5 内政チートは想定外
5.
剣無双がダメなら、アレだな。
そう、NAISEIチートだぜ!
高校生程度の知識で内政チートができるかどうかわからないけど、やってやる!
まずは何からやってみるかな?
「坊っちゃま。お夕食の前に、お風呂に入って汗を流してくださいな。準備はできておりますから」
「はぁい」
よし、最初はお風呂だ。お風呂の改革をやってやる!
マーサと一緒にお風呂へ行く。
素っ裸にさせられて、浴室に入った。
浴室ではマーサが壁にある魔晶石に触れて、シャワーの水量と温度を確かめていた。
ちなみにマーサはちゃんと服を着てる。
「さ、坊っちゃま。お湯を掛けますので、目を瞑っててくださいね」
シャワーを掛けられた。うん、いつも通り丁度いい温度だ。
そして、シャンプーとリンスで頭を洗った後、香りの良い石鹸で身体を洗われる。
泡を再びシャワーで流して、お湯を張った湯槽に浸かった。俺に合わせて水位は低いが、身体を伸ばせて気持ちいい。
「さあ、坊っちゃま。肩まで浸かってくださいな。一緒に百まで数えましょうね。いきますよ~。い~ち、に~い……」
「……きゅうじゅうきゅう、ひゃ~く」
ひゃあ、やっぱり百までは長いな。俺、烏の行水だったから、ゆっくり浸かるのは苦手だ。
熱いから慌てて浴室から飛び出すと、バスタオルを持って待ち構えていたメイドさん達に捕まった。わしゃわしゃと身体と髪を拭われる。
「はい、坊っちゃま」
メイドさんがパンツを広げて待ってくれてる。メイドさんの腕を掴んで、パンツを履いた。まだ立ったまま自分で履くことはできないんだよ。仕方ないじゃないか。
でも、ブリーフパンツだぜ! オムツはこの前終わったんだ! くぅう、長かった。世話してもらうのは本当に苦痛だったんだ。
用意してもらった部屋着に着替えて(靴下は自分で履けた。尻餅つけばできる)、鏡の前に座る。
違うメイドさんがタオルとドライヤーで髪の毛を乾かしてくれた。ちょっと熱いって言ったら、手元の魔晶石を調節して、丁度良い温度の風にしてくれた。
ん、お風呂、気持ちよかった。
◇
風呂が終われば夕食だ。今日は何かな?
ウチのご飯はいつでも美味しいから楽しみなのです。
ただひとつ不満があるとすれば、ひとりで食べなきゃならないことか。マーサもメイドさん達も並んでいるだけで、一緒に食べてくれないんだよな。
ケヴィン達警備兵は詰所で食べてるって話だし……。
一緒に食べて欲しいって言ったら、身分を盾に拒否られたよ。
でも、あんまり無理も言えないんだよね。
無理矢理命令なんて形で一緒にご飯食べたとしても、事情を知らない人(例えば本館にいるメイドとか)に見つかって怒られるのは、マーサ達なんだから。
俺が無理矢理に頼んだなんて言い訳しても、それを諌めるのが乳母の仕事とか言われると反論のしようもない。
俺に力があって、他人に認めさせられるだけのモノがあったら、話のしようもあるだろうけど、養われている身じゃ我儘の一言で終わるだろう。
やっぱりチート頑張らないとなぁ。
ひとりでご飯は寂しいよ。
今晩の献立は、玉ねぎとベーコンと香草のコンソメスープに、ポテトサラダ、ふわトロ卵のオムライスにはデミグラスソースだ! そしてオレンジジュース。
大好物のオンパレードだ!
「ふふ、今日はたくさん遊びましたからね。たくさん食べてください」
マジで!?
