5.人生なんて歩き回る影法師、哀れな役者にすぎない。
Life is but a walking shadow,
a poor player.
私たちは、再度ゲームにチャレンジした。お決まりのナレーションのあと、さっそく最初の質問の場面にやって来た。
――
『寒かったでしょう。おからだを温めたほうがよろしいですね。シャワーがありますからお入りください。
そうでした。このお屋敷の奥さまは、とてもきれい好きな方でございまして、お食事の際には粗相のないようにしていただく必要がございます。そこで、すべてのおからだの箇所はしっかりとお洗いになり、くれぐれも洗い残しのないよう、お気をつけくださいませ。お食事は、そのあとすぐに、ご用意いたしておきます』
そういうと、アルフレッドはかしこまってお辞儀をしました。
Q1 さあ、あなたはどうする?
1.提案を承諾して、シャワーを浴びに行く
2.提案を拒否する
――
「ここはどちらを選択しても結果は一緒だったよね」
「はい、そう思います」
「じゃあ、1番で行くよ」
「ええ」
私たちは、素直に1番を選んだ。
――
『さあ、お嬢さんは奥のシャワー室をご利用ください。弟さんは、手前のシャワー室でお願いしますよ』
いわれるがままに、わたしは奥のシャワー室へと向かいました。シャワー室とはいいながら、そこは、ライオンの口からお湯がながれ出る大きな湯船がある、とても豪華な浴場でした。おどろいたことに、どの湯船も桶も、ぜんぶが金色をしています。
――
「ここでアリエルとは離れ離れになっちゃうんだね。物語の最後には再会できるのかなあ」
「きっとそういうハッピーエンドのシナリオが用意されていると思います。私たちが最善を尽くせばね」
「うん、チイちゃん。頑張ろうね」
――
置いてあった石鹸は泡立ちが細やかで、からだにぬると肌にしみこんでくるような、ここちよい感じがしました。とてもいい匂いが浴場の中にみちあふれます。温かいお湯で洗いながすと、すべすべしたわたしの白い地肌があらわれました。
どのくらいそこのいたのでしょう。やがて、わたしは至福の喜びにみちあふれながら、浴槽をあとにしたのです。
広間にもどってくると、執事のアルフレッドが待っていました。
『では、これからお食事にいたしましょう。さあ、食堂へどうぞ』
そういえば、弟がいません。
『アリエルは?』
『はて、弟さんは、シャワーを終えたあと、撞球室に展示された武具の装飾品にご興味をしめされたみたいで、行ってしまわれました。きっと、そのうちにもどってみえることでしょう』
と、執事は特に心配するようすもなく、いつものとおり、にっこりと笑っていました。
わたしの目の前はとてつもなく広いホールとなっています。奥の右手に玄関につながる廊下が見えます。その手前の右側の壁には、大きなドアが二つあります。左側の手前には二階へのらせん階段があります。そして、その階段の向こうの左手の壁には、食堂へ行く扉があります。
Q2 さあ、あなたはどうする?
1.食堂へ行く。
2.右手前のドアの部屋に行く。
3.右奥のドアの部屋に行く。
4.階段を上る。
――
「来た来た。謎めいた四択質問だー」
「そうですね。私はここの応対で、今までは失敗していたんじゃないかと思うんです」
「えっ、そうなの? うちら、これまでどうしていたんだっけ?
ええと、最初は4番の階段を選んだんだよね。でも、アルフレッドに見つかって、そのまま食堂に連れられて行っちゃったんだっけ? それから、二回目は2番の右手前のドア。そこはあやしげな書斎だったんだけど、結局はなんにもなかった……」
「そうですね」
「じゃあ、うちらが選ぶのは、3番目の右奥のドアってことよね」
「そうです。あいちゃん、選んでください」
「うん」
私たちは、Q2に対して、3を選んだ。
――
右奥のドアを開けると、そこはドローイングルームでした。
ドアを入った真正面には、槍を手にした中世の兵士の鎧が飾られていて、こちらをじっと睨むように立っています。今にも動き出してきそうな雰囲気で、とっても不気味な感じがします。右手の奥の壁にはわたしの背丈よりも高い書棚があって、たくさんの蔵書が収納されています。
Q3.さあ、あなたはどうする?
