表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/19

6.ああ、私の勘が当たってしまった!

Oh my prophetic soul!



 さあ、今度こそ結果が出そうな気がする。真剣勝負だ。

 いつものように、ウサギのスウィーニーを、適当にあしらって、私たちはゲームに再挑戦した。もう一度、ナレーションの文にすべてに注意することにしよう。仕込まれた手掛かりのどれもを見逃さないように。


――

 このおはなしの主人公のわたし――、ミランダという名前の、十四歳のむすめです。弟のアリエルといっしょに、まわりを高い山々でかこまれたべリアル(Burial)村で静かに暮らしています。わたしたちはみなしごで、両親はとうの昔になくしました。

 ある日、わたしは弟と、コケモモ摘みに、森の奥へと入っていきました。摘み取ったコケモモをジャムにして、それを売ることで、私たち兄弟はどうにか生活することができました。わたしたちの作るジャムはとてもおいしいと、いまでは、村人たちからうわさされるようになっています。でも、それもそのはず。わたしたちが取るコケモモは、森の奥深くまでいった秘密の場所にだけ生えていて、とても甘いものでしたから。

 今日も長い時間、わたしはコケモモを摘んでいました。でも、森はわたしが知っている世界よりもずっと大きな世界なのです。そして、わたしはあたらしい場所を探しに、つい夢中になってしまい、いつもより森の奥へともぐり込んでしまっていたのです。


 気がついたら、弟の姿がいなくなっていました。

『アリエルー、どこにいったの?』

 わたしは大声をあげて、弟を呼びました。でも、ハシバミの深いやぶが、わたしの前に立ちはだかって、行く道をふさぎました。

『お姉ちゃーん』

 弟の声がきこえました。

『アリエル。勝手にうろついちゃだめって、あれほどいったでしょ』

 わたしは走って近くに行って、弟を抱きしめました。

『ごめんね。お姉ちゃん。かわいらしいウサギさんがいたから、つい追っかけちゃったんだ』

 アリエルはうつむきながら、けろっと言いわけをしました。

『さあ、戻らなきゃ。でも、ここは……?』


 そこはわたしたちの知らない場所だったのです。

 わたしは急いでうちへ戻ろうとしましたが、どこをどう間違えたのか、いつまで歩いても、さびしくて同じような景色がくり返すだけ。どんなにがんばっても、村へたどり着くことはありませんでした。

 歩きつかれて、お腹はぺこぺこ。朝に森に入ったのに、もうお日さまはとっぷりと暮れてしまって、あたりは真っ暗です。遠くの闇の向こうから、ホーホーと、フクロウの気味の悪い泣き声が聴こえてきます。


 さあ、大変。森の中は夜になると、どんどん寒くなってくるのです。おうちに帰れないどころか、へたをすると、このまま凍えて死んでしまうかもしれません。

 弟とわたしはお互いに声をかけ合って、はげまし合いながら、歩き続けました。でも、もうそれも限界です。

 ああっ、遠くにあかりが……。いいえ、あれはお星さまなんかではありません。きっと人がともす灯りに違いありません。わたしたちは、元気を取り戻すと、そのちらちらと輝くかすかな灯りを目指して、歩きはじめました。ぼんやりしていた灯りが、ゆらゆらと、しだいに近づいてきます。

『ああ、よかった』

 思わず、わたしは胸をなでおろしました。

 でも、おどろいたことに、それは、とても大きなお屋敷の灯りだったのです。

『こんな森の奥深くに、こんな立派なおうちがあるなんて……』

 わたしは玄関の前に立って、太い呼び鈴のひもを引っ張ってみました。すると、ぞっとするような鐘の音が、あたりにひびき渡ります。

 さあ、これからいったい、どんな人物がとびらの向こうにあらわれるのでしょうか……。


 出てきたのは、意外にも、白いひげを生やした、とてもやさしそうな、おじいさんです。

『どうかなさいましたか?』

『はい、べリアル村に住んでいるものです。コケモモ摘みに森へ入ったのですが、道に迷ってしまいました。今晩、こちらに泊めてもらえないでしょうか』

 老人は品を定めるように、わたしの顔とからだに視線をくばると、やがて、

『分かりました。そとはお寒いことでしょう。どうぞお入りください。

 わたくしは、このお屋敷、鵺鳥ぬえどり邸にて執事をつとめております、アルフレッドと申します。どうぞ、お見知りおきを。

 さて、わたくしは、お客さまがたのことを、どのようにお呼びすればよろしいでしょうか』

と、訊ねてきました。

『ええと、私はミランダ。それから弟はアリエルと申します』

 すると、アルフレッドと名のった、白い髭のおじいさんは、胸ポケットから手帳を取り出して、続けていいます。

『すてきなお名前ですね。どのように書けばよろしいのでしょうか』

 ちょっとおかしな感じを受けましたが、わたしはそれを顔に出すことなく答えました。

『はい。ミランダは、M、I、R、A、N、D、A。アリエルは、A、R、I、E、L、です』

 アルフレッドは、メモになにやら書き留めると、にっこりと歯を見せました。

『分かりました。いま、ご主人さまにご承諾をいただいてまいりますから、中でお待ちください』


 お屋敷の中は、わたしの想像をはるかに超えた、夢のような世界が広がっていました。高い天井につるされた豪華なシャンデリア。どこまで続くのか分からない、曲がりくねった長い回廊。あちこちに飾られた、絵画やガラス細工などの、きらびやかな装飾品。

