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53 魔術はプチチート

53 魔術はプチチート


 魔術開放式から帰ってきたら、ウェンディとチェスターが待ち構えていた。


「お兄様。魔術を使える様になった事、おめでとうございます。ぜひ、私達に見せてください」


「おめーとうごじゃいます、にーたま。みせてくだしゃい」


 ワクワクと目を輝かせている二人に、父上がやんわりと止めた。


「二人とも、テオドールは魔術鑑定で、魔力を解放して疲れているんだ。だから今日はやめておこうね」


「では、明日見せていただけるのですか!?」


 ウェンディの願いなら、なんでも叶えてあげたいし、見せてあげるのは吝かじゃあないんだけど、父上は目線で黙ってる様にと言っていた。


「そうだね。テオドールの体調次第だね。でもね、ウェンディもチェスターも、テオドールの魔術を見たら、魔術が使えなくなるかもしれないよ」


「ええっ、どういう事ですか、父上」


「魔術開放式の前に魔術を見てしまうと、魔術が使えなくなるって言い伝えがあるんだ。二人とも使えなくなるのは残念だけど、見たいのなら仕方がないよね」


「本当ですか、お母様」


 ウェンディは困った様に母上を見ると、母上も神妙に頷いた。


「ええ、本当ですよ。ウェンディが魔術を使えなくなるのは、母様さみしいわ。できたらやめてほしいのだけれど」


「や、やめます! お兄様、無理を言ってしまって申し訳ありませんでした。ほら、チェスターも、我慢しなさい。魔術が使えなくなるのは嫌でしょう」


 よくわかっていないだろうチェスターに、ウェンディが説得する。

 楽しみにしていた事を取り上げられた形になったチェスターは、最初抵抗していたけれど、魔術が使えなくなるとわかったようで、大人しくなった。


「にーたま、こんど、おっきくなったら、みせてくだしゃい」


「うん、チェスターの魔術開放式が終わったら、見せてあげるよ。その時はチェスターの魔術もお兄様に見せてほしいな」


「あい。みてくだしゃい」


「ず、ずるいわ。私も、魔術開放式の後に見せてください。きっとよ、お兄様」


「そうだね。見せ合いっこしよう」


 そうして納得したウェンディとチェスターが乳母達に連れられて部屋に戻って行った。




「でも、魔術開放式前に魔術を見たら魔術が使えなくなるなんて、はじめて聞きました」


 父上に、訊ねてみる。

 俺は聞いた事ないよ、こんな話。


「うん、嘘だからね」


 あっさりと父上が認めた。


「君は聞き分けが良かったから、言わなかっただけだけど、この話はどこの家でもしている事なんだよ。庶民の家でもね。それに……全くの嘘というわけでもないんだ」


 なんでも魔術開放式前に魔術を見てしまった子供が、魔術開放式の魔術鑑定で魔力を放出することができず、鑑定すらできない事があったらしい。

 大昔の話なので、信憑性はわからないらしいが。


「その子自身の魔力が少なくて鑑定できなかったのか、そもそも魔力がなかったのかはわからない。――魔導具を使えていたのだったら、少しはあったのだろうと言われているけどね。でも、原因はわからないけど、実際に魔力の発現ができなかったのは事実だったからね。当時、原因のひとつとされた、魔術を見てしまったというのが、尾ひれをつけて広まったって感じかな」