1.鎧を調べる。
2.書棚を調べる。
3.ドローイングルームを出る。
――
「ようやく見つけたね。質問のQ3を」
「そうですね。これが謎を解くカギだと思います」
「じゃあ、どっちにする。1か2か?」
「あいちゃん、一回3番を選んでみませんか?」
「ええっ、なんで、なんで? さすがに3番はないでしょう。せっかく、この部屋に入れたんだよ」
「そうなんですけど、ちょっと確かめてみたいんです。部屋を出たあとで、私たちはQ2に戻れるのか、それとも、食堂に連れられてしまうのか」
「だって、食堂に連れられて行ったら、このゲームも失敗しちゃうかもしれないんだよ。5ゴールドが無駄になっちゃう」
「そうですよね。でも、ちょっと試してみたいんです。今回の5ゴールドは私が払います」
「いいよ、お金は順番に払うってことで。あっ、でも、今回はチイちゃんが払う番だったよね!」
「あっ、そうですね。じゃあ、いいですか?」
「うん。もちろん」
私たちは、Q3に対して、3を選んだ。
――
部屋を出ると、わたしは、またとてつもなく広いホームの中にいます。
奥の右手に玄関につながる廊下が見えます。その手前の右側の壁には、大きなドアが二つあります。左手前には二階へのらせん階段があります。そして、階段の向こうの左手の壁には、食堂への扉があります。
Q2 さあ、あなたはどうする?
1.食堂へ行く。
2.右手前のドアの部屋に行く。
3.右奥のドアの部屋に行く。
4.階段を上る。
――
「ああっ、やったよ。Q2に戻れた!」
「やりましたね、あいちゃん」
「うん。じゃあ、こんどは階段に上ろうか?」
「あいちゃん、ここでボケをかまさないでください。もう一回、ドローイングルームに入りましょう」
「あはは、そうだよね」
私たちは、Q2に対して、3を選んだ。
右奥のドアを開けると、そこはドローイングルームでした。
ドアを入った真正面には、槍を手にした中世の兵士の鎧が飾られていて、こちらをじっと睨むように立っています。今にも動き出してきそうな雰囲気で、とっても不気味な感じがします。右手の奥の壁にはわたしの背丈よりも高い書棚があって、たくさんの蔵書が収納されています。
Q3.さあ、あなたはどうする?
1.鎧を調べる。
2.書棚を調べる。
3.ドローイングルームを出る。
――
「今度はどっち? 1番、2番?」
「さあ、どちらでしょう。いずれにしろ、そのどちらかが正解への通過点です」
「うーんとね。鎧はアリエルへの手掛かりをくれそうな気がする」
「そうですね。たしかどこかで、そんなこといっていましたよね」
「そうなのよ。だから、ここは2番を選んじゃうんだ」
「えっ、あいちゃんの思考回路が、私にはよく分からないんですが……」
「うん、ここは単にあたしの直感オンリー。いいかな?」
「はい、あいちゃんの直感を信じましょう」
私たちは、Q3に対して、2を選んだ。
――
書棚を調べると、本の奥に小物入れが隠されていました。すると、その中から、ちいさな鍵が出てきました。わたしは思わず周りを見渡して、誰も見ていないことを確認すると、そっと、その鍵をポケットに滑り込ませました。悪いことだとは思いますけど、弟と再び出会うために、何となく必要になりそうに思われるからです。
わたしは奇妙な鍵を手に入れた。
Q3.さあ、あなたはどうする?