いやもう、がっついちゃうよ、俺。
お子様スプーンとフォークを装備して、いざ戦場へ。
まずはスープだ。やー、ベーコンのいいダシが出てて、美味しい。
ポテサラも塩胡椒とマヨネーズの割合が抜群だね。ジャガイモもゴロゴロしてて歯ごたえがある。
オムライスはケチャップ味のチキンライスにふわトロ卵とデミソースを絡めて食べると美味しいのなんの。
オレンジジュースは本当の搾りたてフレッシュジュースだ。はー、喉が潤うぜ。
「デザートは坊っちゃまの大好きなチョコレートケーキですよ」
「ホント!?」
わぁい、やったぜ。お子ちゃまなせいか、甘いものは大歓迎だ。
ウマウマー。
うん、やっぱりウチの料理は最高です。
早くみんなで食べれるように、内政チート、なんとかしないとなー。
◇
ご飯食べて、部屋に戻ろうとしたら、ロビーにケヴィンがいた。
なんか、板を持ってる。なんだろう?
「ケヴィン、どうしたの? こんやはケヴィンがけいびするのか?」
「そうですよ、坊ちゃん。なので安心してお休みください」
「ん、おやすみ。ところでソレなに?」
ケヴィンが持つ板を指してみる。
白と黒の……市松模様?
「ああ、これですか。チェスですよ。交代の時間まで間があるので、相方とちょっと遊ぼうかなって……内緒ですよ?」
いや、側にマーサがいるから、内緒もなにもあったもんじゃないと思うんだが。
それよりも、チェスってあるんだな。
「おれもやってみたい」
「えー、えーと、いいんですかね?」
聞いたのは俺にじゃなく、マーサにだ。
俺は目力で訴える。少しだけならいいよねって。
マーサは「しょうがないですねぇ、少しだけですよ」と苦笑して、許可してくれた。
やった!
ロビーの近くにある部屋に移動して、わくわくしてると、
「んー、坊ちゃんにはチェスより、こっちの方がいいかもしれませんね」
ケヴィンはそう言って、もうひとつ、板を取り出した。見えなかったけど、二つ持ってたみたいだ。
折り畳んであった板を開くと、中には表と裏をそれぞれ白と黒に塗り分けた円盤状の駒が並んでいた。
「リバーシと言います。こうやって、同じ色で挟んだら中にあるのをひっくり返して、自分の色にできるんです。簡単でしょ?」
おおう、リバーシまであるとは。
懐かしいな。よく姉貴と遊んだっけ。
ふふ、やってやんぜー!
……負けました。
いいとこまで行ったんだけどなぁ。
「坊ちゃんは角狙いがあからさまですからね。そりゃ、読まれますよ」
むう、そっか。姉貴に負け続けてたのはそういうことか。
「さ、坊っちゃま、気が済んだでしょう。おやすみの時間ですよ」
もうそんな時間か。
遊んでくれたケヴィンに礼を言って、部屋に戻る。
途中で催したので、トイレに行った。
洋式で水洗で、便座はもちろん暖かい。
……ふはー。
水を流すとき、設置されている魔晶石に触れるんだけど、ちょっとイヤなんだよな。
なんか、ビリって静電気みたいなのを指先に感じるから。
手を洗う時の蛇口の魔晶石もそうなんだけど。
そのまま洗面台で、歯磨きもする。
マーサがチェックして、磨き残しを磨いてくれた。
まだ歯ブラシの扱いが下手だー。
手がちっこいから、上手く扱えないんだよな。
部屋から寝室にいくとでっかいベッドがどーんとある。
俺ひとりで寝るのに、こんな大きなの、いらないと思うんだけど。
ともかく、マーサに寝巻きに着替えさせられて、ふかふかの布団に潜り込んだ。
マーサがお休みと言って、壁に設置してる魔晶石に触れ、天井の明かりが消える。
お休みなさい。
……そーいや、内政チートって、どうすればいいんだろう。
なろうでよくある内政チートアイデアを、思いつく限り潰してみました。
ブクマありがとうございます。