31 チャンスは逃さない
31 チャンスは逃さない
翌日、俺は王都散策をする事にした。
父上も母上も、二人揃って勧めたからだ。おそらく、気を遣ってくれているんだろう。
なので、その言葉に従った。二人を心配させるのも不本意だし、自分自身、気分転換が必要なのはわかっている。
諦めきれないけど、だからって事態が変わるわけじゃない。
何ができるか探さないと。
リチャードとケヴィンを連れ、王都観光へと繰り出した。何回かミュリエルと巡った事があるけど、そこ以外を巡ってみようと思う。
「そういや、魔導具ってさ、家電……じゃねーや、家庭魔導具以外にもあるのか? どこかで売ってる?」
そもそも魔導具って、何なんだろうな。家電製品もあれば、聖女の装飾品のようなゲームっぽい伝説級のアイテムもある。定義の幅が広すぎるように思うんだけど、どういう区分けがされているんだろう。
なんか、曖昧過ぎる気がする。
それに、宮廷魔法省と魔導具研究所も曖昧だ。
魔導具研究所はその名の通り、魔導具の研究を行い、世の中に役立つ魔導具の開発をしている部署だ。
対して、宮廷魔法省は魔法を使える魔術師を管理する部署だ。以前、俺やケヴィンの傷を治してくれた治療師もここに属する。
なのに、聖女の装飾品を研究もしているのは何故なんだろうか。
本には一般論しか書いていないし、家庭教師に聞いても、それ以上のことはわからない。
そりゃそうか。一方は有名家電会社の研究所で、もう一方は魔法の扱いを司る省庁だ。企業秘密をそう簡単に話せるわけがない。
就職してからでしかわからない事の方が多いのかもしれない。
じゃあ、今の時点で、あーだこーだ考えるのは不毛だな。材料がなさ過ぎる。
そう考えると、ミュリエルのお兄さんは優秀だな。いわゆる官僚に就職内定って事だろ。
その省庁が父上を目の敵にしてて、そこに父上の親類ですと入ったら……仕事にならないだろうな。全員に睨まれて仕事なんて無理だろう。下手したら仕事を回してもらえず、ずっと閑職のまま飼い殺しにされるかもしれない。
ミュリエルのお父上が断るわけだ。
もし、宮廷魔法省に恩が売れるような事があれば、ミュリエルと一緒に遊べるくらいはさせてもらえるかな。
……難しいな。事態が大きすぎて、解決策すらわからない。
「魔導具に興味があるんですか? なら、量販店に行ってみましょうか。それとも家庭魔導具以外を見るのであれば、専門店の方がよろしいですか?」
リチャードが先導する。もうすでに、王都の地理を把握しているようだ。本当、頼りになったよな。俺より努力してたもん。俺も負けてらんねー。
「そうだな。専門店の方が良いかもしれない。そもそも魔導具がどういうものか知りたいしな」
「あそこは面白いですよ。見てるだけで楽しいです。原理はわかりませんが、魔導回路の基盤とか置いてありますしね」
嬉しそうにケヴィンがついてくる。
んー、パソコンの基盤やパーツなんか売ってるジャンクショップぽいのかな?
連れられて行ってみると、まさしくそんな感じの店が並んでいた。
棚に陳列されているのは、何かの部品と思われる品々。
客もマニアックそうな雰囲気の兄ちゃん達が多い。
時々、訳のわからない専門用語のような言葉が飛び交っていた。
おおう、アキバか。これが噂に聞くアキバなのか。行った事無かったけど、異世界でアキバに似た場所に来れるなんて思わなかったなぁ。
ケヴィンの言った通り、見てるだけでテンションが上がる。
「これは……。テオドール様、申し訳ありません。何処で聞けばいいのか……」
そうだよな。本当、誰に聞けばいいんだろう。素人すぎて、何をどう聞けばいいのかもわからない。
量販店で聞いてから、目的を絞って行った方が良かったかも。
あたりを見回すと、従者を二人連れている見覚えのある姿を見つけた。
「あれは……」
間違いない。迷わず、そいつ目指して歩いた。
普段なら絶対に近づかないヤツだけど、今は別だ。
そいつは慣れた様子で店を回っている。どんな手段を使ってでも巻き込もう。
「これはこれは、ルーク殿。このような所でお買い物ですか。よろしかったら、私もご一緒させて頂けませんか」
そう言って、握手する。無理矢理だ。
「キミか……離していただこう」
俺の手を振り払ったのは、緑髪の少年、ルーク・グリーンウェル伯爵子息だった。
「おや、つれないですね。このような場所で会ったのも何かの縁です。ご一緒しましょう。というか、なにぶん、この場所ははじめてでして、困っていたのです。助けて頂けると有り難い」
「キミは……いつも思うんだけどね。もう少し本心を隠す事を覚えたらどうなんだい? ボクみたいな下位の者からの忠告なんて聞かないだろうけど」
呆れたように言うルーク。うおお、コイツいいヤツだった。
伯爵子息だから、侯爵子息である俺に遠慮してたのか。
嫌味ばかり言うから、嫌われていると思っていたよ。
「ありがとう。でも、どうすればいいのかわからないので、教えてください」
頭を下げる。
なんか呻き声が聞こえた。
「とりあえず、場所を変えませんか」
ルークの従者が提案する。それに従って、俺達は近くの食堂へ入った。
◇
「まずは、言葉を普通に、庶民のように喋ってほしい。まぁ、何も知らないキミには無理かもしれないけど」
席に着いて、すぐにルークが告げた。
「ああ、わかった」
すぐに返事をすると、ルークは嫌そうな顔をしている。
「でさ、ルーク。こんな所で何してたんだ? 俺達はさ、魔導具について教えてくれそうな人を探してたんだけど、ルークが教えてくれると嬉しい」
「……キミさ、何でそんなすぐに馴染んでるの。と言うか、どうしてボクが教えてなきゃならないんだ」
「え? いいじゃん、友達だろ。教えてくれよ」
「いつから友達になったんだよ」
「さっき。俺にわざわざ忠告してくれたろ。いいヤツだな、お前。ありがとな」
「ダメだ、話が通じない」
ルークが頭を抱える。
失礼なヤツだな。
俺はただ、このチャンスを逃したくないだけだ。
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