1.鎧を調べる。
3.ドローイングルームを出る。
――
「やったあ」
「あいちゃん、すごいです」
「あたしってば、直感だけは超一流なのよ」
「そんなことないです。私一人だったら、絶対に1番を選んじゃったと思います。あいちゃんは天才です」
「とにかく、秘密の鍵をゲットしたから、正解に一歩近づいたことは間違いないね。じゃあ、次はいよいよ、めちゃめちゃ怪しい鎧を調べちゃおっか?」
「そうですね。そこにも何か手掛かりが隠されているといいですね」
私たちは、Q3に対して、1を選んだ。
――
鎧を調べていた時、わたしはうっかり腕の防具に触れてしまい、防具を床に落としてしまった。ガチャ、ガチャ、ガシャン、と金属が転がる大きな音が鳴り響いた。はっと後ろを振り向くと、アルフレッドの影が、ドローイングルームの入口のドアの前に立っている。
『ごめんなさい、ちょっと見ていたら、壊しちゃって……』
わたしは素直に謝ると、意外にも、アルフレッドはニコニコしながら、
『さあ、お食事の用意ができておりますよ。ミランダさま』とわたしに声を掛けて、わたしを食堂に招き入れました。
――
「あれれれ? 怒られちゃうかと思ったけど、アルフレッドって、案外、いい人なのかな?」
「さあ、どうでしょう。でも、そうだといいですよねえ」
「うーん。とにかくさあ、謎の鍵はゲットしたんだから、このあとも、どうにかなるっしょ」
「ですねえ。でも、その鍵は、いったい、どこで使うんでしょうか?」
「決まってるじゃない。あ、そ、こ、あそこよ……」
「あいちゃん。あのお、あそこって、どこなんですか?」
「あそこは、あそこよ。牢屋――。きっと、この鍵はあの牢屋の錠を開く鍵なのよ!」
「なるほど。きっと、そうですよね」
「うんうん。これで、あのいけずな牢屋の番人も、ちっとも怖くないんだから」
――
食堂の中は、とても広くてきれいです。ゆうに十人は座れる、白い清潔なクロスが掛けられた、大きな長いテーブルがどんと置かれていて、ところどころに蝋燭が灯されています。正面には男爵さまと、その隣に奥さまが座っていました。
『やあ、お客さんかな。これは可愛らしい娘さんだ。さあ、こちらにいらっしゃい』
タキシード姿の男爵さまは、髪の毛を油でべったりと固めた、ちょび髭の似合う、ハンサムな紳士です。お齢の頃は、三十くらいでしょうか。
『本当にきれいな肌をした娘さんだこと。まるで、ドリュアス(美しい木の精霊)を見ているようだわ』
と、奥さまは、わたしの顔を品定めするみたいに、じっと見つめられていました。赤いロングドレスを身にまとい、しょうが色をした長い髪が自慢の、きれいなご夫人です。
『さあ、遠慮なくどんどん食べてください』
男爵さまはわたしに食事をとるように勧めてくれました。おなかはぺこぺこ。湯気がほのかにほとばしる料理は、とても美味しそうです。
Q4 さあ、あなたはどうする?
1.遠慮なく、料理をいただく。
2.弟が来るまで、料理をいただくのは待つという。
――
「カクテルは飲まないようにして、牢屋に直行便で行こうね」
「はい」
このあと、私たちはQ4では、食事をいただく、と答え、その後のQ6からQ8までの、カクテルを飲みなさい、という質問には、ことごとく拒否をする返答を繰り返し、ついに、レックスが監視する牢屋の中に閉じ込められることになった。
――
気がつくと、わたしは地下牢に閉じ込められていました。
ぼんやりとしていた視界が、徐々にはっきりと見えてきました。
格子の向こうにポツンとランプの灯りが見えます。
誰かが椅子に座って、こっちをじっと見つめているみたいです。
『あなた、誰?』
思わず声を出して、わたしは相手の名前を訊ねていました。
『俺かい? 俺さまは、このお屋敷の衛士、レックスだ。ご主人さまの命令で、お前を見張っている』
やせ気味で、頼りなさそうに肩をすくめた男が、にやにやしながら、こちらに向かって返事をしました。
『つまり、牢屋の番人さんなのね?』
『番人じゃねえよ。衛士だ。
お嬢ちゃん、呼び方にはくれぐれも気をつけるこったな。そんなんじゃ、命がいくつあっても足りねえぜ』
『それじゃあ、衛生士さん。お願いだから、わたしを牢屋から出してくれないかしら?』
『あのなあ、衛生士じゃなくて、衛士だ。鵺鳥邸の警備を担当する、由緒正しき職務なんだよ。
それにさ、せっかく捕えた獲物を、簡単に逃がすわけがねえじゃねえか?』
『獲物?』
『おおっと。俺さまとしたことが。おしゃべりは禁物だ』
牢に閉じ込められたわたしの前には、番人のレックスがいます。
Q9 さあ、あなたはどうする?
