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56 とある公爵令嬢の呟き その6

56 とある公爵令嬢の呟き その6


 そんな風にエリオットの機嫌を伺う日々を過ごしながら、魔術開放式の日を迎えた。


 魔術が使えるようになるのって、なんかドキワクよね。

 前世じゃ絶対に体験できなかったから、すごく楽しみだ。


 コバルト司教の話が終わり、儀式が行われた。

 石舞台に刻まれた魔法陣が淡い光を放って、わたし達を通り抜けながら上昇していく。


 身体のどこかで、カチリと音が鳴った。

 これが鍵が開く音なんだろうか。


 でも、魔法陣が消えてからは何の変化もなかった。

 いつもと変わらない。

 騒つくわたし達を面白そうに見つめながら、コバルト司教が属性鑑定を始めると宣言した。


 最初は王太子であるエリオットだ。

 しばらくしてから出てきたエリオットは誇らしげだった。

 とても良い結果だったのだろう。


 うん、知っているけどね。

 五属性でしょ。光が主属性の火、水、土、風の五属性。

 ちなみにカトリーナ(わたし)は六属性だ。闇が主属性になる。

 全属性持ちのヒロインちゃんのライバルだもん、ハイスペック仕様なのだ。


 エリオットの次に鑑定部屋に呼ばれ、中に入ると、コバルト司教の他に、お父様とお母様が待っていた。

 親同伴の三者面談のようだ。

 まあ、進路を決めるようなものだから、間違ってはいないと思う。


 そうしてテーブルの上には、ユーザーにはおなじみ、黒い円盤が鎮座していた。


 ゲームでは最初にヒロインの名前と生月日と血液型を入力する。

 これで、攻略対象者との相性パラメーターが変化するのだ。

 攻略本見たら、最高の相性とか最悪の相性とかの生月日と血液型が書いてあるんだけどね。


 もう一つ、魔術の得意属性も変化する。

 そしてオープニングで、黒い円盤に属性のエフェクトが表示される。


 ヒロインだからって、主属性が光にならない組み合わせもあったりする。闇属性もあるけど、これは確率としては低かった。

 カトリーナ(わたし)が闇属性なのは確定だけど、ゲームで闇属性の発現って見た事ないんだよね。いつも自分の生月日と血液型にしてたから。

 今回はカトリーナの闇属性エフェクトが見られるから、ちょっと楽しみ。


 コバルト司教に促されるまま、両手を黒い円盤の上に置く。

 そうして魔力が指先から出るよう、念じた。


 頭の中が真っ白になったけど、白い空に虹みたいなのが架かって綺麗だった。

 赤と黄色、緑、青、そして黒の橋。本当の虹じゃないけど、どの色もキラキラ輝いている。黒ですらキラキラしてたのにはビックリだ。


「いいですよ。目を開けてください」


 言われた通り、目を開けると、円盤には色とりどりの光が明滅していた。


 ……あれ?

 この光景、いっつも見てた気がする。

 闇って、渦巻く靄だった筈よね?

 なんで光ってるの?


「――さすがですね。光の六属性です」


 コバルト司教が感嘆している。


「ふむ。当然と言えば当然か」


「おめでとう、カトリーナ。貴女がどんな存在でも、貴女は私達の娘ですからね。それは忘れないで頂戴。貴女にはとてつもない試練が待ち構えているのかもしれないわ。けれど、私達が貴女を常に見守っている事を忘れないでね」


 お父様がどこか納得したような言葉を発すると、お母様がわたしを抱きしめて頭を撫でてくれる。


 あれ? どういう意味?

 一体、何の話をしているの?


「光属性を主属性に持ち、他の属性も偏りなく同等に発現された魔力など、今まで見た事がありません。――神殿に属する者として、これほど喜ばしい事がありましょうか。神殿はいつでも貴女を支え、守る事をお約束致します」


 そして、コバルト司教はわたしに頭を下げた。補佐の神官達もだ。


 ちょ、ちょっと待って、何が起こってるの!?


「すみません。あの、何が何だかわからないのですけれど。わ、私は光属性なのですか?」


「ああ、申し訳ありません。早急すぎましたね。はい、カトリーナ様は光属性を主属性に持つ、六属性持ちです。おめでとうございます」


 微笑むコバルト司教に言われ、わたしは目の前が真っ暗になった。


 どういう事なの、わたしは闇属性じゃないの?

 どうして。一体、何が起こっているの!


「カトリーナ、カトリーナ。大丈夫? 顔色が悪いわ。ああ、鑑定で魔力が出すぎたのね。このまま帰りましょう。よろしいですわね、コバルト司教」


「いえ、大丈夫ですわ、お母様。光属性で六属性だなんて、少し驚いただけですわ。心配なさらないで」


「そう? でも気分が悪いのならすぐに言うのですよ」


「はい。……あの、コバルト司教。私は本当に光属性なのでしょうか」


 信じられなくて、訊ねてしまった。


「もちろんですとも。この輝きを光と言わずして何と言いますか。流石は聖女様ですね」


 …………。

 今、何て? 聖女? わたしが?


「わ、私は、聖女ではありませんわ」


「そうだな。コバルト司教、今の発言は取り消して頂きたい。娘はまだ(・・)十歳だ。神託は受けておらん」


 お父様が大きな手で頭を撫でてくれた。


「そうですね、撤回致します。確かに今はまだ(・・)普通のご令嬢でした。申し訳ございません。カトリーナ嬢、お許し頂けますか?」


 まだって、何!?

 わたしは悪役令嬢なのに!


 でも、コバルト司教に頭を下げさせたままでいいはずがない。


「そんな、謝罪して頂くような事ではございません。どうぞ、お顔を上げてください。ただただ、驚いただけですわ。こちらこそ申し訳ございません。でも、私は本当に聖女ではありません」


 きっぱり言ったのに、コバルト司教も補佐の神官達も微笑むだけだ。

 何、その「わかっているよ」という笑みは!?

 本当に、本当に、違うのに。


 このままじゃ、わたし、聖女に祭り上げられてしまうんじゃない?

 そんな事になったら、ゲームシナリオ通りになっちゃう!

 悪役令嬢であるカトリーナが聖女として振る舞い、本当の聖女であるヒロインちゃんが現れて、カトリーナの悪事を暴き、聖女として断罪するという、ゲームの本筋になってしまう!


 もしかして、これが世に言う『シナリオ強制力』なの!?


 せっかく死なないよう、頑張ってきたのに。

 こんなのって、あんまりだ。




 その後、何とか席に戻ったけど、あまりにも酷い顔をしていたのだろう、エリオットにまで心配されてしまった。


 ごめんなさい、ありがとう。

 お言葉に甘えて、早退するわ。


 でも……。

 どうしよう、どうやって、死亡回避すればいいの?

 シナリオ強制力にどうやって抗えばいいの?


 誰か教えて欲しい。

読んでくださってありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。

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