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41 刻まれているのは愛

41 刻まれているのは愛


 ベイツの店には、当分の間行かないよう、父上に釘を刺された。

 どうも濁した言い方だったけど、危ないから近づくな、って言っているようだ。


 確かに、ベイツは聖女の聖杖を研究している、って教わった。

 理由は、いずれ現れる聖女の為に、装飾品の復活を研究しているらしい。

 聖女が誰なのかはわからないけど、備えあれば憂いなし、だそうだ。


 ……つまりはそんな事態が起こりそうって事なんだろうか?

 父上は返納をきっかけに調査を進める動きがあったからだと、言ったけど、それだけじゃなさそうだ。

 だって、研究するんだったら、先王が調べた時点でそのまま研究すればよかった話だ。


 何だろう。ちょっとモヤモヤする。

 でも、子供には教えられない事のようだからな。

 今はやるべき事をやれって言われたし、それしかできないんだろうな。

 確実にモノにしていこう。



 ◇



 今日はパーティーだ。気合い入れて行くぜ。

 ミュリエルは残念ながら参加していなかったけど、フレドリックもエリオットも参加してた。仲良し作戦、実行だ。


「んじゃ、早速行こうか」


「唐突だね。一体、どこに?」


「エリオット殿下のとこ」


 うわ、フレドリックの野郎、露骨に嫌な顔しやがった。


「でも、お前だってこのままじゃ、ダメだって思ってんだろ?」


「そうだけどね、あれだけ嫌がられたら、諦めもつくだろう?」


「それでもこのままじゃ、旗頭にされそうじゃないか? それに俺はミュリエルと仲良くしたいからな。俺の為に我慢してくれよ。友達だろ」


「そこで友達だろ、と言える君は馬鹿なのかい? でもまぁ、ミュリエル嬢が泣き暮らすのは可哀想だ。仕方ない、付き合ってあげるよ。貸しにしておくからね」


「おう、借りてやる。全部俺のせいにしていいぞ」


「だから、気軽にそういう事を言うんじゃないよ。いいように利用されるよ」


 呆れたように言うので、笑う。


「お前以外には言わないよ」


 まったく、なんて口説き文句だ、とか言われたけど、フレドリックは嬉しそうだった。



 ◇



 フレドリックを連れてくると、カトリーナが喜んだ。


「まぁ、フレドリック殿下、テオドール様、ようこそ。どうぞ、こちらへいらしてくださいな。今、皆様とお勉強会をしないかってお話ししてましたのよ」


 そうして嬉々として、話題を振ってくる。この場にいる全員に満遍なくだ。

 マジすげえ。

 たぶん、この娘はエリオットとフレドリックの対立で国が割れる事を危惧してたんだろう。いつもいつも、俺達に話しかけ、仲良くするよう、呼びかけていた。

 さすが、王太子の婚約者に選ばれただけのことはあるぜ。まだ子供なのに、国の事が考えられているなんて、やっぱすげぇな。

 それなのに、鬱陶しく思っていて悪かったな。これからは俺も協力して、仲良くするぜ。ちょっとずつでも。


 そうしてフレドリックと共にみんなの輪に無理矢理入り込んでいると、ルークに呆れられた。


「……まさか本当にするとはね」


「だって、その方がいいだろ。そっちにとっても」


 ルークが怪訝な表情をする。


「俺みたいな馬鹿がフレドリック殿下の鈴になる方が、他の誰かがなるより、お前らも把握しやすいだろ、って事」


「……なるほどね。どうしてゴルドバーグ卿がキミを注意しないのか、不思議だったんだけど、納得したよ。確かにキミのように裏表のない人間の方が、双方の橋渡しには丁度いいのかもしれないね」


 やはり、ルークは頭の回転が早いようだ。

 わかってもらえて、よかったと思う。



 ◇



 日を改めて、ライラック公爵の家で、部屋だけ男女に分かれてお勉強会になった。

 みんながそれぞれ勉強をしているなか、ルークが紙を睨んで唸ってたので、覗いてみる。

 ……日本語? 向きが逆だったり、横向きだったりするけど。


「ルーク、これって、何だ?」


「……古代語だ。杖とティアラに刻んであった文字だよ。まったく、店に行けないせいで、魔力残滓の研究ができないからね。せめてトレヴァーさんが言っていた古代語でも解明しようとしてるんだ。邪魔しないでもらおう」


