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46 リア充は爆発すればいい

46 リア充は爆発すればいい


「ようやく捕まえた。さあ、古代語解明の秘密を教えてもらおうか」


 会場に到着し、公爵への挨拶を終えた途端、俺の腕を掴んで離さなかったのは、ルークだった。

 厄介なヤツに捕まった。

 公爵令嬢が開催しているパーティーでの事だ。来ているのも鬱陶しくなるのもわかっていたけれど、エリオットとフレドリックが来る以上、欠席はできなかった。

 まぁ、毎回欠席するわけにもいかないしな。諦めてくれるように話を持っていかないと。


「オリアーナ嬢から聞いたよ。スラスラと発音と意味を書いたそうだね。おかげで助かった。その事には礼を言う。ありがとう。けれど、古代語解明については偶然だと言い張っているそうじゃないか。ボクの目は誤魔化されないぞ。キミは本当は知っているんじゃないか?」


「だから、知らないって。発音はたまたま当たっただけだ。意味なんて聖女伝説じゃ、有名なフレーズだろ。六騎神の贈り物なんだから、愛の告白に決まっているじゃないか」


「キミがロマンス好きなのは知ってるけど、それだけで解明できるなんて思ってないよ」


 ちょっと待て。


「誰がロマンス好きだって?」


 訊ねると、ルークはきょとんとした表情になった。


「キミ、自覚なかったのかい? いつでもどこでもミュリエル嬢と仲良くしていただろう? 他のご令嬢なんか見向きもしないでさ。いっぱい贈り物をあげているし。おかげでオリアーナ嬢に嫌味を言われたよ。キミは女性の心に敏感なのに、ボクにはその数分の一の気持ちもないのかってね。少しくらい気にしろって言われても、魔導具をいじっている方が楽しいに決まっているじゃないか。どうして女の子はわからないんだろうね。一緒に魔導具いじりしようって誘っているのに、そんなはしたない事できませんって言うんだ。じゃあ、どうしろっていうのさ」


 なんだか愚痴になってきたけど、このまま話が逸れてくれるのはありがたい。


「そりゃ、女の子は興味ないからだろ? でもお前と遊びたいんだろうし、一緒に遊んであげたらいいんだ。オリアーナ嬢の趣味に合わせてさ」


「ボクはキミのように恋愛にだけしか興味があるわけじゃないんだ。オリアーナ嬢の趣味って、魔導具をどうやってアクセサリーにできるかなんだよ。そんなくだらない事に魔導具を使わないでほしいよ」


 なんか聞き捨てならない言葉もあったが、まあいい。ったく、誰が恋愛脳だよ。俺はただ、ミュリエルと遊ぶと癒されるから一緒にいたいだけだ。

 っと、話が逸れた。


「だって伝説の魔導具アイテムが『聖女の装飾品』だぞ。女の子だったら、そっち方面に話が行くだろう? きっとお前と『聖女の装飾品』の話がしたかったんだとと思うぞ?」


「せ、聖女の装飾品は、ただのアクセサリーじゃなくて……」


「アクセサリーの魔導具だよな。あ、今は魔導具とは言えないんだっけ。でもアクセサリーだぞ。女の子が聖女の装飾品に憧れを持っているのも知ってるよな?」


 ルークが黙り込んだ。

 魔導具としてしか見ていなかったらしく、聖女の装飾品と言いつつ、装飾品(アクセサリー)という認識はなかったようだ。こいつの家の聖女の装飾品は聖杖だったから、アクセサリーの意識がなかったのかもしれないが。


「ルークはさ、もうちょっと魔導具以外の事に興味を持った方がいいんじゃないか?」


 オリアーナ嬢の事が気にかかるんだったら、少しくらい趣味に付き合ってあげても無駄にならないと思うんだけどな。それに彼女の意見は鋭いぞ。心が抉られるくらいに。

 …………だから苦手なのか。


 ともかく、ルークの意識はオリアーナ嬢の事に移ったようだ。よかったよかった。


「ふむ。確かにルークは魔導具だけじゃなく他の事にも興味を持った方がいいな」


 ポンッと肩に手を置かれた。見ると、ベイツだ。

 げっ、こいつも来てたのかよ。


「その歳まで婚約者もいない、ベイツさんに言われたくありません」


 ルークが半眼でベイツを睨みつける。

 だが、ベイツは全く応えていないようだった。


「そうだな。俺みたいに婚約者に逃げられたら困るだろ。もう少し友達と遊んだ方がいい。テオドールとも遊べ」


 ベイツは俺の頭をぽんぽんと叩いて、ルークに笑いかけた。


「また、聞きに来たんですか。俺は何もわからないって言っているでしょう」


 つい、硬い声になってしまう。それだけベイツの追求はしつこかったのだ。


「わかっているよ。これに関しては問い質すことはないから安心してくれ。ルークも説明しただろ?」


「わかりました」


 ムスッとした表情でルークが答える。納得いってないみたいだけど、とりあえずは安心なのかな。

 そんな話をしている間、父上も話が終わったようだ。

 ルークと一緒にいた厳しそうなおじさんと話ししていたのだ。


「君が、テオドール殿か」


「はい。オーウェン・ゴルドバーグが一子、テオドール・ゴルドバーグです。初めまして」


 おじさんはジロジロと俺を眺めると、笑った。

 怖っ! なんかこの人の笑顔、物凄く怖いよ!?

 なんか睨みつけられているように見えるんだけど、笑っているんだよね?