 アルフレッドについて回廊を進むわたしたちは、もう三回くらいはかどを曲がったでしょうか。ようやく、ある部屋にたどり着きました。


『寒かったでしょう。おからだを温めたほうがよろしいですね。シャワーがありますからお入りください。

 そうでした。このお屋敷の奥さまは、とてもきれい好きな方でございまして、お食事の際には粗相そそうのないようにしていただく必要がございます。そこで、すべてのおからだの箇所はしっかりとお洗いになり、くれぐれも洗い残しのないよう、お気をつけくださいませ。お食事は、そのあとすぐに、ご用意いたしておきます』

 そういうと、アルフレッドはかしこまってお辞儀をしました。


Q1 さあ、あなたはどうする?

1.提案を承諾して、シャワーを浴びに行く

2.提案を拒否する

  ――


 この質問は、答えのどちらを選んでも、ストーリーの結果に影響しないことは分かっている。


 私たちは、Q1に対して、2を選んだ。


――

 わたしは、今はシャワーを浴びたくはありませんと、丁重にお断りをしましたが、

『ははは……。お嬢さま。このような寒い夜には、お風邪を召されてしまいますよ。さあさあ、お食事の前に、温まってきてください』

と、執事のアルフレッドは笑いながら取り合ってはくれません。仕方なく、わたしはシャワーを浴びることにしました。


『さあ、お嬢さんは奥のシャワー室をご利用ください。弟さんは、手前のシャワー室でお願いしますよ』

 いわれるがままに、わたしは奥のシャワー室へと向かいました。シャワー室とはいいながら、そこは、ライオンの口からお湯がながれ出る大きな湯船がある、とても豪華な浴場でした。おどろいたことに、どの湯船も桶も、ぜんぶが金色をしています。

 置いてあった石鹸は泡立ちが細やかで、からだにぬると肌にしみこんでくるような、ここちよい感じがしました。とてもいい匂いが浴場の中にみちあふれます。温かいお湯で洗いながすと、すべすべしたわたしの白い地肌があらわれました。

 どのくらいそこのいたのでしょう。やがて、わたしは至福の喜びにみちあふれながら、浴槽をあとにしたのです。


 広間にもどってくると、執事のアルフレッドが待っていました。

『では、これからお食事にいたしましょう。さあ、食堂へどうぞ』

 そういえば、弟がいません。

『アリエルは?』

『はて、弟さんは、シャワーを終えたあと、撞球室に展示された武具の装飾品にご興味をしめされたみたいで、行ってしまわれました。きっと、そのうちにもどってみえることでしょう』

と、執事は特に心配するようすもなく、いつものとおり、にっこりと笑っていました。


 わたしの目の前はとてつもなく広いホールとなっています。奥の右手に玄関につながる廊下が見えます。その手前の右側の壁には、大きなドアが二つあります。左側の手前には二階へのらせん階段があります。そして、その階段の向こうの左手の壁には、食堂へ行く扉があります。


Q2 さあ、あなたはどうする?

1.食堂へ行く。

2.右手前のドアの部屋に行く。

3.右奥のドアの部屋に行く。

4.階段を上る。

  ――


「まずは、ドローイングルームだったよね」

「はい。そうですね」


 私たちは、Q2に対して、3を選んだ。


――

 右奥のドアを開けると、そこはドローイングルームでした。

 ドアを入った真正面には、槍を手にした中世の兵士の鎧が飾られていて、こちらをじっと睨むように立っています。今にも動き出してきそうな雰囲気で、とっても不気味な感じがします。右手の奥の壁にはわたしの背丈よりも高い書棚があって、たくさんの蔵書が収納されています。


Q3.さあ、あなたはどうする?

1.鎧を調べる。

2.書棚を調べる。

3.ドローイングルームを出る。

  ――


「ここで鎧を調べちゃうと、食堂へ強制送還だったから、選ぶべきは書棚だね」

 私たちは、Q3に対して、2を選んだ。


――

 書棚を調べると、本の奥に小物入れが隠されていました。すると、その中から、ちいさな鍵が出てきました。わたしは思わず周りを見渡して、誰も見ていないことを確認すると、そっと、その鍵をポケットに滑り込ませました。悪いことだとは思いますけど、弟と再び出会うために、何となく必要になりそうに思われるからです。


 わたしは奇妙な鍵を手に入れた。


Q3.さあ、あなたはどうする?

