19 コマンドは休業中
19 コマンドは休業中
子供達は隣の続き部屋の会場に集められていた。
大扉は解放されており、大人達がいる会場から子供会場を窺うことができるようになっている。
要所要所には、衛兵が威圧しないようさりげなく警備しており、給仕している者達も、子供達に目を配っていた。
子供会場にはサンドイッチとか唐揚げとかマカロンとか、子供達が食べやすく、手に取りやすい料理やお菓子、ジュースなどが低いテーブルに揃えられており、各テーブルに給仕の者が三人ずつ配置されていた。ちゃんと立食できるようになっている。壁際にはソファが並べられており、大人しく座って食べている子供達もいた。
俺は父上と別れて、窓の近く、庭園が見える隅っこのテーブルに陣取って、片っ端から食べた。うん、美味い。
若干、周りが引いているように見えるが、先にこの空腹をなんとかしなければ。
仕事はそれからだ。
「テオドール様、私が給仕致しますので、欲しいものを仰ってください」
リチャードが側に寄ってきて、囁いた。
「あれ? こっちに来ていいのか?」
「はい。ご挨拶が終わられた方々には、すでに皆様、従者が付いております」
なるほど。リチャード達従者は最初からここで待機させられて、主人が来たら給仕の手伝いをする手筈だったのか。
「お前は食べたか? 美味いぞ。ちゃんと食べておけよ」
「いえ、私共は別室にて、すでに済ませております。お気遣いなく」
あー、主人と同じ様に食べられないのか。可哀想に。
美味いものが並んでいるのに食べられないなんて、拷問じゃないか。
「大変だな。何か欲しかったら、俺に言えよ? 隠れて食べればいいから」
「お気遣いありがとうございます。ですが、テオドール様ほどではありません」
どういう意味だ?
「先ほどのご挨拶にて、王太子殿下の側近に目をつけられたようです」
……マジか。
「あちらに」
と、リチャードがそっと目線で指し示した方角を見ると、部屋の奥、一段高く設えられたテーブルに、王太子と、そして公爵令嬢の一団がいた。
白金髪は王太子。他に、赤髪、青髪、緑髪、黒髪の少年達。
紫銀髪が公爵令嬢で、赤髪、青髪、緑髪、黒髪、金髪の少女達。
全員で十一人が集っていた。
つまりは、あの集団が次代の幹部候補生になるのだろう。
……なんか、戦隊モノと美少女戦士モノみたいなカラーリングだ。
きっと公爵令嬢は、最初悪者の仲間だったけど、正義に目覚めて美少女戦士の仲間になったに違いない。
うん、アレは日曜の朝に甥っ子と見ていて妙に感動した。子供向け番組は侮れない。
戦隊モノに黄色がいないのと、どちらもピンクがいないのが、ある意味惜しかった。
その戦隊モノ達が妙に俺を睨んでいた。中には侮蔑が混じっている。
うわー。友達作りに支障が出ちまったよ。父上は褒めてくれたけど、子供社会ではキツイな、コレ。
「いかが致しましょう?」
「いいよ、ほっとけ」
「テオドール様?」
あの程度で部下の能力を判断するような上司はゴメンだ。今さらゴマをすったって、いいように使われるのがオチだ。歳を取ればもう少し駆け引きぐらいできるようになるだろう。それまで近づかない方がいい。
「今日は何したって気に障るだろうからな。こっちは気づいてませんって事にしておく方がいいだろう。下手に挽回しようとしたら、ますます馬鹿にされるだろうしな。次に会った時になんとかするさ」
「はい、ではそのように。ですが、ライラック公爵令嬢がこちらを見続けていらっしゃるのですが……」
あ、ホントだ。見ないで欲しい。
でも公爵令嬢は見ている。
見続けている。
ドリル は じっと みつめている。
ドリル は なかまに いれたいようだ。
なかまに はいりますか?
はい
▶︎いいえ
コマンド選択しても、公爵令嬢は見ている。
何、何なの!?
ドリル は じっと みつめている。
ドリル は なかまに いれたいようだ。
なかまに はいりますか?
はい
▶︎いいえ
公爵令嬢は見ている。
黄色がいないからって、俺をターゲットにしないで欲しい。
金髪なら、そこかしこに、たくさんいるだろう!
ドリル は じっと みつめている。
ドリル は なかまに いれたいようだ。
なかまに はいりますか?
はい
▶︎いいえ
公爵令嬢は見ている。
ちょっと、コマンド壊れてるよ! ちゃんと『いいえ』を選択してるのに!
早くドリルから逃げないと。
あの集団に放り込まれるのは嫌だ。
周囲を見回すと、一人ぽつんと壁際に目立たないように立っている少年がいた。侍従もいないのか、自分で料理をそっと取ってもそもそ食べている。
よし、ボッチか。ボッチだな。
俺はどちらか選べと言われたら、ボッチを選んでやる!
「えっと、隣、いいですか?」
尋ねて、隣に陣取る。仲良いフリして、あいつらの視線を掻い潜ってやる! 特にドリルは見るな! 見るんじゃねー!
「テオドール様、この方は……」
うるさいな、リチャード。今はドリルから逃げるのが先だ。後にしてくれ。
料理を食べながら、「コレ美味しいですねー」なんて言っていると、少年――と言っても、俺よりひとつふたつ年上みたいだが――が、何かに気づいたようだった。
「君、ゴルドバーグ卿のご子息だったね。話しかけてくれてありがたいんだけど、僕とお話ししない方がいいと思うよ? きっと、君が困るから」
「へ? なんで?」
「ああ、君はこういう席は初めてだったね。改めて――僕は、フレドリック・セレンディアス。王太子エリオット・セレンディアスの異母兄だよ。まだ君は小さいから、わからないかも知れないけれど、僕と一緒にいるとエリオットに睨まれちゃうよ。君のお父上にもご迷惑がかかるかもしれない。だからね、もうしばらくしたら興味ないってフリして離れた方がいいよ」
ボッチは、避雷針どころか、地雷でした。
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ブクマありがとうございます。




