前までの貴女達でしたらそうなれていたでしょうね…」
「…… ああ、もう駄目なのでしょうね。
いつかは前のようにと思っておりましたが、努力どころか義務すらも放り出し、ただ彼女の愛を乞うて、他のことは聞く耳も持たぬこのありさま。
以前のぶっきらぼうでも努力を欠かさず、他人の小さな成長でもねぎらっていたあの方はもういないのですね…」
「……」
「ふふ、ローラ様。以前おっしゃられていたあのお話、お受けいたしますわ」
「そうね。すぐに切り替えの出来るものではないでしょうけど… 少し環境を変えてみることはよいでしょうね」
うふふ~、最高!
気が付いたら大好きだった乙女ゲーム『恋の花咲く』のヒロインだったんだもの。
ローズベルト王太子も宰相の息子のリースリーンも大商人の息子のオルキッドも教皇の息子のロースタスに筆頭魔道士の息子のナルキスも、みーんな私に夢中。
騎士団長の息子のダンテリオンなんか、纏わりついてた婚約者にビシッと言ってくれてステキだったわ~。
まったく、家に勝手に決められただけの存在なのに、彼に愛されてる私の邪魔をしようなんて何様かしら。
お金と時間を全部注ぎ込んで、いろいろやってきた乙女ゲームの中でも、これはみんなの外見といい、声といい、一番のお気に入りだったのよ。
そんな彼らが実際に愛を語ってくれるようになるなんて、きっと彼らを愛していた私に神様がご褒美をくれたのね!
うーん? ストーリーでは、今ごろ、悪役令嬢たちからいじめられても健気に耐えてる私に、王子たちがますます夢中にになるんだけど… いじめてこないわね。もう、悪役のくせに何してんのよ。ストーリーが…
あら? いじめられるまでもなくみんなとっくに夢中?
そっか、きっと私が今まで一生懸命頑張ったせいで、好感度さっさと上がっちゃったのね。
シナリオとはちょっと違うけど、イベントもプレゼントも本来のより多いし素敵☆
一段階上のルートとか出来ちゃったのかな? ま、別に不愉快な思いしたいわけじゃないし、いっか。
ふふ、卒業パーティーでは誰にエスコートしてもらおっかな。
まあ、オルキッド、ステキな首飾りをありがとう。ナルキス、それは魔法のリボンなの? ロースタス、私へのオリジナルの香水ですって? リースリーンは髪飾り。ダンテリオンは~ 腕輪だけどちょっと好みじゃないかも。
でもやっぱりローズベルトのドレスかな。
王族が使う店で、私のイメージに合わせて作ってもらった特注品。ヒロインの私にぴったりだし、ローズベルトの髪色に合わせた金の薔薇の造花もステキ。
実際にみんなから貰った物を身に着けると、私ってば完璧なお姫様。
ふふ、卒業パーティーでは、メインはローズベルトだけど、みんなに先を争ってエスコートされて、もう最高!
シナリオとはちょっと違うけど、ローズベルトとの婚約発表して、他のみんなも祝福してこれからも応援してくれるって誓ってくれちゃって、注目もバッチリ!
まわりのモブ達も羨望の視線送ってきてるし、この場は私の為のモ・ノ・♡
ふふ、この世界は私の為のモノ。私はみんなに愛され求められるヒロイン! 神様ありがとう!
くすくす。 お花畑なヒロインさん。 頭にお花の咲いた攻略対象者の方々。
これで逆ハーでのハッピーエンドですわね。 おめでとうございます。
あらあら、皆さん揃いも揃って、曇りのない笑顔ですこと。
一方的に婚約を切り捨てた女性たちのことや義務など、お見事なまでに頭から抜けておりますのねぇ。愛だの恋だのしか頭にありませんのね。
恋は無くとも、保身なり貴族間での関係性なりを考えると、なんらかの手は打たずにはすまされませんのにねぇ。
ふふ、いいでしょう? あなたたちなら。
皆さん。ゲームがエンディングを迎えてきっと寂しいことでしょう?
ご安心くださいな。そんなにお好きなんですもの。乙女ゲームの世界を引き継いで、これからももっともっと恋を楽しんでいただきますわ。
ふふ、どうぞご期待下さいな。