51 魔術開放式は粛々と
51 魔術開放式は粛々と
「そんなに落ち込まなくていいんじゃあないですか。別に悪い事を言った訳でもあるまいし」
屋敷への帰り道、落ち込む俺を励ますようにケヴィンが言った。
「ちょっとクサイとは思いましたが、坊ちゃんなら納得しますよ。『心から愛する』なんていうセリフは坊ちゃんしか言えないでしょうね」
「それは何か。俺が恋愛脳だからか」
愛とか簡単に言い過ぎだとかフレドリックに言われたりしている。
ルークにもロマンス好きだって言われたし、エリオットには花畑とか馬鹿にされてる。
そんなに恋愛の事ばっかり考えているわけじゃないのに。
ただ、前世で示せなかった分、今世では示しておきたいんだよ。
人生、何があるかわかんないんだから。
それにミュリエルを逃したら、きっと年齢イコール彼女いない歴になると思う。
なんせ俺だからな。イケメンでもこればっかりは信用はしてない。
だって、周りがイケメンだらけなんだぜ。フレドリックやエリオットをはじめとする戦隊モノ達は群を抜いている。俺の顔なんて普通に思えてしまうくらいに。
ともかく、前世からの記録更新だけはしたくない。前世でできなかった、十代後半に青春を謳歌したいんだ。
ロリコンと言われようと、構わない。
でもぶっちゃけ十代後半の綺麗なお姉さんを見ても、恋人にしたいとは思わないんだよな。
俺が子供のせいもあるかもだけど、同じ年頃の子の方が可愛いんだよ。
なんかお姉さんって、ずっと歳上に見えるんだよな。
その同じ年頃の中で、ミュリエルが一番可愛い。
ふわふわのニコニコで、ちょっといたずらするとウルウルで、プレゼントするとパァアアってなる。そんな、くるくると変化する表情を見てるのは好きだ。
あれ、これって恋愛脳?
「何を言っているんですか。違いますよ」
俺の心の内など気付いていないケヴィンが、呆れたように反論した。
「俺が言いたいのは、坊ちゃんがいつも周りの人達を大事にしているって事ですよ。それを俺達は知っている。旦那様達はもちろん、ミュリエルお嬢様もフレドリック殿下もです。そんな坊ちゃんが言ったからこそ、説得力があるんです。それで司教様も納得されたんだと思いますよ」
「周りを大切にするのは、当たり前の事だろう? そこまで褒めるような事じゃないぞ」
そう言うと、ケヴィンもリチャードも嬉しそうに笑った。
「さすが、坊ちゃんは坊ちゃんだ。それでこそです」
「はい。テオドール様はテオドール様です」
何が、俺が俺なのか。よくわからん。
でも励まされた事はわかったので、落ち込むのはやめにしよう。
心配かけてすまなかった。
◇
魔術開放式当日は晴天だった。
父上と母上と連れ立って大神殿へと赴く。
ウェンディとチェスターはお留守番だ。二人とも一緒に来たいと駄々をこねてたけど、まだ年齢が足りてないので、見学もできないらしい。
そうだよな。
俺だってリチャードの魔術開放式を見る事は出来なかったもん。ゴルドバーグ領にある神殿でもダメだったもんな。
まあ、二人とも十歳になったらわかるんだから、楽しみにして待っているように、と、お決まりの説得を父上から受けて、渋々引き下がっていた。
どうも恒例行事のようだ。
入り口で受付を済ませ、この前参拝した拝殿を通り抜けると、奥の建物へと案内された。
魔術開放式はこちらの建物で行うらしい。
通路の奥には、重厚な両開きの扉があった。両脇に槍を携えた神官達が控えている。
「ゴルドバーグ侯爵がご子息、テオドール殿にございます」
案内人がその神官達に口上を述べると、神官達が扉を開いてくれた。
中に入ると、そこは大きなホールになっていた。
正面に聖女と六騎神の神像が並び、中央に大きな石舞台がある。
そこに六芒星の魔法陣が刻まれていた。
その上に椅子が三十数脚並んでおり、前列の席以外、ほとんどの席に子供達が座っていた。
みんな子爵家以上の家格を持つ子供達だ。
そして、石舞台の周囲には、見学者のための座席が用意されていた。
なんか、コロッセオっぽい? コンサート会場にも見える。