1.鎧を調べる。

3.ドローイングルームを出る。

  ――


「鍵を手に入れたから、ここを出るしかないよね。鎧は調べちゃいけないんだから」

「ですね」


 私たちは、Q3に対して、3を選んだ。


――

 わたしの目の前はとてつもなく広いホールとなっています。奥の右手に玄関につながる廊下が見えます。その手前の右側の壁には、大きなドアが二つあります。左手前には二階へのらせん階段があります。そして、階段の向こうの左手の壁には、食堂への扉があります。


Q2 さあ、あなたはどうする?

1.食堂へ行く。

2.右手前のドアの部屋に行く。

3.右奥のドアの部屋に行く。

4.階段を上る。

  ――


「ここでの答え1、2、4は、いずれも食堂へ連れていかれることになってしまうと……」

「そうです。でも、私たちは今、ドローイングルームで鍵を手に入れています」

「うん。だから、鍵を手に入れた今なら、2番の書斎へ行けば、状況が変わっているはずなんだ。そういえばさ、書斎に入ると、怪しげなナレーションがあったもんね」

「きっとそうです。さあ、あいちゃん。いきましょう」


 私たちは、Q2に対して、2を選んだ。


――

 右手前のドアを開けると、中には、火のくべられた暖炉と、私の背よりも高い本棚と、桃花心木マホガニー製の雀色をした巨大な机がありました。どうやら、ここは書斎のようです。

 わたしは引き寄せられるように、そろそろと中へ入りました。

 本棚の中の本は難しそうなものばかりです。わたしは文字を読むのが苦手なので、これらがどんな本なのかはよく分かりませんでした。

 暖炉の上には、額に入った肖像画が掛かっていました。髭をはやして軍服を着た屈強な男の人で、その鋭い眼光は、部屋のどこにいても見つめられているような気がしました。

 机の上はきれいに片づけられていて、鵞鳥の羽で作られたペンと、縁が丸まった羊皮紙、それに、青いインク壺が乗っています。

  ――


 そしてこのあと、ついに、私たちが待ちに待った新しいナレーションが流されることになる。


――

 わたしは机の引き出しを開こうとしましたが、鍵が掛かっていて、開きませんでした。引き出しには、鍵穴が付いています。そこで、わたしはドローイングルームの小物入れの中にあった鍵を、鍵穴に差し込んで回してみました。すると、どうでしょう。鍵穴はくるりとまわって、かちゃりと音がしました。引き出しが開いたのです。


 中から出てきたのは、メモが書かれたちいさな一枚の用紙であった。



  POOR SO PEEK.


  ASTEYMUKM SOPPULO ME

  UYAOD UKN SAYUKNU.

  


 わたしは謎のメモを見つけた。


 すると、その時です。

『ミランダさま。どこに行かれましたかー?』

 あっ、外でアルフレッドがわたしを探している声がします。わたしはこっそりと書斎を抜け出しました。


Q2 さあ、あなたはどうする?

1.食堂へ行く。

3.右奥のドアの部屋に行く。

4.らせん階段を上る。

  ――


「なに、これ?」

「暗号ですね。わくわくしてきました」

「うわーん。何書いてるのか、ちんぷんかんぷん。チイちゃん、分かる?」

「ええと、文章が2つありますね」

「そうだね。チイちゃんって、冷静……」

「最初の文章は、意味が取れます。とても変な意味ですけど……。

  POOR SO PEEK.

 貧しき、故に、のぞく――」

「どういう意味?」

「分かりません。よりによって、『PEEK――盗み見をする』なんて、普段は使われないめずらしい単語ですよね」

「へえ、そうなんだ……。じゃあ、その後に続く言葉は?

  ASTEYMUKM SOPPULO ME――?」

「全く分かりません」

「ロシア語かな? それとも、スワヒリ語?」

「そんな暗号、そもそも出題するでしょうか? もし、そうだったら、お手上げですよね」

「そうだよね。でもさ、江戸だったか、明治だか、わけ分かんない名前だったウサギさん。いけずな感じ、もんもんだったもんね」

「あまり意地悪そうな印象はなかったですけど……。とにかく、出だしの文章は間違いなく英語です。だから、2番目の文章も、きっと英語なのではないでしょうか? それを解読することが私たちの任務ですね。


  ASTEYMUKM SOPPULO ME

  UYAOD UKN SAYUKNU.


という不思議な文章を……」

「うん、そうだね。頑張ろう!

 さあ、謎のメモも手に入れたことだし、いよいよ食堂へ乗り込んで、男爵と一騎打ちだね」

「そうですね……」

「どうしたの、チイちゃん」

「うん。あいちゃん、何か違和感を感じませんか?」

「ううん、ぜんぜん……」

「そうですか……」

「食堂には、たしか、どうやっても行けたよね。1を選んでも、3からドローイングルームに入って、鎧を調べても、4のらせん階段をのぼっても……。

 だったら……」

「あっ、そうか! あいちゃん。ちょっと選択するの、待ってください!」

 突然チイが声を張り上げて、私を制止した。

「えっ、チイちゃん。なになに?」

「私、あることに気づきました。たった今、あいちゃんがしゃべってくれたことの中に……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