1.主人について訊ねる。
2.牢から出してくれないか、頼んでみる。
3.このような仕打ちをする目的を訊ねる。
――
「じゃあ、順番に答えて行くよ。今回は鍵を持っているから、以前とは別の反応をレックスがしてくるかもしれないしね」
私たちは、Q9に対して、まず最初に、1を選んだ。
――
『男爵さまって、どんなお方なの?』
『ご主人さまは、俺たちの頂点に君臨される偉大なるお方だ』
牢に閉じ込められたわたしの前には、番人のレックスがいます。
Q9 さあ、あなたはどうする?
2.牢から出してくれないか、頼んでみる。
3.このような仕打ちをする目的を訊ねる。
――
「前となにも変わっていないね。じゃあ、次は2を行くよ」
私たちは、Q9に対して、2を選んだ。
――
『お願いだから、ここから出してもらえないかしら? わたしは弟のアリエルを探しているのよ』
『ふふふっ。そいつは無理なお願いだな。もっとも、俺さまに牢を開けることなど、実は、出来はしないのだけどね。おおっと、またまた、しゃべり過ぎちまったかな?』
牢に閉じ込められたわたしの前には、番人のレックスがいます。
Q9 さあ、あなたはどうする?
3.このような仕打ちをする目的を訊ねる。
――
「やっぱ、残りはこれしかないね」
私たちは、Q9に対して、3を選んだ。
――
『決まっているじゃねえか。お前さんは、ご主人さまの餌となるんだ。
実をいうとな、ご主人さまは、偉大なる人狼閣下なんだよ』
人狼閣下――、どういうことかしら……? そうだ、アリエルのことを訊かなくちゃ。
『わたしの弟は?』
『弟だって? さあね、そいつは知らねえな』
どうやら相手にならないみたいです。わたしが話すのをやめると、レックスは逆につまらなそうにしていましたが、しばらくすると大いびきをかいて寝込んでしまいました。
Q10 さあ、あなたはどうする?
1.ここはじっとおとなしくしている。
2.牢屋の脱出を試みる。
――
「さあ、こんどこそ、2番の、脱出を試みるだね」
「はい、そして鍵が効果を奏するというわけですね」
「うん。じゃあ、いくよ」
私たちは、Q10に対して、2を選んだ。
――
衛士レックスが居眠りをした隙を盗んで、わたしは牢屋からの脱出を試みましたが、鉄格子はとても頑丈で、どの行為もむなしく失敗に終わりました。
ああ、わたしはここから一生出られないのかもしれません。弟のアリエルも行方知れずだし。こんな恐ろしい屋敷に来なければよかったと、いまさらになって後悔をしたのですが、それもあとのまつりでした。
ゲームエンドです。お疲れさまでした。
――
「ううっ、なんでじゃあ。鍵が牢屋を開けるのに全然役に立たなかったじゃないの?」
「どうやら、あの鍵は別の場所で使うみたいですね。残念です」
「どうしよう。もう、なすすべがないんじゃない?」
「私、思うんですけど、ドローイングルームで鍵を見つけたあとで、もう一回、書斎に入るのではないですか? あの鍵は、レックスの牢屋の鍵じゃなくて、なにか、書斎の中にあるものための鍵である可能性があります」
「なるほど……。そっかあ、チイちゃん、頭いい!」
「もう一回やってみますか。あいちゃん」
「うん、そうしよう!」