15 予定は厳しい
15 予定は厳しい
「リチャード? 入るぞー」
マーサに部屋を聞いて、鍵を開けてもらったので、そのまま問答無用で部屋に入る。
慌ててベッドに潜り込むリチャードがいた。
「リチャード、俺の従者になってくれないか?」
部屋の隅にあった椅子をベッドの側まで持って来て、座ってから尋ねた。
リチャードはシーツを頭から被ったまま震えてる。
うーん、なんて言えばいいのかわからない。
「俺はお前に、俺の従者になって欲しいんだけど」
だって、前世の高校生知識無しに頑張れる子なんだぞ? 俺なんか前世の六歳なんて小学校行けるだけでワクワクして寝過ごした馬鹿なのに。
この世界では当たり前なのかもしれないけど、ちゃんとこの歳から仕事に対して向き合おうってしてるだけで、俺から見たら凄いんだ。
そんな凄いヤツに面倒を見てもらえる俺は、きっと絶対、幸せ者だ。
それに――
「それに、俺の友達にもなって欲しい」
ケヴィンと色々馬鹿やってるけど、ケヴィンはやっぱり大人で、一線引かれてる。
気のいい兄ちゃんに遊んでもらってるのであって、一緒に遊んでるわけじゃないんだよ。一緒に馬鹿できる友達が欲しいと思うのは贅沢かな。
リチャードはピクリとも動かない。
「ダメかな……?」
いかん、声が震えた。
リチャードが俺の従者なんかしたくなくて、友達にもなりたくないなら、仕方ないじゃないか。
「ゴメンな。これからは比べないよう、セバス達には俺から言っておくよ。俺は俺で、お前はお前だもんな。今、言ったのは忘れてくれ。したくないなら、それでいいから」
椅子から降りて、扉へ向かった。
「テオドールざまっ!」
振り向くと、リチャードが泣きながら突進して来た。
うおっ!
受け止められなくて、転がってしまう。
「な、なんだ?」
「僕は、テオドール様の、従者に、ふざわしぐないんですー! でも、でも、僕は、大爺様みたいに、きちんと主に仕える従者になりたいんでず! テオドールざまの従者になりたいけど、なれないんでずー! だ、らって、僕は、ぼぐは、なんにもできないがらっ!」
泣きながら訴える、リチャード。
そっか、そんだけ辛かったか。
でも、俺の従者になってくれるんだよな。
「大丈夫だ、大丈夫だよ。お前はちゃんとしてる。なんにもできないなんて事は絶対にないから。俺の従者になりたいんだろう? じゃあ、なればいい。俺が許す。俺の従者になってくれ」
何ができるかできないかは、これからだろう。
たった六歳でなんでもできる方が問題だ。
尊敬する曽祖父のようになりたくて、周りの期待も大きくて、なかなか思うようにいかなくて、さらには俺の前世知識と比べられて一杯一杯になっちゃったんだな。
悪かった。
リチャードの頭を、落ち着くまで撫でてやる。
「大丈夫だよ、その心さえあればきっと、セバスの歳になるまでに、絶対追い抜いているから。大丈夫だ、問題ない」
「テオドールざまぁ」
「俺の従者になってくれるか?」
「あいっ!」
力強く頷いてくれたので、二人で父上に報告に行った。
リチャードは泣くだけ泣いて、俺の従者に収まったせいか、すっきりした顔をしていた。たぶん自分でも気持ちが整理できてなかっただけだったのかもしれない。
父上は、「よろしく頼むね」と、にこにこ笑っていた。
結局のところ、重圧を勝手に背負い込んだだけなんだけど、そんな責任感の強さも、従者としては、充分に素質があるんじゃないかな。
もう少し落ち着いたら、俺を友達扱いしても大丈夫だって教えよう。
そうだ、ケヴィンを少し見習わせてもいいかもしれない。
◇
次の日の朝。
「おはようございます、テオドール様っ」
にこにこ顔のリチャードが、朝の準備を用意していた。
うん、元気になったようだ。よかった。
よかったのはよかったんだけど……
「テオドール様、今日の予定は、午前中は勉強、午後から剣術の稽古になっております」
がっちり予定が組まれているのには、抗議したい。
今まで好きなようにスケジュールを組んでいたんだから、好きなようにさせろー!
「ですが、家庭教師の方の予定が組めないから、ちゃんと予定を組むよう、大爺様から申しつかっております。王都から帰ってからになりますが、今から準備をするようにと」
「じゃ、じゃあ、予定に、乗馬の練習も組み込んでください。遠乗りの予定もお願いします」
「はいっ、畏まりました」
やる気に水を差したくないので、頼んでみると、うっきうきで受諾してくれた。
……当分これが続くんだろうか。
なんか、メンドくせえ……。
読んでくださってありがとうございます。
ブクマありがとうございます。
 




