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28 とある少女の呟き

気分が悪くなる可能性があります。

気をつけて読んでください。

28 とある少女の呟き


「ゴメンなさい。その、手紙くれたのは嬉しいんだけど、友達だと思っていたから……付き合うってのはちょっと……」


 なんか手紙くれたヤツが見たくて呼び出してみたけど、可もなく不可もなくってカンジのヤツだった。うん、不可。

 字が汚くて大半が読めなかったし、クラスも名前も擦れてて、読みにくかったっつーの。

 適当にクラスあたって、「ナントカい、ってヤツ呼び出して」って、女子に頼んだら、コイツが呼び出されたから、まぁ多分、間違いないだろう。黒板の日直にも名前があったし。

 まぁ、可愛く断ればいっか。ちょっとモジモジしてやろう。


「そういう訳だからゴメンね! 御手洗(みたらい)!」


 と、言い捨てて走り去った。

 何か喚いていたけど、知らないわよ。多分、断られるなんて思ってなかったようね。自分の顔見ろってーの。まぁ、あたしが可愛いから仕方ないケド。


「マキにも教えてあげよ」


 ラインで伝えるケド、一向に既読がつかない。ちょっと、何モタモタしてんのよ。電話しよっと。……って、何、すぐ切ってんのよ。ふざけんじゃないわよ。

 何回か掛け直して、ようやく繋がった。


「ちょっと、マキ、あんた何無視してんのよ!」


『……悪いんだけどさ、あたし、あんたともう付き合わないから』


「はぁ!? 何言ってんのよ! 冗談はやめなさいよね」


『……あんた、つくねっちさん怒らせたでしょ。つくねっちさんトコの姫の悪口、カキコミしまくってさ。お陰であたしらも同類認定されかかったわ。いい加減にしてよね。もうコスイベもダンパもあんたの事、要注意人物として上げたらしいから。あんたと一緒にいたら、みんなに避けられるのよ。イベ参加しても全然交流できないの。もう二度と、掛けて来ないで』


「ちょっ、何それ、どういう……」


 切れた。

 どういうことよ、どういうことよ、どういうことなのよ!

 姫って、あの、トロい子の事!? 『聖六』でヒロインしてて、六騎神全員に隠れキャラのフレドリックとデュークまで侍らせてた子。おまけにカトリーナもライバル令嬢までも揃ってた。全員揃ってるグループなんてはじめて見たから、あたしの仲間に入れてあげようって思ったのに。

 なのに、連絡先渡しても全然連絡もくれないし、日取り決めても、来たのはあの子一人だけで、他の連中を呼ばないし。呼び出せって言ったら、他の子達は用事があるの一点張りで。みんなで(・・・・)決めたっていうのに、何一つ約束も守れない我儘な子の事、カキコミして何が悪いのよ。全部本当のことじゃない。

 ああ、もう、ムカつく。

 こうなったら、カラオケにでも行って憂さ晴らしを……、って、悲鳴?


 車が交差点に突っ込んできて、そこにいた人達を跳ねた。さらに玉突き事故があって、トラックが目の前に――



 ◇



 何処なの、ここは。寒いし、お腹は空くし。ああ、もう赤ん坊の声、うるさい。

 いい加減にしなさいよね。


 転生してたって事がわかったのは、しばらく経ってからだった。

 何よ、白い部屋で事情説明ナシってありえないわよ。この世界の神って、非常識なの!?



 ◇



「あー、アイリーン、また掃除サボってる。院長先生に言うぞー」


「うっさいわね。良いのよ、あたしは。あたしは王子様と結婚して、王妃になるの。あんた達とは違うんだから」


 そう、違う。なんたってあたしはアイリーンだ。『聖女伝説~六騎神の末裔~』のヒロイン、アイリーンなのよ。ピンクブロンドに、愛らしい、可愛らしい顔。誰もがあたしを好きになって愛してくれるの。小汚いあんた達なんかに構ってられないってーの。

 ああ、もう、何でスキップ機能がないのかしら。神様、ちゃんと仕事してるの?


