17 ドリルは標準装備
17 ドリルは標準装備
王宮は煌びやかで、目が眩みそうだった。
豪華シャンデリアに、壁に掛かっている絵画、精緻な紋様、ステンドグラス、各所に置かれている装飾品の数々。美術品だろうと思われる壺には色取り取りの花々が飾られ、会場を彩っている。
豪華絢爛、ってこういうのを言うんだろうなぁ。
はぁー、なんか場違い感がある。
いや、俺だってちゃんと正装してるよ? 鏡見た時は、マジで貴族のご子息でカッコよかったんだ。でもな、心の中の庶民感が恐れ慄いている。小市民な庶民にこんな場は臆するんだよ。仕方ないだろ。
そんな場でも父上は堂々たる姿だった。入場して視線を浴びても全然動じない。父上にとってそれは普通なんだろうけど、俺は初めてだからビビリまくりだ。
父上は結婚していても人気があるらしい。会場に入った瞬間、黄色い声があがったもんな。
でも父上は微笑みを湛えたまま、華麗にスルーしていた。
時折、声を掛けようとするご婦人もいるけど、微笑みで躱す。マジすげー。
今回父上は、母上がウェンディと一緒にお留守番で不参加だから、パートナーなしでの参加になる。そこを狙っているご婦人どももいるようだが、笑顔で近寄るなという圧力を掛けていた。
父上の技術、パねぇ。俺も身につけたい。
侯爵である父上に挨拶する人達が群がり、その度に父上は笑顔で対処し、俺の紹介もしてくれた。
跡取りがどの様な者か値踏みされた感があるが、仕方ない事として割り切った。ともかく、礼儀正しく無難に勤められたと思う。
そうこうしているうちに、公爵が現れ、時間を置かずに、王族の入場となった。
所定の位置で頭を下げ、王様から頭を上げるよう告げられる。
王様は若かった。少なくとも“王様”という言葉だけでイメージしてた白ヒゲのおじいちゃんではなく、父上より少し年上、三十歳前後の優男だ。ただ、父上が誰に対しても柔らかで穏やかな爽やかイケメンなのに対し、王様は怜悧で鋭利な印象が強いイケメンだ。しかも、威厳っていうの? そういう威圧もみたいなものも感じる。
王様が、王太子の五歳のお披露目に来てくれたことを労い、また、これからの忠節を求め、王太子にも同様の忠節を求め、そして、公爵令嬢との婚約を公式に発表した。
はっきり言って長い。
もうね、そこらのお子様達が飽きて騒ついているんだから短くできないもんかね。
王太子の世代を担う者達のお披露目も兼ねているんだろうけど、お子様には長話は厳しいんだよ?
俺? いや、ちゃんとじっとして大人しく聞いている振りはしてるよ。
だって、俺が粗相したら、父上の面目が立たないもの。
でも、年長組はさすがだね。そういう事がわかっているのだろう、微動だにしない。コツがあったら教えて欲しいもんだ。
そうして、王太子の挨拶があった。
王様と同じ白金の髪にアイスブルーの瞳。怜悧というか、冷たい印象が王様に似ている。気位が高そうで、俺とは相性が悪そうだ。あんまり近づきたくないな。
でも、相性が悪いからって仲良くしないわけにはいかない。適度な距離で付き合っていこう。
次は公爵令嬢だ。彼女も俺や王太子と同じく五歳らしい。
紫がかった銀髪は見事な縦ロールだった。顔の両脇に搭載されていて、武器としても使用できると思うくらい、鋭い縦ロールだ。かっけー。
ぜひ、白目で『◯◯、恐ろしい子……!』とか言って欲しい。
いやあ、あの演劇マンガは母さんが持ってた中で最高の少女マンガだった。滅多に少女マンガなんて読まないけど、アレは別格だよな。完結まで読めなかったのは残念だったけど、あのライバルがナマで見られたのはよかったかもしれない。
立派な縦ロールに感心していると、いつの間にか挨拶が終わっていた。
おおう、話を全く聞いてなかったぜ。まぁいいか。これからようやく並んでいる食事に手を出す事ができる。
美味しかったら、ウチでも作ってもらおう。
◇
「テオドールはライラック公爵令嬢をずっと見ていたけれど、彼女のような娘が好みなのかい? 彼女、可愛かったものね」
父上が尋ねたので、俺は首を振った。
「可愛かったんですか? 見事な縦ロールが搭載されていたから武器になるんじゃないかと思って見ていたので、顔までは見ていませんでした」
「あー、そうなんだ」
呆れられたみたいだ。いいじゃん。あーいうのはウチでも見た事ないんだから。
「でも、ウェンディにも母上にも似合わないんですよね。カッコいいのに」
「うん、セリーナやウェンディに勧めるのはやめようね。お願いだから」
お願いされてしまったので、諦めるしかない。
まぁ、冷静に考えて、俺も身内に縦ロールがいるのは嫌だな。
「じゃあ、行こうか」
「へ? どこへ? ご飯じゃないの?」
「国王陛下にご挨拶してからだよ。あと、王太子にもお誕生日とご婚約のお祝いを伝えないと。ご飯はそれからだね」
うぇえー。
「それに、君もお友達を作らないとね。これが今日の君のお仕事だよ。わかってたよね」
父上が苦笑する。
確かにこういう社交界で人脈を作るのは基本だって教えてもらったけど、先に腹ごしらえしたかった。
父上に背中を叩かれ、俺は渋々戦場に向かった。
読んでくださってありがとうございます。
ブクマありがとうございます。




