16 父上は偉大
16 父上は偉大
はるばる来たぜ、王都ー!
ゴルドバーグ領から東に向かった先に、セレンディアス王国の王都、セレンディアがある。
いやもう、一週間も馬車で移動するなんてびっくりだ。
道路はきちんと整備されていたし、途中の宿場町も栄えていて、宿も綺麗で過ごしやすかった。なので、この旅については大満足です。
ただ、魔導車とか、魔導列車とか、飛行船とかあるかもなんて思っていたから、乗れなかったのは残念だ。聞いてみると、侯爵ごときが使える代物じゃない事が判明した。
あるにはあるが、とてつもなく大きな魔晶石が必要になるため、王家しか所有していないらしい。
一度は乗ってみたいけれど、無理だろうな。王族専用機に一貴族が乗ってみたいなんて理由で乗せてはもらえないだろうし。
馬車で王都の目抜き通りを抜けると、広場があった。広場の一角には高台があって、そこに噴水が設置されていた。噴水の周囲には露店が並んでいる。なるほど、馬車の通り道と歩行者天国を、階段で分けてるのか。
「『恋人達の泉』という場所らしいですよ。この場所で告白すると、恋が成就するらしいです」
リチャードが、王都名所案内書を見ながら解説してくれた。
「へー」
俺は窓の外から目を離さず、気の無い返事をした。
リチャードが俺の気を引こうと、いろいろ話しかけてくるが、無視だ。
なにせ、喧嘩中である。どれだけおだてても、許さないんだからな。
「テオドール、君が何を思っているのか知らないけれど、そろそろ、いい加減にしたらどうだい?」
一緒に乗っている父上が取り成そうとしているけど、父上が言っても駄目なものはダメなんです。
「テオドール様、あの……」
ギロリと睨むと、リチャードは押し黙った。
「テオドール?」
父上が静かに詰問する。
はぁー、子供じみた理由だってのは自分でもわかっているんだよ。それでも、どうしても、許せない事ってあるだろ?
「リチャードが、ウェンディに会わせてくれなかったからです。俺は毎日会いたかったのに、会いに行こうとすると、邪魔するんです!」
一週間は我慢した。
俺にしてはものすごく我慢したんだ。
けど、予定が最優先で、予定にない行動はできないってどういう事だよ! 自由時間すら、縛られるってなんなの!?
抗議したら、今までのように我儘は許されません、って、俺はそんなに我儘は言ってない! 言ってないはずだ。……言ってないよね?
ともかく、行き過ぎたスケジュール管理には断固抗議だ。
そりゃ、スケジュール管理は重要だよ?
相手がいる場合は特に時間管理は必要だ。だけど二十四時間、おはようからおやすみまで全部決められるのは嫌だ。
だいたい、その日によって、夕食や風呂の時間なんてズレるだろ。そりゃ、一時間もズレたら、問題だろうけど、ほんの十分ぐらいズレたって、別にいいじゃないか。その分、ご飯が美味しくなったりするんだぞ!?
なのに決められた時間にできてないからって、料理長やメイドさん達に文句言うなんて、何考えてんの?
後で俺が謝ったりしたけど、毎回だよ!?
マーサも注意してくれるけど、あんまり理解してないようで、逆に頼まれちゃったんだよ?
だから、注意してみるんだけど、俺が言うと萎縮し過ぎて過剰に反応するため、強く言えなかった。
セバスに相談したら、注意しておくって言ったので任せたら、何故か酷くなっていた。
なんでだ。
どうも、丁度いい塩梅がわからないみたいだ。適当に臨機応変にして欲しいのに。やる気があって一生懸命なんだけど空回りし過ぎてる。
なので、最終手段としてケヴィンに相談したら、喧嘩してみれば、というアドバイスだったので、旅の前に怒鳴ってから継続中です。
なんか、これが一番効いているみたいだ。
おかげで俺の機嫌を取ろうと頑張っている。
等々、ケヴィンのアドバイスは言わずに、全部父上にぶちまけるという程で、リチャードにバラしてみた。
そろそろ怒っている理由くらいは告げておかないと。
思い詰めたら何するかわかんないんだよな、コイツ。
「リチャード、君が一生懸命頑張っているのは、テオドールもわかっているんだよ。だけどね、余裕のない予定管理は逆に物事に対処しにくい状況を作るんだ」
父上が、リチャードに説明する。
「この旅程だってそうだろう? 途中で商家の馬車が荷崩れを起こして道が塞がっていたりしたよね? あれでずいぶん時間が取られてしまったけれど、ちゃんと間に合うように到着したね。余裕を持った予定を組んでいたおかげだよね。もし、君が決めるような旅程だったら、間に合わなかったかもしれない。急ごうとして、馬に無理をさせて、馬が怪我をしたら、逆に遅れていたかもしれない」
リチャードの瞳に理解が及んでいく。
あー、父上にはやっぱり敵わねー。
「もう少し、自分の心に余裕を持つようにね。テオドールとよく話しをして、予定を決めたらいいよ。テオドールの予定だからね。君一人で決めなくていいんだよ。責任は全部テオドールに押し付けていいから」
「父上! 何を言うんですか!」
冗談を言わないで欲しい。
「だって、テオドールの従者だよ。君が責任取らないと。君なら取れるって思っているのは、父の贔屓目かな?」
茶目っ気たっぷりに、父上が微笑む。
あー、もう、そこまで言われたらやってやる。やればいいんだろ。
「わかりました。俺が責任取ります。だからリチャード、ちゃんと俺と相談してから物事を決めて欲しい」
「っは、はいっ、わかりました。今まで、申し訳ありませんでした!」
理解してるかどうかわかんないけど、今はこれでいいかな。
とりあえず、リチャードと和解した俺は、王都の観光名所をガイドブックで確認しつつ、王都の貴族街にある、ゴルドバーグ家の屋敷へ到着したのだった。
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ブクマありがとうございます。




