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42 女の子はわからない

42 女の子はわからない


 ルークを追って部屋を出ると、女の子部屋からカトリーナ達が顔を出していた。


「テオドール様、どうされました? ルーク様が慌てて出て行かれたようですが……」


「ちょっと急用を思い出したようです。私も失礼させて頂きます」


 挨拶もそこそこに、ルークを追う。馬車に乗り込む寸前だった。

 慌てて止める。


「待てよ、ルーク。ちょっと落ち着け」


「キミか。邪魔しないで貰おう。ボクは一刻も早くこの情報を知らせないといけないんだ」


 俺の手を払いのけて、ルークが怒鳴る。


「いいから、ちょっと待て! 今は店には行くなって言われてるだろ。伝えたいなら、お前のお父上か、スフェーン伯爵……オリアーナ嬢のお父上からベイツさんに報告してもらえ。何で行っちゃいけないかは、お前ならわかっているんだろ」


 ルークはしばらく考え込んでから、馬車に乗り込もうとするのをやめた。


「一日や二日遅れても、そう大して変わらないだろ。今までわかんなかったんだし」


 ルークを宥めているうちに、玄関にカトリーナが出て来ていた。


「お二人共、どうかなさいまして? 何処かに行かれるのでしたら、行き先をお家の方にご連絡させますが」


 そうか。ライラック公爵邸に行くとしか言ってないからな。こっちも供の者は従者と護衛のみだから、人手が足りないし。


「いや、いいよ。ありがとう。……あ、そうだ。せっかくだし、オリアーナ嬢にお父上に会わせてもらえないか、聞いてみるか?」


 ルークに尋ねてみる。ベイツの話ぶりだと、ルークのお父上とは何かありそうなんだよな。その点、オリアーナのお父上はベイツの兄貴だって話だし、魔導具研究所の所長らしいし、話が通りやすいと思う。


「それは無理だ。彼女に迷惑はかけられない」


「何でだよ。聞いてみるくらい、いいだろ。それとも、お前がお父上に話すか?」


「……あの人はボクの話を聞かない……」


 何だ、そりゃ。ポツリと言うルークは悔しそうだ。んー、尊敬はしてるみたいだけど、複雑なのかな。


「だったら、オリアーナ嬢に聞くだけ聞こう。駄目だったら、俺の父上から話ができないか、聞いてみるからさ」


 それでもルークは渋るので、痺れを切らした俺は、カトリーナに部屋にいたオリアーナを呼び出して貰った。




「まぁまぁ、私に一体どのようなご用件でしょう~」


 間延びした言い方は相変わらずだ。おっとりした娘で、長い深緑の髪を緩く纏めてる。

 にこにこ笑いながら、こてんと首を傾げて尋ねたが、ルークは何も言おうとしない。そっぽを向いたままだ。


「もしかして、魔導具の事でしょうか~? この前ルーク様が仰ったように、私のような者には魔導具の研究の事など、爪の先ほどもわかりませんが~」


 あれ? なんか言葉がキツイように聞こえるのは気のせいかな?

 ルークは目線を逸らしている。……それに、ダラダラと汗を掻いている? そんな暑くないぞ、今日は。

 ずっと黙っている事もできないので、俺が説明した。

 古代語の解明の手掛かりを見つけたようだと。


「まぁ~、それは素晴らしいですわ~。せっかくの発見ですのに、どうしてご自分でご説明されないのか私にはわかりませんが、素敵だと思いますわよ~」


 言葉の端々に棘があるように聞こえるんだけど。

 にこにこ笑いながら言ってるから、どう捉えればいいのかわからない。

 でも、ルークは黙ったままだ。

 あれ? ひょっとして、俺って余計な事してるのか?

 いやでも、呼び出してしまったんだから仕方がない。お父上に会わせてもらえないか聞いてみよう。


「ええと、それで、オリアーナ嬢のお父上のご都合をお聞きしてもよろしいですか? 情けないことに、この情報を伝える手段を持ち合わせておりませんので」


「まぁ、そんな事はございませんでしょう~? ルーク様のお父様は宮廷魔法省長官でいらっしゃるのですもの。私の父に話すよりも、お家で話された方が早くて確実だと思いますわ~」


 うぐ、正論だ。正論だけど、グサグサ来るのは何でだ。

 ルーク。お前、この娘と何があったんだ。めっちゃ棘があるんですけど。

 というか、デジャブ? この前、ルークに論破された時のようなんだけど。

 仕方ない、諦めるか。


「申し訳ありませんでした。仰る通りです。今の発言は忘れてください。お手間を取らせてしまい、すみません」


「いいえ~。テオドール様がお謝りになられる謂れはありませんわ~。そちらにいらっしゃる方がご自分でお話しになられればよろしいのであって、わざわざ関係のないテオドール様に代弁させて、ご自分はだんまりなんて方は放っておけばよろしいのです~」


 きっつ! 何、この娘、マジで言ってる事、キツイんですけど。

 いつもおっとりと喋る娘だとしか思ってなかったのは、間違いなのか?


「それに、どうやらベイツ叔父様にお会いされたいようですが、叔父様とは私もお会い出来ません~。事情もある程度は知っておりますが、そのような事はお二人ともご存知のご様子。でしたら、私に頼み事をされる前に、ご自分がしなければならない事をされるべきかと~」


 しなければならない事? ルークを見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしている。心当たりがあるようだ。


「テオドール様。テオドール様もでございますわ~」


「へ? 俺?」


「ええ。私のお友達が泣いていらっしゃったのです。私は心を痛めてしまいましたわ。どうにもならない事情だとわかっておりますし、私には関係のないお話しではありますが、彼の方に一言ぐらいあってもよろしいのではないでしょうか〜?」


 そういや、はっきり言ってなかったな。この娘はミュリエルを心配していてくれたのか。大丈夫、必ず迎えに行く。


「必ずお父上に認めて頂くから、待っていて欲しいって、ミュリエル嬢に言伝てもらえますか? 会う事は許されておりませんので」


 オリアーナは目を見開くと、ふんわりと笑った。


「本当に素直な方でございますね〜。躊躇いもなく仰られるなんて、ミュリエル様がお羨ましいですわ〜。そちらの方は未だ躊躇っておられますのに〜」


「――すまなかった。女の子は魔導具を扱うべきじゃないと言ったのは失言だった。どうか許して欲しい」


 深呼吸したルークがオリアーナに頭を下げた。

 オリアーナは少しだけ笑みを深めて、更に言った。


「それだけじゃ、ございませんわよね〜。私は傷ついておりますの〜」


「研究に没頭して、キミとの約束を忘れて申し訳ない」


 え、お前、女の子との約束破ったの!? なんでそんな勿体無い事するんだよ。


「はい、今回はそれでよろしいですわ〜。丁度、帰って来たようですので〜」


 今回はって、何? そして、何が来たの?

 オリアーナは従者から話を聞くと、俺達に向き直った。


「では、お父様がお会いしてくださるようですので、研究所の方へ参りましょうか〜」


 どういう事?

 なんて思う間も無く、俺とルークはオリアーナに連れて行かれた。


 この娘の事がサッパリわからない。

 ルークを見ると、ちょっと嬉しそうだった。


「何があったんだ、お前ら」


「何もないさ。……そうだな、また話が出来たのは良かった。――礼は言わないからな」


「……わけがわからん」


 それでいいと、ルークが言った。

 本当に、わけがわからない。


次話から不定期になります。


読んでくださってありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。

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