 父上は困った様子で俺を見た。


「だからと言って、嘘と断じて、もしウェンディもチェスターも魔術が使えなくなってしまったら、嫌だしね。我慢してもらうしかないよ」


 つまりは、験担ぎみたいなもんか。

 だったらしょうがない。


「俺にも教えてくれたら良かったのに」


「ごめんごめん。あまりにも君があっさり引き下がるものだから、言えなかったんだよ。もう少し、粘って欲しかったな」


「えっと、それはごめんなさい?」


 謝ると、母上が噴き出した。




「じゃあ、テオドール。疲れているところ悪いんだけどね。付き合ってくれるかい」


 父上に連れられて行った場所は、練兵場だった。一見体育館のようなところで、普段ならケヴィン達警備兵が稽古している所だ。

 だけど、今回は誰もいない。人払いがされていた。

 リチャードとケヴィンも下がるよう、命じられて出て行った。

 俺と父上の二人きりだ。


「はじめるよ。君がどれだけ魔術が使えるのか、見せてもらうだけだから、気楽にしてくれていいよ」


 そう言って、父上は地面に足で円を描いた。


「さて、テオドール。魔力が放出される感覚を覚えているかな。もし属性ごとに分けられるのだったら、土属性をこの円の中に注ぐように出してほしい。――こんな風に」


 父上から魔力が流れているのがわかる。

 うわ、他人の魔力ってこんな風に見えるのか。黄色のオーラが父上の指先から出て、円の中の土に干渉している。

 それに何より、呪文詠唱がないのがびっくりだ。みんなそうなんだろうか。

 土はゆっくり盛り上がって、ちっちゃな雪だるまみたいな形になった。


「こんな感じで、土を盛り上げてみてほしい。形とか作らなくていいからね。作りたいなら作ってもいいけど、あまり無茶をすると、魔力枯渇が起こっちゃうから気をつけてやってみて」


「はい」


 元に戻された地面を見つめる。

 せっかくだから、何か作りたい。何がいいかな。

 んー、とっさには何も出てこない。

 でも土と言えば、アレでしょう。

 よし。


 パン、と手を叩いて、円の縁に手をついた。

 指先から魔力が流れるのがわかる。

 そうして、壁を作った。

 高さ一メートル、幅七十センチ、厚さ十センチくらいの壁だ。もうちょい、大きくできたら良かったのに。


「……て、テオドール、これは?」


「壁? イメージとしてはもう一回り大きいのですけど」


「手を叩いたのは、どうして?」


「なんとなく?」


 某錬金術師の真似ですとは言えない。

 小さい頃、マンホールの蓋を見つけては、錬成ごっこしてた。

 そしたら、俺の後ろを歩いていたおっさんが、急にしゃがみ込んだ俺につまづいて転んでしまって、めちゃくちゃ怒られた覚えがある。

 母さんにも怒られました。うん、他人の迷惑になる事はやっちゃいけない。


「気分が悪くなっていないなら、手を叩くのはやめて、もう一度やってみてくれないかな」


「それはいいですけど、どうしてです?」


「手なんか叩いていたら、気づかれてしまうだろう? ただでさえ、魔力の流れでわかってしまうんだから、わざわざ気づかれる要素を増やす必要はないよ」


 気づかれるって、戦っている相手にだろうか。

 という事は、詠唱もそういう意味なのかな。


「えっと、それで父上も詠唱もなしで魔術を使えるのですか?」


「はは、詠唱なんて、物語の中だけだよ。実際に言っているヒマなんてないんだから。それに、あんな大げさな魔術を使えるなんて人は滅多にいないしね。――例外はいるけど。ともかく、集中して素早く発現する。これだけでいいんだ。やってみて」


「はい」


 うわ、詠唱も何かしらの動作も必要ないって、逆に緊張する。

 魔力とのタイミングが合わせづらい。


 案の定、ガタガタの壁になった。


「んー、手を叩いた方が、効率いいのかな? ともかく、大体の事はわかったよ。君の魔力は多い方みたいだね。だけど、発現方法には少し問題があるかな。そこを踏まえて先生を探してみるよ。疲れているところ、悪かったね」


 それから余裕があったので、火、水、風でも試してみた。

 火は、指先にちらりと炎が出た。ほんの十秒ほどで消えたけど。

 水は、二、三滴、雫が落ちただけだ。

 風は、俺の髪がちょっと動いた。


「ここまでできるなんて、すごいね。私の時は小さな小さな石ころを生み出すだけでやっとだったよ」


 ええと、という事は。

 魔法はちょっとだけチートだったって事かな。


「練習したら、もっとできるようになるんですか?」


「もちろん、なれるよ。君ならね」


 父上のお墨付きをもらって、俺は嬉しくなった。

 よし、頑張ろう。


すみません、遅くなりました。

ペースがなかなか掴めないです。


読んでくださってありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。

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