「失礼。私はアントニー・グリーンウェル。伯爵位を賜っています。ルークの父親でもありますな。愚息と仲良くして頂きありがとうございます。また、先日の件では助けて頂き感謝しております」


 そう言って、ゴツゴツした手を差し出してきた。

 そっか、この人がルークの親父さんか。あまりこういった場では見た事ないから知らなかった。やっぱり噂通り、怖い人なのかな。だって、笑顔怖いし。

 でも、律儀な人みたいだ。こんな子供にわざわざお礼を言いに来るんだもんな。ルークがこういうところ、しっかりしているのもわかる気がする。

 俺は大きな手を握り返した。


「ご子息と仲良くさせて頂いております。私の方がご子息に助けられてばかりです。あと、あの件に関しては、私の功績じゃありません。たまたま当たっただけなので、お気になさらないでください。ですが、わざわざご挨拶くださってありがとうございます」


 何故かグリーンウェル伯の眉間に縦ジワが寄った。


「ははっ、テオドールは堅苦しいな。もっと子供らしくていいんだぞ」


 ベイツが笑うが、そんなわけにいくか。ちゃんとしないと、ミュリエルの親父さんにもアピールできないだろ。

 この人の態度如何でミュリエルのお兄さんにも迷惑がかかるんだから。慎重に対応して何が悪い。

 グリーンウェル伯は父上と一言二言話した後、ルークを連れて離れて行った。


「そういえば、テオドールはライラック公爵令嬢の事をどう思ってる? 好きか?」


 二人が離れてから唐突にベイツがそんな事を聞いた。何を言ってるんだろう。


「んー、好きか嫌いかで言えば好きだな。尊敬できる友達だし。あんなに周囲に気を配れるのってなかなかできる事じゃないよね。頭もいいし、王妃にふさわしい令嬢だと思うよ」


 ベイツは俺の答えが意外だったのか、そうかと何回も呟いて、考え込んでしまった。

 どうしたらいいかと父上を見ると、苦笑していた。

 そして、気にしなくてもいいと言うように、俺を連れてその場を離れる。

 どうやら父上もベイツが変な人だという事は知っているらしい。





 そろそろ子供達の会場に行こうとしたら、アンバー子爵が父上に挨拶に来た。あの時以来だから久しぶりだ。

 子爵は硬い表情で、慎重に言葉を発した。


「お久しぶりです、ゴルドバーグ侯爵」


「ええ、お久しぶりです。お元気そうで何よりです。お嬢様とはお話になられましたか?」


「はい。この度は……何と言って良いか……。ただ、申し訳なく思っております」


 歯切れが悪かったが、子爵は噂話に左右されて婚約話を断った事を謝罪してくれた。先ほど、グリーンウェル伯が俺と握手を交わしたのを見た事で、潮目が変わったようだ。

 ただ、また今すぐ婚約というわけにはいかないので、三年後、俺とミュリエルの魔術開放式後に、気持ちが変わらなければ了承すると言ってくれた。

 しかも、今まで会う事も話す事も手紙も禁止だったのを解禁してくれた。


「ありがとうございます、アンバー子爵。それで充分です。さっそくお嬢様とお会いしてよろしいでしょうか?」


 勢い込んで訊ねると、アンバー子爵は仕方ないと許可してくれた。


「これで断ったら、娘はもう二度と私と話をしてくれないでしょうな」


 アンバー子爵にお礼を言って、俺は子供会場へ向かった。





 子供会場でミュリエルを探す。

 焦っているせいか、なかなか見つからない。

 カトリーナなら知ってるかも。会場の中央に、カトリーナがいた。その側にひっそりと取り巻きの他の令嬢に隠れるように、ミュリエルがいた。

 二回ほど深呼吸して、ミュリエルに向かって歩み寄る。

 すると、すぐにカトリーナが気づいてくれた。


「皆様、あちらに新作のお菓子がございますの。ぜひご賞味頂きたいですわ」


 と、他の令嬢達を連れて行ってくれる。

 でも、それはダメだろう、カトリーナ。ミュリエルは食いしん坊なんだから、新作のお菓子が気になってるじゃないか。

 だけど、我慢して待っていてくれた。

 いつもなら喜んでついていくのに。

 新作のお菓子より、俺を選んでくれたのかな。そうだったら嬉しい。


「……久しぶり、ミュリエル嬢」


「はい、テオドール様」


 いっぱいの笑顔で迎えてくれた。


「お父上から会う許可を頂いたよ。これでまたいつでも会えるね」


「はい。嬉しいです。お話ししたい事がたくさんあるんです。聞いて頂けますか?」


「もちろん」


 でも、その前に。


「行こうか」


「え? ど、どこに?」


「新作のお菓子。食べたいんでしょ? 俺も食べたい」


 笑いかけると、ミュリエルも笑顔になったが、すぐにぷぅっと膨れた。


「わ、私、そんなに食いしん坊じゃあ、ありませんわ」


「ごめんごめん。でも、行くでしょ?」


 手を差し伸べる。


「行きますわ。エスコートしてくださいませ」


「もちろん喜んで。お姫様」


 二人で笑いあって、カトリーナが説明しているテーブルへ向かう。

 カトリーナがぼそりと「爆発なさってくださいませ」と呟いていた。

 どうやらこの世界にも、「リア充爆発しろ」というフレーズがあるようだった。

 しないけどな。


読んでくださってありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。

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