 へぇ。この世界では日本語に似てる文字が古代語なんだ。面白いな。


「わかるのか?」


「解明中だ。似ているようで似ていないからな。ほら、この文字を見ろ。三つの線で記されているが、向きが違う。ひとつで意味がある文字だからな、向きによって意味も違うのだろう。ひとつひとつ調べないと」


 ……うん。どう見ても俺には「に」にしか見えないけど、向きが違うからな。でも、これは音を示す文字で、意味は助詞だと思うぞ。たぶん。


 俺が読む限りだと、ティアラが、


『我が愛しのセレンディアに、ゴルディアスより真実の愛を捧ぐ』


 だし、聖杖には、


『我が愛しのセレンディアに、グリフィールより真実の愛を捧ぐ』


 だとしか読めない。


 ちなみに、ルークは、ティアラの方を逆さまに見ていて、終わりの文字から読もうとしてるし、聖杖は縦書きを横に見ている状態だ。

 なので、共通の文字があっても、向きが違うから意味が違うと思っているようだった。

 教えた方がいいのかなぁ? でもほら、この世界では日本語に見える文字が逆さまに読むのが普通だったり、全然違う読み方だったりしたら、逆に混乱させてしまうだろうし。

 古代語の該当文字表みたいなのがあればいいのにな。


 なので、ちょっと写させて貰った。

 うう、文字が逆かさで書きにくい。横向きも書きにくくて、歪になった。

 でもって、クレヨンで文字に線を引く。最初と思われる文字を丸く囲んで、最後を三角、そしてアンダーラインだ。ティアラが黄色、聖杖が緑だ。

 そして一文字づつハサミで切り離す。


「一体、何をしてるんだ、キミは」


「まぁ、見てろって」


 そして、黄色線の文字と緑線の文字を、共通の文字で重ねてみる。

 線の向きは違うけど、同じように重なっただろ。


「これらって、同じ文字じゃね?」


 ゴルディアスとグリフィール以外は合うからな。

 ここから解明していく方が早いんじゃないか?

 そうやってみせると、ルークがわなわなと震えていた。


「上下左右の向きが、文章の最初と最後が違っていたのか……」


 おっ、やっぱ、理解が早いな、コイツ。


「どうしてキミはわかったんだ」


「形が似てるからな。同じかもって思った」


「何をしてるの、君達。さっきから面白そうな事をしてるよね」


 フレドリックが訊ねる。


「ええと、古代語の勉強?」


「へぇ……この文字、確か『セレンディア』だね。聖女の名前らしいよ」


 そう言って、文字を並べて行く。

 黄色の線が文字の上に、緑の線は文字の左になる。よかった、日本語と同じ並びだ。


「王家では大事にされている文字だ。ねえ、エリオット」


 フレドリックに名前を呼ばれたエリオットは、驚いた顔をしている。でも、すぐにいつもの不貞腐れた表情に戻ったのだが、珍しい事に、こっちへ来て、フレドリックの手元を覗き込んだ。


「確かに、そうですね、兄上。王家の系譜で見ました」


 ちょっといつもより饒舌だった。熱でもあるのか?

 いや、こいつもいつまでも子供みたいにしてたら駄目だと思ったのかもしれない。フレドリックに歩み寄って来たのはいい事だよ、うん。


「なるほど……聖女の……」


 じゃあ、考え込んでいるルークに、もうひとつヒントだ。

 持って来ていた聖女伝説の本を開く。

 ええと、確か……このページ。六騎神が聖女に愛を捧げるシーン。

 ここのセリフが、古代語で書かれていた文言と、大体一緒だった。


「これじゃないか? ほら、今でも結婚相手に愛の文字を刻んだ贈り物をするだろ? 六騎神の愛の告白なんじゃないか?」


 そう言うと、三人が固まった。エリオットとフレドリックは呆れてる? あれ?


「テオドール、君ってそういう事しか考えてないのかい。古代語だよ。そんな愛の言葉だなんてあるわけないじゃないか」


「貴様の脳内はいつも花畑か」


 二人とも、どういう意味だ、ゴルァ。


「まさか……知らせないと……!」


 ルークが慌てて部屋を飛び出して行く。

 ひょっとして、店に行く気なのか?

 今は行くなって言われてるだろ?

 父上の言い方は、危ないから行くなって意味に思ってたけど……


 追いかけよう。

 とりあえず、店に行くようなら止めて、落ち着かせないと。

 何かわかったのなら、父上達経由で伝えればいいんだから。


読んでくださってありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

評価ありがとうございます。

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