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8 両親は混乱

8 両親は混乱


 オーウェン・ゴルドバーグ。

 俺の父上だ。

 長めの金髪を肩の辺りで括って、前に流している。

 物腰も、儚げに微笑む表情も、柔らかそう、というのが父上の印象だ。

 そしてどこかお疲れ気味に見える。仕事が忙しいのだろうか?

 半年前に会った時は、もうちょっと溌剌として明るいカンジだったのに。


「旦那様。テオドール様がお越しになりました」


 セバスが俺を紹介する。そしてチラリと俺を見た。

 あ、ああ、そうか。俺から言わなきゃいけないんだな。


「おひさしぶりです、ちちうえ。ほんじつはおまねきありがとうございます。テオドールです。きょうは、ちちうえにおあいできるのを、たのしみにしていました」


 挨拶すると、父上も目を見張った。

 そんな変な挨拶はしていないと思うんだけど。


「いやはや、半年見ないだけで、こんなにも成長しているなんてね。ちょっと驚いたよ。テオドール、元気だったかい?」


「はい、ちちうえ。おれ……わたしはげんきです。ちちうえはおつかれみたいですけど、だいじょうぶですか? おしごとがおいそがしいのでしょうか?」


 尋ねると、苦笑された。


「大丈夫。ここのところ少し立て込んでいただけだよ。子供はそんな事心配しなくてもいいんだ。それより、父に顔をよく見せてくれるかい?」


 手を広げてくれたので、ててっと駆け寄ると、抱き上げられた。


「ああ、重くなったね。ちゃんと好き嫌いなく食べてるのかな?」


「はい、ぜんぶ、すきです」


「テオドール坊っちゃまは何でも喜んで美味しそうに食べてくださいます。料理長が腕の振るいがいがあると申しておりました」


 マーサが補足すると、父上は満足そうに頷いた。


「それは偉いね。マーサに聞いたけど、もう勉強まで始めているんだって? 勉強もいいけど、外で遊ぶのも大事だよ」


「おそとでは、まいにちケヴィンとあそんでます。けんのおけいこもしてます。おべんきょうはちょっとづつしかしてません」


「はは、優秀だね。私は君が元気で健やかであればそれでいいんだよ。無理はしないようにね」


「はい」


 うお、教育熱心じゃなかった。いいパパだなー。俺、この人が父親で良かったよ。

 でも俺の人生のために歩みは止めないぜ。

 だって、自分が馬鹿だって知ってるからな。中学ぐらいで追い抜かれるのは自覚してる。


 そうやって、俺の近況報告を父上が楽しげに聞いてくれている中、もうひとりの到着が告げられた。

 母上だ。


 セバスに案内されて客間に入ってきたのは、母上のセリーナだ。

 腰のあたりまで伸ばした豊かな淡い金髪は軽くウェーブしてる。こちらも儚げという印象が似合う少女のような女性だ。

 父上と母上、二人並ぶととても絵になるんだけど、今の母上は何だかやつれてるっぽい?

 半年前はもっと元気そうだったはずなのに。

 二人とも会っていない間に何があった。


「まあ、テオドール。大きくなりましたね。元気でしたか?」


「はい、ははうえ。わたしはげんきです。ははうえはおやせになられましたか? おしょくじはちゃんとされていますか?」


 尋ねると、また目を見開かれた。けれどすぐに悲しげに目が伏せられる。

 ええと、余計な事を言ったかな?


「ふふ、子供にまで心配されてしまうなんてね。大丈夫、大丈夫よ、テオ。あなたは何も心配しなくていいの。母が必ず守ります」


 ぎゅっと抱きしめられた。

 いやいやいや、ちょっと待て、ママン!

 そんなこと言われて不安にならないわけないだろ。一体何があった!


「君はまだそんな事を言っているのかい? あの者の話は出鱈目だよ。テオドールに(わざわい)など起きやしない。早々に追い出したほうがいい」


「ですが、あなた。あなたはテオの将来がどうなってもいいと仰るの!」


 何!? 何なの!? いつの間に俺の将来の話になってるの!

 お願いだから睨み合わないでよ、パパン、ママン!


「テオドールの将来がどうなってもいいなんて思ってないよ。ただ、(いたず)らに不安を煽るような輩を、盲信しないでくれ。君はそこまで愚かではないだろう」


「わかっているわ、わかっています! でも……でも、彼女の占いは本当に当たるの。私達の子供まで流れてしまったわ。このままではテオも悪い運気に囚われてしまいます。お願い、私達のテオのために、アレを捧げてください」


「それは駄目だって言っているだろう? アレは前国王陛下から父上が賜った、ウチの家宝だ。どこの馬の骨ともわからない者に渡せるわけないだろう」


「どこの馬の骨ではありませんわ。彼女は高名な占い師なんですのよ!」


「どこが高名だ。いいからあの女を追い出しなさい!」


「あなた!」


 うぁあ、どうすんの、泥沼じゃん。

 どうしよう、どうすればいいの!?


「言い争っている場合ではありませんわ! テオドール様の危機ですのよ! ゴルドバーグ侯爵は神の御告げを蔑ろにされるおつもりですかッ!」


 バーン、と扉を開けて登場したのは、黒のヴェールを被った、化粧の濃いおばさんだった。


「神は仰っています。かの宝物を捧げれば、御子息に降りかかる災厄は祓われると! さあ、神の御告げに従うのです!」


 …………。

 ああ、なんだ。



 ただの詐欺か。


ブクマありがとうございます。

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