まぁ、観客席はすり鉢状になっているとはいえ、三段くらいで、座席数も少ないし、規模としては小さい方なんだろうけど。
「では、テオドール様はこのまま真っ直ぐ、石舞台にお進みください。ゴルドバーグ侯爵ご夫妻はこの者が案内します」
案内人が促す。
「テオドール、いつものように気楽にしていて大丈夫だからね」
「頑張ってね、テオドール。母がついてますから」
いつものように、父上は俺に対する信頼が半端なくて、母上は心配性だ。
思わず苦笑が漏れる。
「はい。父上、母上。行ってきます」
軽く手を振って、案内人について行く。一番前列の左端から二番目の席に案内された。
後ろの席には、ミュリエルがいた。
ミュリエルに軽く手を振ると、微笑んで振り返してくれた。
ミュリエルの右隣に座っていた緑髪娘とさらに右隣の緑髪が呆れてるが、気にしない。
座って待っていると、俺の左隣に、赤髪娘が案内され、右隣にはカトリーナが案内されて来た。
最後に王太子であるエリオットが案内されて、カトリーナの隣、全体の中央に着席した。
どうやら席は爵位順のようだった。
みんな緊張しているのか、一言も発していない。
そんな妙な緊張感が会場中に漂う中、コツコツと靴音を立て、一際立派なローブに身を包んだ男性が、数人の神官を従えて中央の聖女の像の前まで出て来た。
この前会った、青髪のお父上、コバルト司教だ。
「今年十歳になる皆様、この度はおめでとうございます。儀式を執り行う指揮を執らせて頂きます、モーリス・コバルト司教です。よろしくお願いします。これから行われる儀式で、己の内に眠る魔力を解放するわけですが、いくつか注意点があります」
そう言って、コバルト司教は説明を始めた。
魔力が解放されたからといって、すぐに試そうとしない事。
気分が悪くなったらすぐに報告する事。
「毎年、人の忠告を聞かないで、直後に魔術を発動する馬鹿はいますが、すぐに魔力切れを起こしてぶっ倒れています。皆様はそこまで馬鹿ではないと信じておりますが、馬鹿な真似はしないようにしましょう」
ニコニコ笑いながら話す司教。なんかすごく黒い笑顔に見える。目が笑ってないよ?
そんな注意をするほど、やってしまうヤツが多いんだろうか。
「また魔力が馴染まない人がたまにいます。少しずつ魔力を身体に慣らして行く必要がありますので、気分が悪くなったらすぐに周囲にいる神官に言ってください。対処法がありますので心配はいりません」
なるほど。
今までにない感覚が増えるせいでもあるのかな?
「そして最後に。これが一番重要です」
言葉を区切り、みんなを見回す。
「自身の属性は他人に決して漏らさないように。自分の情報は自分で守ってください。いいですね。教え合いっこは、してはいけません。使っている内にわかってしまうものではありますが、自分から申告する必要はないという事です。皆様ならどういう事かわかりますね」
個人情報の漏洩はするな、か。
確かにな。
俺達の身分なら、些細な事でも利用されてしまう可能性がある。
わざわざ自分から言う必要はない。
「では、始めます。皆様席を立たないように」
コバルト司教が六芒星の頂点のひとつに立ち、両手を広げて、祝詞を述べていく。
周囲では、それぞれ司教と同じ様に六芒星の頂点に立った神官達が司教の祝詞に合わせ、声を発す。
ぼうっと、足元が淡く発光していく。
そうして光の魔法陣が浮かび上がり、俺達の身体を通り抜けながら上昇していった。
その時、カチリと、身体のどこかで音がした。
光の魔法陣は俺達の頭上でくるくると回転して、粒子となって消えた。
…………。
なんか、変わってない?
何か変化があるかと思ったら、何も感じなかった。
あれー?
「さて。それでは個別で属性の鑑定をしていきましょうか」
ざわつく俺達にいたずらっぽく笑いながら、コバルト司教が言った。
……あれ、ひょっとして、担がれた……のか?
すみません、遅れました。
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