18 王太子は性悪
18 王太子は性悪
王様に挨拶する列に並んでしばらくすると、ようやく順番が来た。
父上と並んで進み、王様と王妃様の前で礼を取る。
「陛下、妃殿下、この度はエリオット王太子殿下の五歳のお誕生日おめでとうございます。並びに、カトリーナ・ライラック公爵令嬢とのご婚約も合わせてお祝い申し上げます」
まずは父上が口上を述べた。
王様が鷹揚に頷く。
「うむ、そなたも健勝のようだ。奥方が来られぬのは残念だったな。おかげでそなたの第二夫人の座を狙うご婦人方が色めき立っておるわ」
何、ぬかしてんだ、この王様。
第二夫人なんて俺も父上も許すわけないだろ。
「まぁ、陛下。ゴルドバーグ卿は愛妻家で有名でございますわ。セリーナ様はお幸せでございますわね。ですが、もう少し他の方々にもその微笑みを向けてはいかがかしら。それだけで皆様お喜びになられるというのに」
はっはっは。ふざけんな、王妃。
母上がいないからって、好き勝手言うんじゃねー。
「お戯れを。妻、セリーナはまだ幼い娘から離れがたく、此度のおめでたい席に参る事ができなかった事を心苦しく思っております。両陛下に於かれましては、妻より、不作法、不調法をお許し頂けるよう、言伝かっております。私からもお詫び致しますれば、両陛下のご温情を賜りたく存じます」
「よい、幼子がいるのであれば仕方のない事であろう。奥方にも気にやまないよう、伝えるがよい」
「ご厚情、ありがとうございます。妻にも陛下のお言葉をきちんとお伝え致しましょう」
さすが父上。サラリと躱したよ。
見習わないとな。
「ところで、そろそろ、そなたの息子を紹介してもらいたいのだがな?」
「それは失礼致しました、私の息子、テオドールにございます」
一歩前に出て、教わった通り、膝を折って挨拶した。
「オーウェン・ゴルドバーグが一子、テオドールにございます。国王陛下並びに妃殿下に拝謁賜り、恐悦至極に存じます。また、エリオット王太子殿下のお誕生日、おめでとうございます。並びに、カトリーナ・ライラック公爵令嬢とのご婚約も合わせてお祝い申し上げます」
父上を真似た。違う言い方なんか思いつかねえ。
「これはこれは……利発そうで何よりだ。ゴルドバーグ卿、よい息子を持たれたようだな」
「本当に。この御歳でご立派ですわね」
「はい、私の宝にございます」
父上、きっぱり言い切っちゃったよ!?
王様も王妃様も絶句してるよ!?
「ほう、そうか。ゴルドバーグ卿はよい跡継ぎに恵まれたようだな。親子揃って我が国を支えてもらいたい」
「はっ!」
「はいっ!」
王様と王妃様の会話はこれで終了のようだ。
あー、緊張した。
でも、次に王太子、公爵令嬢と続く。
早く終わりたい。
「エリオット王太子殿下、初めてお目にかかります、オーウェン・ゴルドバーグでございます。侯爵の位を賜っております。エリオット王太子殿下に於かれましては、五歳のお誕生日おめでとうございます。並びに、カトリーナ・公爵令嬢とのご婚約、合わせてお祝い申し上げます。こちらにおりますは、息子のテオドールにございます。殿下と同じ五歳になります。これから先、お会いする機会もございましょう。その時は宜しくお願い申し上げます」
「エリオット王太子殿下、初めてお目にかかります。オーウェン・ゴルドバーグが一子、テオドールと申します。エリオット王太子殿下に於かれましては、五歳のお誕生日おめでとうございます。並びに、カトリーナ・ライラック公爵令嬢とのご婚約、合わせてお祝い申し上げます。宜しくお願い申し上げます」
父上と俺が口上を述べると、王太子も王様と同じ様に鷹揚に頷いて応えた。
「うむ。私がエリオット・セレンディアスだ。よろしく頼む。ゴルドバーグ卿並びに、ご子息に於かれては、私の生誕及び、カトリーナ嬢との婚約をお祝いくださり感謝する。今日は祝いの席ゆえ、ご馳走を用意してある。ぜひ堪能していってもらいたい」
「お心遣い、有り難く頂戴致します」
「お心遣い、有り難く頂戴致します」
くすりと、王子が笑う。何だ?
「そなたは真似ばかりだな」
仕方ないじゃん。他の言い方知らないんだし。
「はい、まだ不勉強なもので。これから精進致しますのでお許しください」
答えると、変な顔された。あれ?
王様は笑ってるし、王妃様はちょっと不機嫌だ。
王子は顔を赤くしてる。怒ってるのか?
令嬢も顔を横に向け、口元を扇で隠して肩を震わせている。
なんなの?
「カトリーナ・ライラック公爵令嬢、この度はご婚約、おめでとうございます。お祝い申し上げます。オーウェン・ゴルドバーグにございます。こちらは息子のテオドールです」
父上がさっさと令嬢への挨拶に進んだ。さっきのは華麗にスルーだ。なんだろう、なんか怒らせたみたいだけど、放っておいていいの?
「オーウェン・ゴルドバーグが一子、テオドールにございます。この度はご婚約おめでとうございます、カトリーナ・ライラック公爵令嬢。お祝い申し上げます」
とりあえず、父上に続いて挨拶してみた。
確かに令嬢は可愛い顔していた。でも、キツそうな感じで、あんまり好みじゃないな。
「お祝い頂き、ありがとうございます。ゴルドバーグ卿、テオドール様。どうか楽しんでいらしてくださいませ」
「ありがとうございます」
「あ――」
「ところで、テオドール様」
礼を言おうとしたら、遮られた。
「なんでしょうか、ライラック嬢」
「先ほど、私をジッと見つめていらした理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
なんか、火に油を注いでない、この令嬢?
隣で怒り狂っている人がいるんですけど……。
「理由ですか? カッコいい髪型だと思って見ていました。その鋭い髪型って、剣に見えてカッコいいですよね」
あっけらかんと答えると、あからさまに令嬢は落胆し、「信じられない」と何度も呟いていた。
王子は何故か勝ち誇ってるみたいだ。
王様と王妃様は呆れてる?
ともかく、アホの子認定されたようだ。
御前を離れた後、父上がポツリと言った。
「テオドール、君って本当にわかっててやっているのかい?」
何が?
◇
父上の説明によると、王子は挨拶に来た子達に意地悪をしていたらしい。
子供が親の真似して挨拶するのは当たり前だけど、それを指摘して、困る顔を見て喜んでいたようだ。
並んでいる時に聞いていただろう、って言われたけど、腹が減りすぎて覚えていない。
それで、俺が普通に『不勉強で――』って返したのが気に入らなかったらしい。
なんじゃ、そら。
でもって、令嬢が俺に気があるそぶりを見せたもんだから、さらに気にくわない。
だけど、子供じみたアホな答えだったから、取るに足らない者だと判断されたらしい。
うーむ。
貴族って、めんどくせえ。
「父上、お――私は失敗してしまったのでしょうか?」
だったら、嫌だな。俺はともかく、父上が侮られるのは嫌だ。
取り返すのにどれだけかかるのだろう。
「いいや、何も失敗していないよ。それどころか、上出来だ。よくやったね」
「本当に?」
「本当だとも。私の自慢の息子だ」
そう言って、父上は俺の頭を撫でてくれた。
その後、ライラック公爵夫妻にも令嬢の婚約のお祝いを告げて、俺はようやくご飯にありつけたのだった。
……マジ、長かった。
読んでくださってありがとうございます。
ブクマありがとうございます。