「割り当てられた掃除くらいしなさいよ。もう五歳になるのよ。いい加減、変な夢なんか見てないで、掃除くらい手伝って」


 一番歳上の女が睨みつけてくる。いっつも偉そうに命令ばかりして、嫌なヤツ。なのに、なんでみんなそんなヤツを慕ってるのか、わけがわかんないわ。


「リアねーちゃん、ほっとけよ、そんなヤツ。早くしねーと、院長先生が帰ってくるぞ。今日は王宮で王子様の誕生日会があるんだろ? きっと土産に美味いモン貰ってくるハズだから、さっさと片付けようぜ」


 何ですって!?

 王子……エリオットの誕生会なら、行かないと。

 こんな孤児院にいる場合じゃなかったわ!


「ちょっと、アイリーン! 何処に行くの! アイリーン!」



 ◇



 植樹林公園から、抜け道を通って行くと、『薔薇の迷路』にたどり着いた。

 ふふっ、誰がいるのかしら。楽しみだわ。


 広場を覗くと、テーブルで食事をしてる子供がいた。あの黄色はテオドールね。

 なんだ、テオドールか。仕方ないわね。さっさとチュートリアルを終わらせてしまおう。

 なのに、このあたしがココにいるのに、テオドールは黄色娘の手を取って、デートに行こうとしてる。

 何てことしてくれるの、あのトロ女。今時ドジッ子なんて設定なんかつけられて、いっつもいっつもテオドールの周りをウロチョロして、アイリーン(ヒロイン)にも簡単に負ける噛ませ犬のくせに。

 あたしを差し置いて、テオドールとデートなんて許せない!

 待ってて、テオドール。あたしが助けてあげる。



 ◇



 何なのよ、何なのよ、何なのよ!

 何で追いかけられるのよ! シナリオ通りにしたのに、何で!


 テオドールは何故かあたしを睨むし……何言っても優しく受け止めるのが、テオドールでしょ。トロ女なんか庇って怪我なんかして……ま、まぁ、テオドールは優しいもの。あのトロ女にも優しいのは当たり前だったわ。あのトロ女がわざと噴水に吹っ飛んだのが悪いのよ。そうよ、テオドールの気を引こうとして、怪我させたんだわ。そうやって、あたしを占わせないようにしたのね。許せない。

 フレドリックだって、そう。フレドリックの気も引こうとしたのよ、きっと。あたしが話しかけようとしたから。なんて女なの、あの子。


 でも、今日はもうダメね。人がたくさん走り回ってる。茂みの中まで捜してるわ。見つかる前に帰らないと。


「おい、貴様」


 不意に声をかけられて振り返ると、そこには王子様がいた。

 紛れも無い王子様。エリオットだ。


「貴様が不審者か。よくも僕の誕生会を台無しにしてくれたな。せっかく兄上が来て下さったというのに、邪魔するな。――だが、あの無礼者に一撃喰らわせた事は評価してやる」


 思わず、抱きついた。


「ぶ、無礼も――」


「『叶うよ。君の願いは、きっと叶う。お兄さんときっと仲良くなれるから。応援してるわ』」


「王太子殿下!」


 兵士の声が聞こえたので、言い捨てて、すぐに茂みに飛び込んだ。そのまま通路を通り抜けて、植樹林公園を抜け、孤児院に戻り、部屋に篭った。


 やった! やったわ!

 これでエリオットルート確定よ! ちゃんとセリフ通り言えたもの。

 きっと、テオドールが導いてくれたのね。エリオットだって。


「アイリーン? 帰って来ているのですか?」


 院長先生が扉をノックして入ってきた。


「帰って来ていたのなら、ちゃんと報告しなさい。何処に行っていたのです? みんな心配していましたよ」


 嘘。そんな事は絶対にない。掃除をサボったって告げ口したいだけに決まってるわ。


「まったく、あなたはどうしていつもそうなのですか。それではお友達もできませんよ」


 構わないわ。だって、みんなただのモブじゃない。


「とにかく、院長室へ来なさい。あなたにお客様です」


「お客様?」


「ええ、プラム男爵ご夫妻です。失礼のないように」


 来た!

 アイリーン・プラム男爵令嬢。これがヒロインのデフォルト名。


 そうよ、あたしがヒロインなの。悪役令嬢も、ライバル令嬢も、モブもあたしにかなわないのよ。ヒロインなんだから。運命(シナリオ)は決まっているんだもの。


 ヒロインは、あたしよ!


読んでくださってありがとうございます。


ブクマありがとうございます。


あらすじを少し変更しました。

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